心不全は

・HFrEF (左室駆出分画が低下した、言い換えれば左心室の壁運動が悪い心不全) と

・HFpEF(左心駆出分画が低下していない、言い換えれば左心室の壁運動が正常な心不全」)

に分けて論じられることが多いと思います

左心室の壁運動が悪い心不全については容易に想像がつくと思いますが、左心室が良く動いているのに心不全がおこるとはイメージしづらいかもしれません

私がHFpEFについて説明する場合には、「高血圧などの影響で左心室の筋肉が肥大して厚くなった心筋は広がりにくくなるので、左心室の手前の肺にうっ血がおこった状況、要するに左室拡張機能障害」と表現することが多いと思います

なんとなくイメージしやすいのではないでしょうか?

ただ、厳密にいえばHFpEFはそれだけではありません

単純に左心室の動きが悪くない心不全ですから

・頻脈性心房細動:本来左心室に血液を押し込む左心房の収縮が消失された上に頻脈で拡張期時間が短くなれば左心室に流入する血液が減少し左心室から駆出される血液も減ります

・徐脈:洞性徐脈や房室ブロックなどで心拍数が低下すれば心拍出量が低下するのは想像に難くありません

・構造的心疾患:心室中隔欠損症などのようにいくら左心室が収縮しても血液が大動脈から出ていかなくて右心室に流れれば心拍出量が減ります

・心タンポナーデや収縮性心外膜炎:心臓の周囲に心嚢液が貯留するなどして心室が拡張できなければ当然心不全になります

・弁膜症:僧帽弁狭窄症では左心室に血液が流入しにくくなりますので心不全を起こしますし、僧帽弁閉鎖不全や大動脈弁閉鎖不全では左心室が収縮してもその前後で血液が行ったり来たりするだけで有効心拍出量は確保できません

その他にもいくつかHFpEFをおこす状況はあると思います

しかし何といってもHFpEFとして議論されるのが最初の左室拡張機能障害です

なぜなら他の状況は治療方法がはっきりしていて各々の原疾患を治療すれば心不全は軽快するからです

HFrEFでは長期予後を改善するための治療方法はほぼ確立されているのに対し、HFpEFで長期予後改善効果の証明された薬剤は限られています

単に心不全ではなくて、なぜ心不全を起こしているのかを突き止めないと治療方針はたちません

 

今年もつつじが咲き始めました

 

新クリニック建設工事が進行しております

駐車場などご迷惑をおかけしていると思います

移転は8月中旬を予定しており準備を進めているところです

移転後は現在のクリニックビルは解体し駐車場として整備する予定です

現在の敷地内の植栽はできるだけ残したいと考えております

玄関前の姫りんごの花が今年もきれいに咲きました

もう少しすればつつじも真っ赤に咲くと思います

毎年このつつじを見てまた一年経ったなあと実感します

大学病院勤務時代には近鉄電車の産業医のお手伝いをさせて頂いておりましたが、衛生巡視で葛城山のロープウェイに乗って葛城山頂に行くのが楽しみでした

一面野生のつつじで本当に見事な光景でした

クリニックのつつじもとても美しい真っ赤な花を咲かせます

今年でこのつつじを見るのは23回目になるはずです

 

循環器領域には癌は稀ですが、抗がん剤の副作用による心機能疾患は稀ならずあります

現在ではonco-cardiology(腫瘍心臓病学)のガイドラインも作成されておりがん治療関連心機能障害は「左室駆出率がベースラインより10%以上低下し、かつ正常下限値を下回る状態」と規定されています

左室駆出率は通常の心臓エコーでTechholz法やmod-Simpson法で測定されるものですが、最も鋭敏な指標はスペックルトラッキング法によるlongitudinal strain 法による計測と言われています

当院でも心臓エコーでもこの方法で測定することはありますが第一に用いる方法ではありません

特にがん治療関連心機能障害の多い抗がん剤は、アントラサイクリン系薬剤・HER2阻害薬・CHOP療法・VEGF阻害薬・BCR-ABL阻害薬・RAF/MEK阻害薬と言われておりこれらの薬剤で治療中は3~6月毎の心機能評価が推奨されていますが心機能の測定はスペックルトラッキング法によるlongitudinal strain 法を用いることが推奨されています

