飲酒後に血圧を測定すると拡張期・収縮期ともに低下したという経験をお持ちの方は多いと思います

単回飲酒は数時間の間血圧を硬化させますが、長期間常用するとむしろ上昇します

高血圧の方は男性でエタノールで20~30ml(日本酒なら1合、ビール中瓶1本)で女性はその半分にし休肝日を設けることが良いようです

 

8月7日~13日の長期休診をさせて頂き無事、新クリニックに移転することができました

まだネット環境など一部不完全なところはありますが日常診療は新しい環境で無事再開させて頂いております

念願のCTも順調に稼働しており、ワークステーションを用いて画像を加工し「肺動静脈抽出」「バーチャル気管支鏡」「3D骨再構成」など役に立つ多彩な機能に私自身も感嘆しております

今月末ごろからは約2月間の旧クリニックの解体工事が始まります

その後整地・舗装・塀とゲートの設置をして年末ごろに工事は完成する予定です

その間は、玄関前の駐車スペースは使用できなくなり乗降用のみになると思います

大変ご迷惑をおかけいたしますがもうしばらくお付き合いください

受診に関しましてお困りのことがありましたら当院までお電話お頂けましたら幸いです

下の写真は8月14日に当院で撮影したものです

 

 

連日の猛暑の影響で血圧が低下傾向の方も多いと思います

収縮期血圧が90mmHgを下回ると低血圧ですからさすがにそこまで低下すると降圧剤の減量または中止が必要です

ところで、高血圧が心不全のリスクであることはよく知られた事実で降圧という介入により心不全の発症が予防できることも知られています

高血圧に関する大規模臨床試験のSPRINT試験では収縮期血圧140mmHg未満を目標にしたグループより120mmHg未満を目標にした厳格治療群が心不全発症が少なかったそうです

降圧剤の調節については主治医とよく相談してください

 

自律神経には交感神経と副交感神経があり、それぞれ逆の作用を持っているということはご存じだと思います

交感神経は血圧を上昇させ脈拍を増やし気管支を拡張し腸管運動は低下させます

一方、副交感神経はその逆で血圧を低下させ脈拍を減らし気管支を収縮し腸管運動は亢進します

脳から出た自立神経は末梢の組織まで神経線維を通じて電気信号を送り目標とする臓器の活動をコントロールします

この自律神経線維には目標臓器の手前に中継地点があり、神経と神経の継ぎ目(神経節)があります

この神経節だけは電気信号ではなく神経伝達物質という化学物質が刺激を伝達します

交感神経ではノルアドレナリン、副交感神経ではアセチルコリンです

神経節の手前の神経線維(節前線維)から放出された神経伝達物質は極めて狭い神経の継ぎ目を移動し節後線維の受容体に結合し刺激を伝えます

交感神経節後線維のノルアドレナリン受容体にはいくつかの種類があり、β受容体と呼ばれるものが存在します

β受容体にはさらにβ1とβ2受容体があり臓器によって分布が異なります

心臓には主にβ1受容体が、気管支には主にβ2受容体が分布します

ですので、心拍数を低下させたいが気管支の収縮させたくないという場合にはできるだけβ1受容体のみを選択的に阻害するβ遮断薬を選んで用いなければいけません

つまり、気管支喘息を合併した心不全ではできるだけβ1選択性の高いβ遮断薬を用いる必要があります

ただ、注意が必要なのですが多くの薬剤情報に記載されている情報は動物実験に基づいている情報も多く人間とは若干状況が異なる場合もあります

また心臓にはβ1受容体、気管支にはβ2受容体と言いますが100%ではありませんし、薬剤のβ1選択性と言っても必ずしも100%ではありません

ですので気管支喘息合併心不全の治療には細心の注意が必要です

 

新クリニック移転まで一か月を切りました

ご迷惑をおかけし申し訳ありません

 

 

 

 

新クリニックも外観はほとんど完成し現在は内装工事が急ピッチで進んでいます

それと並行して引っ越しの準備でスタッフも皆さん頑張ってくれています

新クリニックでは建物が新しくなるだけではなく医療の内容もさらに進化したいと考えています

その一つが

キャノンメディカルシステムズ社製の80列マルチスライスCTです

https://jp.medical.canon/products/computed-tomography/aquilion_lightning_he_feature

0.5ミリスライスの高画像CTをいつでも予約なしで撮影することが可能になります

8月初めまでに新しくスタッフを4名増員しさらに充実した医療をと思っております

 

 

 

夏場は冬に比べて血圧が下がりやすく、過降圧のためふらつきやめまい・倦怠感を自覚する方も多いと思います

過降圧に関して、「どれだけ血圧を下げ過ぎるとどんな副作用があるのか」という前向き臨床研究はありません

ですので他の目的で実施された介入研究を後ろ向きに解析して判断するしかありません

しかしデータを後から解析する後ろ向き研究では因果の逆転を生じる可能性があります

たとえば、血圧を下げたために何かのイベントを起こしたのではなく、全身状態が悪化しイベントとともに過降圧がおこった可能性もあります

ですので、実際の臨床の場では厳密な降圧をしながら副作用がないかを慎重に観察し治療を継続することが大切だと思います

高血圧ガイドラインではまず130までは降圧をして、さらに可能なら120までを目指し低血圧の症状が無ければ降圧を緩める必要はないと記載されています

一般に過降圧の判断は収縮期血圧で評価されることが多く、それらの研究では共通して130mmJHgまでは安全に下げられると言われています

とはいえ、実際に降圧剤内服後に眩暈やふらつきがある場合には継続はできません

実は、ネット上で厳格に降圧する方が起立低血圧も減少するという論文も見つけました

https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/M20-4298

ただちに、厳格に降圧をとは思いませんが安易に降圧を中止するのも考え物です

しかし動脈硬化の強い方では過降圧で臓器血流が低下する場合もあります

たとえば腎臓の動脈硬化が強く血流の低下があるような方では過降圧により十分な腎血流が保てなくなり腎機能が低下することもあります

結論として現状を十分観察しながら降圧療法を継続するのが良いと思います

高血圧だから単に薬さえ飲んでおけばよい、というものでは決してありません

 

