新クリニックも外観はほとんど完成し現在は内装工事が急ピッチで進んでいます

それと並行して引っ越しの準備でスタッフも皆さん頑張ってくれています

新クリニックでは建物が新しくなるだけではなく医療の内容もさらに進化したいと考えています

その一つが

キャノンメディカルシステムズ社製の80列マルチスライスCTです

https://jp.medical.canon/products/computed-tomography/aquilion_lightning_he_feature

0.5ミリスライスの高画像CTをいつでも予約なしで撮影することが可能になります

8月初めまでに新しくスタッフを4名増員しさらに充実した医療をと思っております

 

 

 

夏場は冬に比べて血圧が下がりやすく、過降圧のためふらつきやめまい・倦怠感を自覚する方も多いと思います

過降圧に関して、「どれだけ血圧を下げ過ぎるとどんな副作用があるのか」という前向き臨床研究はありません

ですので他の目的で実施された介入研究を後ろ向きに解析して判断するしかありません

しかしデータを後から解析する後ろ向き研究では因果の逆転を生じる可能性があります

たとえば、血圧を下げたために何かのイベントを起こしたのではなく、全身状態が悪化しイベントとともに過降圧がおこった可能性もあります

ですので、実際の臨床の場では厳密な降圧をしながら副作用がないかを慎重に観察し治療を継続することが大切だと思います

高血圧ガイドラインではまず130までは降圧をして、さらに可能なら120までを目指し低血圧の症状が無ければ降圧を緩める必要はないと記載されています

一般に過降圧の判断は収縮期血圧で評価されることが多く、それらの研究では共通して130mmJHgまでは安全に下げられると言われています

とはいえ、実際に降圧剤内服後に眩暈やふらつきがある場合には継続はできません

実は、ネット上で厳格に降圧する方が起立低血圧も減少するという論文も見つけました

https://www.acpjournals.org/doi/10.7326/M20-4298

ただちに、厳格に降圧をとは思いませんが安易に降圧を中止するのも考え物です

しかし動脈硬化の強い方では過降圧で臓器血流が低下する場合もあります

たとえば腎臓の動脈硬化が強く血流の低下があるような方では過降圧により十分な腎血流が保てなくなり腎機能が低下することもあります

結論として現状を十分観察しながら降圧療法を継続するのが良いと思います

高血圧だから単に薬さえ飲んでおけばよい、というものでは決してありません

 

 

 

 

 

心不全の方がどの程度の運動まで耐えられるかを運動耐容能と呼びます

一般に心不全は

・呼吸困難感などの自覚症状

・心音や呼吸音あるいは浮腫・頸動脈怒張などの身体所見

・胸部X線所見

・心臓超音波での左室駆出分画など

で評価することが一般ですが、それらは全て安静時のデータです

運動時の循環調節能力すなはち運動耐容能は「日常生活の質と予後に直結する因子」として重視されます

これには

・6分間歩行試験:6分間に歩ける距離

・心配運動負荷試験(CPX):最大酸素摂取量や嫌気性代謝閾値などの測定

・身体活動量モニタリング:スマホなどでの歩数などの測定

・質問票(KCCQ):アンケート

などがあるのですが何と言っても精密で最も信頼性穂高いのはCPXです

これは一部の高度医療機関のみで実施可能ですが、心臓移植の適応の判断にも用いられるほど心不全の予後予測因子として信頼性が高い検査です

常々日常の心不全診療で用いたいと思っているのですが

 

新クリニックの建設工事で随分ご迷惑をおかけしております

ご理解とご協力を頂き本当に有難うございます

新クリニック建設工事は8月初めに完了の予定で、8月7日と8月8日の両日で引越しをして8月9日~8月13日までは手直しなどのための予備日として休診させて頂きます

8月14日からは新クリニックでの診療が始まります

また現在のクリニックビルにつきましては9月から解体工事が始まり、その後敷地内の舗装や塀・門扉の設置を行います

年内には全ての工事が終了する見込みですのでもうしばらくお付き合い頂けましたら幸いです

 

 

 

