グリチルリチンはある種の漢方薬や健康補助食品に含まれますが、内因性のコルチゾール(ステロイドホルモン)の効果を増強し血圧を上昇させます。

グリチルリチンの摂取量・接種期間に比例し高血圧が発症しやすくなります。

特に60歳以上の方は危険と言われています。

コルチゾールはナトリウムを貯留するのと同時にカリウムを排泄しますので、多くの場合低カリウム血漿をきたします。

こういう場合は該当する健康補助食品を中止してもすぐには血圧は低下せず、血圧の正常化には数週間~数か月を要します。

健康補助食品による高血圧は案外盲点です。

健康補助食品を常用されている方はお気を付けください。

 

 

知人に勧められて新しい本を読んでいます。

「最悪の予感(マイケル・ルイス)」です。

結局日本では新型コロナウィルスによる死者は7万人台でしたが、アメリカでは実に100万人以上の方がお亡くなりになりました。

その原因をCDC(アメリカの疾病予防センター)の失策だと起訴するような内容だそうです。

後知恵で批判することはフェアーではないとは思いますが、反省は必要で私自身今回のパンデミックで多くのことを学びました。

ウィルスは常に変異をしており、同じようなパンデミックはまた来ると思います。

今回の一連の出来事から何を学ぶのかが、今必要なことと考えています。

次はもっと上手くやれるように備えなければいけません。

 

寒い冬の朝に脳卒中が多いことは以前から知られています。

寒い冬の朝、特に暖房の入っていないトイレで急に血圧が上昇し脳卒中を発症することは稀ではありません。

寒い冬は一晩中でも暖房を入れること、または早朝にタイマーで暖房を入れることは急激な血圧上昇を予防するのに効果的です。

しかしトイレにまで暖房を設備している家は稀でしょうから、冬の朝にはトイレに注意が必要です。

トイレだけ寒くならないように冬場はトイレのドアは開けっ放しにすることをお勧めしていますが、それだけでは十分ではない場合には電気ストーブをお勧めしています。

ルームエアコンはスイッチをお入れてから部屋が温まるまで数分は必要ですが電気ストーブですと特に狭いトイレなどでは数秒で暖かくなります。

コンセントさえあればすぐにでも設置できますのでトイレの暖房にはお勧めです。

 

血圧の高度の上昇によって高血圧性脳症などの臓器障害が進行する場合は高血圧緊急症と呼び入院の上緊急降圧の対象となりますが、単に血圧が上昇しているのみで臓器障害のない場合は切迫症と呼びます。

切迫症は緊急降圧によって予後が改善するというエビデンスはなく、緊急降圧の対象とはなりません。

急な血圧上昇は寒暖差・精神的ストレス・不眠などでおこりますが原因が取り除かれると、例えば暖かい部屋でリラックスし十分な睡眠をとることで低下します。

ですので慌てて降圧剤を追加内服すると、原因が取り除かれて血圧が安定するころに降圧剤の効果が表れて過降圧をきたしかえって臓器障害を引き起こす可能性があります。

現在血圧を下げる薬ー降圧剤はたくさんありますが、血圧の変動を抑える薬はありません。

あえて言うなら精神安定剤や睡眠薬でしょうか?

血圧の日内変動や日間変動が臓器障害を悪化させるというエビデンスは存在しますが、その変動を抑える薬はありません。

個人的にはそういった薬の開発を望んでいるのですが、まだ開発されていないのが現状です。

 

 

緊急に血圧を下げる必要のある状態を高血圧緊急症と呼びます。

単に血圧が高いのみではこの高血圧緊急症には該当せず切迫症と呼びます。

網膜出血・脳出血・高血圧性脳症・子癇などの高血圧による臓器障害が進行している状況や、脳梗塞血栓溶解療法後や冠動脈バイパス術後などの高血圧による臓器障害が危惧される状況が該当します。

これら高血圧緊急症に該当する場合は原則として入院し、内服薬ではなく持続注射薬で降圧を行います。

この高血圧緊急症では急激で過度な降圧は臓器障害を悪化させる可能性がありはじめの1時間での降圧は25%未満にしなければなりません。

持続注射薬を用いる理由は、作用時間が短く下がり過ぎた場合にすぐに投与を中断し過降圧にならなくて済むからです。

内服薬を投与してしまうと効果が強すぎても中断することができず過降圧による臓器障害を招きかねないからです。

 