新しい抗がん剤の登場により循環器内科学も変わりつつあると最近実感します

 

 

心室の壁が痩せて収縮力が低下し心不全に陥る拡張型心筋症は珍しい病気ではありません

球体の内圧をP、半径をR、壁にかかる張力をTとするとTはPとRの積で表されます

内圧が上昇すると壁にかかる張力は上昇し、また内腔が拡張すると壁にかかる張力は上昇しますので心室壁はその張力に耐えるために壁が肥厚し強度を増します

いずれの場合も壁にかかる張力を低減させる方向すなはち内腔を小さくする言い換えれば半径を小さくする方向に肥大します

これを求心性肥大と呼びます

ですので心拡大は必ず心肥大を伴いますが、心肥大は必ずしも拡大を伴いません

逆に言い換えると拡大しているのに肥大(壁が肥厚)していない心臓があれば、その時点で心筋そのものに異常があるということになります

心臓エコーでは左心室が大きく拡大しているにもかかわらず壁の肥厚がなく、収縮力が低下している場合には心筋疾患です

もちろんこういう病態を呈する疾患は他にも糖尿病心筋症・頻脈誘発心筋症・ウィルス性心筋炎・アミロイドーシスや抗がん剤の副作用など多くありますからそれらを除外する必要があります

拡張型心筋症は一般に発症年齢が若いほど重症で心臓移植の対象にもなる場合があります

診断には心臓超音波が有効です

 

心不全がある一定の期間持続すると心筋自体にダメージがおこります

心臓の内腔が拡大したり(心拡大)心臓の筋肉が肥厚したり(心肥大)といった肉眼的変化のみならず、

心臓の筋肉が線維化をおこして収縮能を失ったり心筋細胞膜のイオンチャネルの電気抵抗が変化してしまったりといった具合に心臓の構造そのものが劣化してしまいます

これを心筋リモデリングと呼びます

一旦起こったリモデリングは元に戻すことは難しいのですが、一部の薬剤にはその効果が認められ、

これをリバースリモデリングと言い、β遮断薬とイバブラジン(商品名コララン)で確認されています

ただしどういった症例でこのリバースリモデリングが期待できるかについては未だ明らかにはなっていません

ESC(欧州心臓病学会)では心不全の病型に関係なく心不全と診断されればまず導入されるべき薬剤としてSGLT2が挙げられていますが、日本ではβ遮断薬を心不全のアンカードラッグと考える傾向があるように思います

β遮断薬は副作用が多く処方には注意が必要なのですが逆にβ遮断薬にしかないメリットもたくさんあります

その一つがリバースリモデリング作用です

 

 

睡眠時無呼吸症候群は睡眠中の無呼吸・低呼吸のため脳に十分な酸素が供給されなくなり熟睡感が得られず日中の眠気に苦しめられる病気です

実は無呼吸・低呼吸時には血圧が上昇し夜間の交感神経過剰活性が日中まで持ち越され早朝高血圧や治療抵抗性高血圧の原因になります

このため、睡眠時無呼吸症候群には脳卒中や心筋梗塞が高頻度で合併し、心不全の誘因にもなります

睡眠時無呼吸症候群に合併した高血圧の場合、持続陽圧呼吸療法のみで血圧が低下することも稀ではありません

もちろん肥満を合併した睡眠時無呼吸症候群の場合には減量が効果的なのは言うまでもありません

 

心房性ナトリウム利尿ペプチドが日本人によって発見されたのが1983年で、私が大学を卒業した1987年ごろは循環器関連学会の発表演題の多くがナトリウム利尿ペプチドに関するものでした

当時は心臓は単なる筋肉の塊と信じられており、心臓からホルモンが分泌されるという発見が驚きをもって迎えられました

心房筋への圧負荷が高まると分泌され、強力な利尿作用で循環血液量を減らしますので現在では薬品として精製され心不全治療薬「ハンプ」として臨床応用されています

その後、心室からも同様に利尿作用のあるホルモンBNPを分泌されることが発見され、これは現在心不全の診断の指標として用いられます

BNPは心室筋から分泌され、心不全以外に心肥大やある種の不整脈でも増加します

ところで、ANPは心房筋から分離精製されたためANP(Atrial natriuretic polypeptide:心房性ナトリウム利尿ぺプチド)と呼ばれますがBNPは最初豚の脳から分離精製されたためBNP(Brain natriuretic polypeptide:脳性ナトリウム利尿ペプチド)と呼ばれます。