今年改定された心不全診療ガイドライン2025では心不全治療薬としていくつかの薬が追加されました

マバカムテン(カムザイオス)、ブトリシラン(アムヴトラ)、アコラミジス(ビヨントラ)らは肥大型心筋症やアミロイドーシス治療薬として推奨されていますが、フィネレノン(ケレンディア)は糖尿病を伴う慢性腎臓病の方が心不全を発症を予防する効果があると認定され推奨されています

フィネレノンはアルドステロン受容体拮抗薬の一種です

アルドステロン受容体拮抗薬は現在開発中のものも含めて5種類あり、そのうちスピロノラクトンは最も早くから心不全に対する有効性が証明された薬剤の一つです

現在心不全治療薬として認定されているのはスピロノラクトンとエプレレノンの2種類ですが、フィネレノンは糖尿病と慢性腎臓病を合併した方が心不全に陥るのを予防する効果が認められた薬剤です

 

ちなみに以下の表はchatGPTに「ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の特徴をまとめた一覧表を作って」と入力して作成されたものです

ほんの一瞬で出力されたから驚きました

 

 

薬剤名 商品名(代表例) 分類 特徴 主な適応症 副作用
スピロノラクトン アルダクトンA ステロイド系(非選択的) ・最も古い
・非選択的(性ホルモン受容体にも作用)
・安価
・高血圧
・心不全
・原発性アルドステロン症
・高カリウム血症
・女性化乳房(男性)
・月経異常
エプレレノン セララ ステロイド系(選択的) ・MR選択性が高く性ホルモン受容体への作用が少ない ・高血圧
・急性心筋梗塞後の心不全
・慢性心不全(HFrEF)
・高カリウム血症
・腎機能障害
エソレノン ミネブロ ステロイド系(高選択性) ・日本独自のMR拮抗薬
・選択性がさらに高く副作用が少ない
・高血圧 ・高カリウム血症
・腎機能障害
フィネレノン ケレンディア 非ステロイド系 ・新しい薬剤
・組織選択性が高い
・抗線維化・抗炎症作用あり
・2型糖尿病を伴うCKD ・高カリウム血症
・軽度の腎機能悪化
エスポレノン ステロイド系(選択的) ・開発中/海外のみ(国内未承認)
・エプレレノンに近い特性
・情報不十分(臨床データ未確定)

 

心室細動や心室頻拍は致死的不整脈で一度の発作で命を落とすことがあります

この致死的不整脈はいろんな状況でおこりうるのですが心不全に合併するものも稀ではありません

重症心不全の方の死因は心不全による(心臓が生きていくのに必要な血液を供給できなくなった場合)死亡と不整脈による突然死があります

今まではこういった致死的不整脈を治療するための植込み型除細動器(ICD)は「心室頻拍や心室細動からの蘇生後」が適応とされていましたが、それはラッキーにも蘇生に成功した方が対象で蘇生できなかった方への言及がありません

言い換えれば初めての致死的不整脈で命を落とす方への対策がない、ということになります

今年改定された心不全治療ガイドラインでは「心不全患者におけるICDの突然死一次予防」について言及されています

それによると「ガイドラインにのっとった適切な心不全治療が3月以上実施されているにもかかわらず、一定以上の心不全があり左室駆出分画35%以下の虚血性心不全患者」に予防的ICD植え込みが推奨されています

予防的ICD植込みは一度の発作で命を落としかねない致死的不整脈の予防ですから、勧められた方はその必要性が実感しにくいかもしれません

しかし今後予防的ICD]植込みは増えると思います

 

新クリニック建設工事にご協力いただき本当に有難うございます

お陰様で本日宮園建設様と合同で上棟式を行うことができました

完成は7月末ごろを予定しており、8月7日~8月13日は夏季休診とさせて頂きその間に新クリニックに引越しをする予定です

8月14日からは新クリニックでの診察となります

設備も充実し、ますます皆様のお役に立てるクリニックを目指して尽力致してまいります

もうしばらくの間、寛容なお心でお付き合いいただけましたら幸いです

 

 

 

 

