心臓そのものの収縮能や拡張能とは別に心臓の外から心不全を規定する因子があります。

心臓の前、すなはち心臓に流入する血液量が増えれば拡張期に心臓は大きく拡張し、スターリングの法則に従いそれだけ心臓は強い力で収縮します。

これを前負荷と言います。

これは心不全を代償しようとする生理的な反応ですので、スターリングの法則に従い心臓の収縮が強められている状況では循環血液量を減らし前負荷を低下させる利尿剤は心不全を悪化させます。

しかしながら前負荷が上昇しすぎて心臓が流入する血液を処理しきれなくなる、体のむくみや肺うっ血がある状況では利尿剤は心不全を改善します。

利尿剤ももろ刃の剣ですね。

 

映画「アントニオ猪木を探して」を観ました。

他の同年代の男性と同様、私も子供の頃はアントニオ猪木のプロレスに熱中しました。

大学生時代はプロレスエッセイを週刊プロレスに投稿し、頂いた原稿料でプロレスのチケットを買ったりしました。

原稿用紙5枚のエッセイが採用されると現金書留で5,000円が届きます。

その5,000円を持って橿原市立体育館の新日本プロレスの興行を観に行きました。

定時まではチケットを正規に買って入場しなければなりませんが、第一試合が始まると入場口の受付は若いお兄さんに交代します。

そこを狙って「チケット要らんねんけど」というと本当は入場料5,000円のところを3,000円で入場させてくれます。

チケットの発行は無しで、その3,000円はそのお兄さんのポケットにしまわれます。

プロレスファンの間では有名な藤波辰爾さんのいわゆる「噛みつき原爆固め」をリングサイドで見た感動は今でも鮮明です。

映画「アントニオ猪木を探して」は多くのファンや関係者がアントニオ猪木に対する思い入れを語り、

いわば多くの虚像を集めることによってアントニオ猪木という実像に迫ろうという内容でした。

多くの人間がそれぞれの思い入れのあるアントニオ猪木さんはやはり偉大な方だなあと思いました。

引退試合観客動員数70,000人は未だに破られない大記録だそうです。

常に八百長とかショーだとか揶揄されたプロレスですが、猪木さんはそう言ったマイナースポーツとしてのプロレスに関してコンプレックスを持っていたとお聞きしたことがあります。

コンプレックスこそ人間を成長させる原動力なんでしょうね。

 

心臓は筋肉でできた筒のような構造をしていて拡張と収縮を繰り返し血液を送り出すポンプの役割をしています。

心筋は拡張時に大きく引き伸ばされればそれだけ強い力で収縮するという性質があり、スターリングの法則と呼ばれます。

長い拡張期に大きく拡張した心臓はそれだけ強い力で多くの血液を送り出すというわけです。

下の心電図の上向きの鋭く大きい波形は心室の収縮を意味し、その間は拡張期です。

拡張期は長く収縮期はほんの一瞬ですね。

はじめの4心拍までは正常なのですが、5心拍目に拡張期の短い期外収縮という不整脈が出ています。

例えば、初めの4心拍までは収縮期血圧120で一回の心拍出量が80mlとしましょう。

5心拍目の期外収縮は拡張期が短いので心室への流入血液量も少なく拍出する力も弱くなります。

収縮期血圧は80で一回の拍出量は40ml程度でしょう。

ちょうど「脈がとぶ」感じがする(脈拍結滞)はずです。

その後の5心拍目は通常の心拍なのですが、不整脈の後で拡張期が長く多くの血液が心臓に流入しより強い力で心臓は収縮します。

収縮期血圧は200くらいで一回の拍出量は120mlていどでしょう。

かなり強い「ドキン」とする動悸を感じると思います。

不整脈の場合、この5心拍目の期外収縮を動悸を感じると誤解されがちですが実際に動機として自覚するのはその後の6拍目の正常心拍です。

 

 

閉塞した冠動脈をカテーテルを用いて再開通させる手技はちょうど私が研修医の頃に普及しだしました。

携帯電話のない時代ですから若手の循環器内科医が自主的に遅くまで病院に残り心筋梗塞の患者さんが救急搬送されるのを待っていましたが、人手のない時間帯に搬送された場合には残念ながら緊急カテーテルのできないこともあり、そういう場合には心筋の一部が壊死を起こしてしまいます。