 

 

 

 

心不全の方がどの程度の運動まで耐えられるかを運動耐容能と呼びます

一般に心不全は

・呼吸困難感などの自覚症状

・心音や呼吸音あるいは浮腫・頸動脈怒張などの身体所見

・胸部X線所見

・心臓超音波での左室駆出分画など

で評価することが一般ですが、それらは全て安静時のデータです

運動時の循環調節能力すなはち運動耐容能は「日常生活の質と予後に直結する因子」として重視されます

これには

・6分間歩行試験:6分間に歩ける距離

・心配運動負荷試験(CPX):最大酸素摂取量や嫌気性代謝閾値などの測定

・身体活動量モニタリング:スマホなどでの歩数などの測定

・質問票(KCCQ):アンケート

などがあるのですが何と言っても精密で最も信頼性穂高いのはCPXです

これは一部の高度医療機関のみで実施可能ですが、心臓移植の適応の判断にも用いられるほど心不全の予後予測因子として信頼性が高い検査です

常々日常の心不全診療で用いたいと思っているのですが

 

新クリニックの建設工事で随分ご迷惑をおかけしております

ご理解とご協力を頂き本当に有難うございます

新クリニック建設工事は8月初めに完了の予定で、8月7日と8月8日の両日で引越しをして8月9日~8月13日までは手直しなどのための予備日として休診させて頂きます

8月14日からは新クリニックでの診療が始まります

また現在のクリニックビルにつきましては9月から解体工事が始まり、その後敷地内の舗装や塀・門扉の設置を行います

年内には全ての工事が終了する見込みですのでもうしばらくお付き合い頂けましたら幸いです

 

 

 

今年改定された心不全診療ガイドライン2025では心不全治療薬としていくつかの薬が追加されました

マバカムテン(カムザイオス)、ブトリシラン(アムヴトラ)、アコラミジス(ビヨントラ)らは肥大型心筋症やアミロイドーシス治療薬として推奨されていますが、フィネレノン(ケレンディア)は糖尿病を伴う慢性腎臓病の方が心不全を発症を予防する効果があると認定され推奨されています

フィネレノンはアルドステロン受容体拮抗薬の一種です

アルドステロン受容体拮抗薬は現在開発中のものも含めて5種類あり、そのうちスピロノラクトンは最も早くから心不全に対する有効性が証明された薬剤の一つです

現在心不全治療薬として認定されているのはスピロノラクトンとエプレレノンの2種類ですが、フィネレノンは糖尿病と慢性腎臓病を合併した方が心不全に陥るのを予防する効果が認められた薬剤です

 

ちなみに以下の表はchatGPTに「ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の特徴をまとめた一覧表を作って」と入力して作成されたものです

ほんの一瞬で出力されたから驚きました

 

 

薬剤名 商品名(代表例) 分類 特徴 主な適応症 副作用
スピロノラクトン アルダクトンA ステロイド系(非選択的) ・最も古い
・非選択的(性ホルモン受容体にも作用)
・安価
・高血圧
・心不全
・原発性アルドステロン症
・高カリウム血症
・女性化乳房(男性)
・月経異常
エプレレノン セララ ステロイド系(選択的) ・MR選択性が高く性ホルモン受容体への作用が少ない ・高血圧
・急性心筋梗塞後の心不全
・慢性心不全(HFrEF)
・高カリウム血症
・腎機能障害
エソレノン ミネブロ ステロイド系(高選択性) ・日本独自のMR拮抗薬
・選択性がさらに高く副作用が少ない
・高血圧 ・高カリウム血症
・腎機能障害
フィネレノン ケレンディア 非ステロイド系 ・新しい薬剤
・組織選択性が高い
・抗線維化・抗炎症作用あり
・2型糖尿病を伴うCKD ・高カリウム血症
・軽度の腎機能悪化
エスポレノン ステロイド系(選択的) ・開発中/海外のみ(国内未承認)
・エプレレノンに近い特性
・情報不十分(臨床データ未確定)

 

心室細動や心室頻拍は致死的不整脈で一度の発作で命を落とすことがあります

この致死的不整脈はいろんな状況でおこりうるのですが心不全に合併するものも稀ではありません

重症心不全の方の死因は心不全による(心臓が生きていくのに必要な血液を供給できなくなった場合)死亡と不整脈による突然死があります

今まではこういった致死的不整脈を治療するための植込み型除細動器(ICD)は「心室頻拍や心室細動からの蘇生後」が適応とされていましたが、それはラッキーにも蘇生に成功した方が対象で蘇生できなかった方への言及がありません

言い換えれば初めての致死的不整脈で命を落とす方への対策がない、ということになります

今年改定された心不全治療ガイドラインでは「心不全患者におけるICDの突然死一次予防」について言及されています

それによると「ガイドラインにのっとった適切な心不全治療が3月以上実施されているにもかかわらず、一定以上の心不全があり左室駆出分画35%以下の虚血性心不全患者」に予防的ICD植え込みが推奨されています

予防的ICD植込みは一度の発作で命を落としかねない致死的不整脈の予防ですから、勧められた方はその必要性が実感しにくいかもしれません

しかし今後予防的ICD]植込みは増えると思います