しかし現在では人間においては主に心室筋から分泌されることが分かっています

BNPの前駆体であるPro-BNPが心室筋から分泌され直後にN末端(タンパク質やポリペプチドにはN末端とC末端があることは高校の生物で習いましたね)とBNPに分かれることからNTーProBNP(ProBNPから分離したN末端部分)はBNPと同じモル数が存在することも知られており、

血中のBNP濃度を反映することから血中BNP濃度の代用としてNT-ProBNPは測定されます

発作性心房細動のある方が、ある時心不全でもないのに急にNT-ProBNPが上昇した場合にはごく最近の心房細動発作を疑う根拠になります

また腎機能低下や加齢、心肥大などでも上昇しますし、意外なことに脱水状態でも高値を示す場合があります

 

 

 

 

 

本日当院スタッフと宮園建設様とで土地のお清めの式を行いました

明日から新クリニック建設工事が始まります

工事期間中は駐車スペースが極めて限られ、現在のクリニック玄関前に若干のスペースが確保できるのみです

このスペースは脚の不自由な方や介助の必要な方にお譲りいただき一般の方は隣接するエコ薬局の駐車場をご利用ください

後期は約半年を予定しております

工事期間中はご迷惑をおかけすると思います

何卒ご理解とご協力をお願い致します

 

 

当院では昨年秋から院内で末梢血液一般・生化学検査が実施可能になりました

緊急の場合は血液検査の結果が約10分ほどで分かります

 

京都大学の本庶佑先生がノーベル賞を受賞し有名になった免疫チェックポイント阻害薬も現在では10種類以上が臨床応用されており、私のような循環器内科開業医でも投与中の患者さんにお目にかかる機会は頻繁です

心筋炎、サイトカイン放出症候群、下垂体炎、重症筋無力症、Ⅰ型糖尿病など免疫チェックポイント阻害薬は従来の抗がん剤にはなかった多彩な副作用がみられます

そのうちのいくつかは予後不良で特に心筋炎は症状が非特異的で軽微であるにもかかわらず致死的経過をたどるケースが珍しくありません

免疫チェックポイント阻害薬を投与されている方が発熱や倦怠感を自覚された場合には直ぐに対応できるようにと考えたのが上記の検査機器を導入した理由の一つです

また免疫関連有害事象(免疫チェックポイント阻害薬の副作用)に緊急で対応できるように最大量のステロイドホルモンであるソル・メドロールも在庫しております

 

私が勤務医であった頃は循環器内科はがんとはほとんど無縁の科でした

心臓には実質上がんはありませんし(極めてまれに肉腫という悪性腫瘍はあるのですが)抗がん剤を処方する機会もありません

しかし現在ではがんに対する化学療法は進化し多くの科が連携しないと継続できないものになっています

医学の進歩は診療科の概念も変えるようです

 

 

 

健診でブルガダ心電図と診断され受診をすすめられるケースが少なからず見られます

ブルガダ症候群は昔日本で「ぽっくり病」と呼ばれた突然死をする不整脈疾患です

働き盛りの男性が何前触れもなく心室細動を起こし突然死する遺伝子病で、生前からある特徴のある心電図を呈することが知られておりブルガダ心電図と呼ばれます

ただブルガダ心電図には3タイプがありタイプ1はブルガダ症候群である可能性が大きいのですがタイプ2あるいはタイプ3ではブルガダ症候群であることは稀です

ただし、タイプ2でも発熱時やある種の抗不整脈薬内服後にタイプ1に変化するケースもあるので注意が必要です

健診でブルガダ心電図と診断された場合にはまずタイプ1なのかどうかが大切で、その他に失神発作の経歴や突然死の家族歴も参考になります

ブルガダ心電図と診断された方が全てブルガダ症候群ではありませんので混同されませんようにお願いします