壊死を起こした心筋は脆弱で心臓破裂を避けるために4週間程度の安静を強いられていました。

携帯電話を皆が持つ今日では、特に日本ではどんな場合でも緊急のカテーテル治療が受けられますので入院期間も本当に短くなり、早期離床が当たり前になりましたが、その分心臓リハビリテーションの重要性が認識されています。

現在では冠動脈疾患・心不全・末梢動脈疾患や心臓術後の方に予後改善効果が証明されており、安定型労作性狭心症では治療の第一選択に位置づけられるほどです。

その割に日本で心臓リハビリテーションが普及しないのはなぜでしょう?

もっと普及するべき治療だと思うのですが。

動悸などを自覚し循環器内科を受診する方のうち治療を必要とする不整脈がみられるのは多いものではありません。

しかし一方で不整脈による突然死があるのも事実で、多くが心室頻拍や心室細動です。

これらは大きく分けて

・遺伝性不整脈疾患:心筋のイオンチャネルの異常により不整脈が起こる

ブルガダ症候群

遺伝性QT延長群

カテコラミン誘発性多型制心室頻拍

などがあり、さらに

・器質的心疾患

心筋症

虚血性心疾患

弁膜疾患

高血圧性心疾患

などの器質的心疾患によるものがあります。

不整脈による突然死を事前に予知するのは簡単なことではなく、心臓電気生理学的検査や遺伝子検査がありますがどういった場合にこれらの検査をするのかについても判断が難しい場合があります。

一般的には

めまいや眼前暗黒感などの脳貧血症状を伴う場合は要注意で、そういう症状のある場合は急いで検査をすることが進められます。

当院では

24時間

1週間

2週間

装着できる3種類のホルター心電図を実施しております。

上記の症状のある場合は早めに受診してください。

 

 

特定健診の令和6年度から用いられている血圧の受診勧奨判定値について基準が変ったとか、高血圧の診断基準が変わったという誤解が広まっていますので、高血圧学会の声明を掲載いたします。

 

『厚生労働省による「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度度版)」の受診勧奨判定値を超えるレベルの対応についてこの内容は、以下のようになっており、これは、日本高血圧学会による高血圧治療ガイドライン2019年版の推奨と同じです。

● 収縮期血圧≧160mmHg又は拡張期血圧≧100mmHg → ①すぐに医療機関の受診を

● 140mmHg≦収縮期血圧<160mmHg又は90mmHg≦拡張期血圧<100mmHg → ②生活習慣を改善する努力をした上で、数値が改善しないなら医療機関の受診を

今回の誤解は、2つの記載の①だけを強調されたものと考えられます。

受診勧奨に関するより具体的な説明が「健診結果とその他必要な情報の提供(フィードバック文例集)」に記載されていますので紹介します。

上記の②に相当するⅠ度高血圧(140mmHg≦収縮期血圧<160mmHg又は90mmHg≦拡張期血圧<100mmHg)への対処は以下のように記載されています(抜粋)。

「今回、あなたの血圧はⅠ度高血圧になっていました。この血圧レベルの人は、望ましい血圧レベルの人と比べて、約3倍、脳卒中や心臓病にかかりやすいことが分かっています。正確な血圧の診断の上で、治療が必要となる血圧レベルです。血圧を下げるためには、減量、適度な運動、お酒を減らす、減塩、野菜を多くして果物も適度に食べるなど、生活習慣の改善が必要です。ご自身で生活習慣の改善に取り組まれる方法、特定保健指導を活用する方法、保健センター等で健康相談や保健指導を受ける方法等があります。これらを実行した上で、おおむね1か月後にかかりつけの医療機関で再検査を受けてください」

健診では一過性の血圧の上昇もありますし、ちょっとした自己管理で血圧が下がる場合もあります。

また受診して正確な血圧の診断をした場合でも、Ⅰ度高血圧の場合、1ヶ月は生活習慣の改善を行い再評価します。

1か月後の時点で服薬の要否を判断するのは主治医と患者さんご自身です。

なお、重要なこととして、Ⅰ度高血圧でも、脳心血管病、心房細動、慢性腎臓病、糖尿病、危険因子の集積がある場合は、至急かかりつけの医療機関を受診すべきことが、同じフィードバック文例集に記載されてます。