心房細動では頻脈になればそれだけで心不全を誘発しますし、長期予後も悪く死亡率や脳卒中などの有害事象も増えることが分かっています。

このことを立証した大規模臨床試験がAFFIRM試験で

・安静時心拍数80以下

・6分間歩行時の心拍数110以下

の群では死亡率も低下し大きな合併症も少なかったとされています。

これは最適な心拍数がどの程度なのかを示すものではないのですが、ほかの臨床試験でもベータ遮断薬により心拍数を少なくすることが長期予後改善につながることが証明されています。

心房細動の方は自分の安静時の心拍数を把握することも重要です。

 

夏に比べて冬場は心不全が悪化しやすい季節です。

発汗量が減り、鍋物や汁物による塩分摂取量の増加によって全身の循環血漿量が増加します。

また体温保持のため末梢血管が収縮し血圧が上昇しやすくなり心臓の負担も増加します。

血圧は寒い季節には上昇しますが、統計的には「寒い時期」よりむしろ「寒くなりつつある時期」に最も上昇します。

冬場は

・部屋を暖かくし末梢血管の収縮を抑えること

・塩分を制限し循環血漿量を抑えること

が重要です。

鍋物の美味しい季節で、最後に雑炊をすると汁まで全部摂取することになり塩分過剰になりますので、鍋物の最後には麺類の方が良いと思います。

 

私が研修医の頃は「慢性腎臓病」という表現はありませんでした。

腎臓病の表記は、「メサンギウム増殖性糸球体腎炎」「膜性腎症」「巣状糸球体硬化症」などと言った病理所見に基づいた病名がメインで各々の病型に応じて治療がなされており目標は透析回避でした。

いかにして腎機能を保護し末期腎不全になるのを予防するかということに重点を置いた治療をしていました。

その後多くの腎疾患、特に糸球体疾患の予後規定因子は腎不全ではなく脳血管疾患であるというデータが示されました。

すなはち、腎疾患のある方は末期腎不全に陥って命を失うよりむしろ脳卒中や心臓病などの病気で命を脅かされるということが判明し「慢性腎臓病」として脳血管疾患予防に重点が置かれるようになりました。

さらにその後、腎機能低下とは全く別に、蛋白尿の存在そのものが脳血管疾患の独立した危険因子であるということが示され今日では慢性腎臓病は腎機能の程度と蛋白尿の量で病状が示されます。

そして、この蛋白尿の有無は降圧薬の選択に大きく影響します。

糖尿病を合併するかしないかに関わらず、蛋白尿のない慢性腎臓病にはアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアルドステロン受容体拮抗薬の有効性は示されていません。

そして今日でもやはり病型によっては腎機能保護のためにステロイドホルモンや免疫抑制剤が必要となることもあります。

一概に「慢性腎臓病」で片づけるのは危険ではないかと常々考えており、原疾患は何かを推定しながら診療をしています。

糖尿病の方の腎機能低下が全て糖尿病性腎症ではありませんし、高血圧の方の腎硬化症にも障害部位は複数推定されうります。

全ての腎臓病を「慢性腎臓病」とひとくくりにして扱い、全ての症例にアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアルドステロン受容体拮抗薬を投与することは危険だと最近よく考えます。

 

 

10月29日は約1年ぶりのドラディション大阪大会です。

今回はタッグトーナメントだそうです。

私はもちろん観戦する予定です。

当日が楽しみです。

 

いよいよ明日から映画『アントニオ猪木をさがして』が上映されますね。

あまり聞きなれない病名かもしれませんが猪木さんは晩年心アミロイドーシスで苦しまれたそうです。

実はこの心アミロイドーシスは実勢を正確に反映した疫学調査がなくどの程度の有病率かはわかっていないのですが、原因不明の左室駆出分画の保たれた心不全の中にはこの病気が隠れている可能性があり手根管症候群の手術を受けた方のうち2%に心アミロイドーシスを認めたという報告があります。

全身の症状、例えば手根管症候群や下痢、末梢神経障害などを伴い診断には超音波検査やシンチグラフィーを用い、患者のほとんどが男性で50~70歳で発症することが多いようです。

近年治療薬が開発されたこともあって注目されるようになりました。