高血圧のすべてが本態性高血圧ではありません

本態性高血圧と診断されたら降圧剤の選択に入るのですが、2次性高血圧であればまず原疾患の治療に取り掛からなければいけません

2次性高血圧の一つである内分泌性高血圧には

・原発性アルドステロン症

・クッシング症候群

・褐色細胞腫

・先端巨大症

・甲状腺機能亢進症

・副甲状腺機能低下症

等があります

特に原発性アルドステロン症は頻度が多く全高血圧の10%前後と決して珍しい病気ではありません

アルドステロンの直接血管障害作用は強く、単なる高血圧よりも脳血管疾患や冠動脈疾患が多く降圧には抗アルドステロン薬を用い、場合によっては手術が必要です

クッシング症候群や先端巨大症は特有の風貌から診断は難しくはありません

褐色細胞腫は頻脈や顔面紅潮など特有の症状があり一部悪性腫瘍の場合もあります

 

今年もクリニックのつつじがきれいに咲きました

工事の影響で昨年までの半分の量なのですがとても鮮やかな色でまた一年が経ったなあと実感します

歴史小説を読むのが好きで、中井貴一主演の大河ドラマ「武田信玄」を観て以来多くの武田信玄に関する歴史書を読みました

江戸時代に編纂された「甲陽軍鑑」は歴史資料ではなく一般向けの娯楽作品の意味合いが強かったようです

江戸時代は徳川一強の時代ですが、その徳川が大いに苦しめられた武田信玄やその家臣は別格的な存在として庶民に語り継がれていたそうです

特に有名なのが三方ヶ原の戦いで、わずか数時間の戦闘で1万人近い徳川勢が壊滅し浜松城に逃げかえったときは100人に満たなかったと言いますからいかに武田信玄の軍事力が強大であったかが知れます

その直後に武田信玄は肺結核で命を落とし時代は大きく動きますから、彼のような偉人も病気には勝てなかったということですね

「人は石垣、人は城。人は城なり、城は人なり」は武田信玄の有名な言葉ですが、終生彼は人の心をつかむのに腐心したそうです

生涯城を持たず、つつじが崎と呼ばれる屋敷に住んだ彼はこのきれいなつつじを観ながら何を考えたのでしょうね?

 

心不全は

・HFrEF (左室駆出分画が低下した、言い換えれば左心室の壁運動が悪い心不全) と

・HFpEF(左心駆出分画が低下していない、言い換えれば左心室の壁運動が正常な心不全」)

に分けて論じられることが多いと思います

左心室の壁運動が悪い心不全については容易に想像がつくと思いますが、左心室が良く動いているのに心不全がおこるとはイメージしづらいかもしれません

私がHFpEFについて説明する場合には、「高血圧などの影響で左心室の筋肉が肥大して厚くなった心筋は広がりにくくなるので、左心室の手前の肺にうっ血がおこった状況、要するに左室拡張機能障害」と表現することが多いと思います

なんとなくイメージしやすいのではないでしょうか?

ただ、厳密にいえばHFpEFはそれだけではありません

単純に左心室の動きが悪くない心不全ですから

・頻脈性心房細動:本来左心室に血液を押し込む左心房の収縮が消失された上に頻脈で拡張期時間が短くなれば左心室に流入する血液が減少し左心室から駆出される血液も減ります

・徐脈:洞性徐脈や房室ブロックなどで心拍数が低下すれば心拍出量が低下するのは想像に難くありません

・構造的心疾患:心室中隔欠損症などのようにいくら左心室が収縮しても血液が大動脈から出ていかなくて右心室に流れれば心拍出量が減ります

・心タンポナーデや収縮性心外膜炎:心臓の周囲に心嚢液が貯留するなどして心室が拡張できなければ当然心不全になります

・弁膜症:僧帽弁狭窄症では左心室に血液が流入しにくくなりますので心不全を起こしますし、僧帽弁閉鎖不全や大動脈弁閉鎖不全では左心室が収縮してもその前後で血液が行ったり来たりするだけで有効心拍出量は確保できません

その他にもいくつかHFpEFをおこす状況はあると思います

しかし何といってもHFpEFとして議論されるのが最初の左室拡張機能障害です

なぜなら他の状況は治療方法がはっきりしていて各々の原疾患を治療すれば心不全は軽快するからです

HFrEFでは長期予後を改善するための治療方法はほぼ確立されているのに対し、HFpEFで長期予後改善効果の証明された薬剤は限られています

単に心不全ではなくて、なぜ心不全を起こしているのかを突き止めないと治療方針はたちません

 

今年もつつじが咲き始めました