健診結果に基づく受診勧奨も、高血圧治療ガイドラインも科学的エビデンスに基づいて作成されています。これらに変更があったわけではありません。』

 

ネット上には情報が氾濫しており正しい情報と誤った情報を見分ける能力が求められます。

ご不明な点は医師にお尋ねください。

 

徐々に気温が上昇するにつれ冬場は高値だった血圧も低下傾向を示す方が増えてきました。

下がり過ぎて不安という方もおられるようです。

診察室で測った場合の血圧は

・高血圧    140/以上   または /90以上

・高値血圧   130-139/ または /80-90

・正常高値血圧 120-129/ かつ  /80以下

・正常血圧   120/以下   かつ  /80以下

と定義されており家庭血圧はこれからそれぞれ5を引きます。

多くの方が110/台の血圧を下がり過ぎと解釈されるようですが、そうではありません。

もちろん下がり過ぎてふらつくとかめまいがするなどの場合は降圧剤の減量・中止も考慮しなければなりません。

 

 

先日の内科学会では腸内細菌と心不全との関係に関する講演がありました。

演者によりますと

「肉や卵・チーズに多く含まれるフォスファチジルコリンが腸内細菌により代謝を受けTMA(トリメチルアミン)に変換され、さらに肝臓で代謝されたTMAO(トリメチルアミンNオキシド)が心不全を悪化させる」

そうです。

事実、慢性心不全患者では健常者と比して血中TMAO濃度が高く、TMAO濃度が高いほど死亡率が高いそうです。

またTMAOの産生に関わる腸内細菌酵素TMAリアーゼを抑える薬物の開発が進められているそうです。

腸内細菌が心不全と関連するとは、意外な発表で驚きました。

 

4月12日~4月14日は東京で日本内科学会でした。

私はオンラインで参加しいくつかの講演を聞きました。

その中で、東海大学の先生の「急性冠症候群の急性期治療」という講演が印象的でした。

急性冠症候群は急性心筋梗塞と不安定狭心症を含み世界統計では現在死因の第一位です。

非常に死亡率が高く発症後90分以内に閉塞した血管を再開通させることが重要です。

これは多くの場合、緊急の心臓カテーテル治療によって達成されますが日本ではこの達成率が非常に高く死亡率は世界平均が約30%であるのに対して日本では3%以下と世界一です。

一方、発症者数は世界的には減少傾向にあるのに対して日本では今なお増加傾向です。

それでもさらに死亡数は減少を続けておりこれは日本のカテーテル治療の体制が行き渡っているからです。

しかしながら医師の働き方改革により、この体制を維持するのが困難であろうとの見方が大半で、今後急性冠症候群死亡率世界一を維持するのは困難であろうと考えられています。

死亡者数を減らすには発症者を減らすことです。

スタチン剤によって血中LDLコレステロールを低下させることが最も効果的な予防策なのですが、未だ認知度は低く、脂質異常症は症状が無いため内服治療を好まなかったり途中で治療を止める人が多いのが現状です。

どうすればもっと多くの方が脂質異常症の治療に積極的になってくれるのかが私の今の一番の関心事です。

 

今年もクリニックのつつじが満開を迎えました。

本当にきれいな色で圧倒される奇麗さです。

私は歴史小説が好きで特に戦国時代と太平洋戦争に関するものが好きなのですが、このつつじを見るといつも戦国時代の武将武田信玄を思い出します。

躑躅が崎と呼ばれる館に住み城を持たなかった珍しい存在です。

下剋上と言われるように権謀術数の時代にどうやってあれだけの家臣団や部下の心をつかんだのか、その人間力には本当に興味があります。

実の父を国外追放し、実子を切腹に追い込みながら一方で家臣の忠誠を引き出すとはいったいどんな人間だったのか、外からは推し量ることのできない苦悩があったにちがいありません。

そんな英雄がこのつつじを眺めながら何を考えていたもでしょうか?

そんなことを考えるのも今の時期だけの楽しみです。