心不全がある一定の期間持続すると心筋自体にダメージがおこります

心臓の内腔が拡大したり(心拡大)心臓の筋肉が肥厚したり(心肥大)といった肉眼的変化のみならず、

心臓の筋肉が線維化をおこして収縮能を失ったり心筋細胞膜のイオンチャネルの電気抵抗が変化してしまったりといった具合に心臓の構造そのものが劣化してしまいます

これを心筋リモデリングと呼びます

一旦起こったリモデリングは元に戻すことは難しいのですが、一部の薬剤にはその効果が認められ、

これをリバースリモデリングと言い、β遮断薬とイバブラジン(商品名コララン)で確認されています

ただしどういった症例でこのリバースリモデリングが期待できるかについては未だ明らかにはなっていません

ESC(欧州心臓病学会)では心不全の病型に関係なく心不全と診断されればまず導入されるべき薬剤としてSGLT2が挙げられていますが、日本ではβ遮断薬を心不全のアンカードラッグと考える傾向があるように思います

β遮断薬は副作用が多く処方には注意が必要なのですが逆にβ遮断薬にしかないメリットもたくさんあります

その一つがリバースリモデリング作用です

 

 

睡眠時無呼吸症候群は睡眠中の無呼吸・低呼吸のため脳に十分な酸素が供給されなくなり熟睡感が得られず日中の眠気に苦しめられる病気です

実は無呼吸・低呼吸時には血圧が上昇し夜間の交感神経過剰活性が日中まで持ち越され早朝高血圧や治療抵抗性高血圧の原因になります

このため、睡眠時無呼吸症候群には脳卒中や心筋梗塞が高頻度で合併し、心不全の誘因にもなります

睡眠時無呼吸症候群に合併した高血圧の場合、持続陽圧呼吸療法のみで血圧が低下することも稀ではありません

もちろん肥満を合併した睡眠時無呼吸症候群の場合には減量が効果的なのは言うまでもありません

 

心房性ナトリウム利尿ペプチドが日本人によって発見されたのが1983年で、私が大学を卒業した1987年ごろは循環器関連学会の発表演題の多くがナトリウム利尿ペプチドに関するものでした

当時は心臓は単なる筋肉の塊と信じられており、心臓からホルモンが分泌されるという発見が驚きをもって迎えられました

心房筋への圧負荷が高まると分泌され、強力な利尿作用で循環血液量を減らしますので現在では薬品として精製され心不全治療薬「ハンプ」として臨床応用されています

その後、心室からも同様に利尿作用のあるホルモンBNPを分泌されることが発見され、これは現在心不全の診断の指標として用いられます

BNPは心室筋から分泌され、心不全以外に心肥大やある種の不整脈でも増加します

ところで、ANPは心房筋から分離精製されたためANP(Atrial natriuretic polypeptide:心房性ナトリウム利尿ぺプチド)と呼ばれますがBNPは最初豚の脳から分離精製されたためBNP(Brain natriuretic polypeptide:脳性ナトリウム利尿ペプチド)と呼ばれます。

しかし現在では人間においては主に心室筋から分泌されることが分かっています

BNPの前駆体であるPro-BNPが心室筋から分泌され直後にN末端(タンパク質やポリペプチドにはN末端とC末端があることは高校の生物で習いましたね)とBNPに分かれることからNTーProBNP(ProBNPから分離したN末端部分)はBNPと同じモル数が存在することも知られており、

血中のBNP濃度を反映することから血中BNP濃度の代用としてNT-ProBNPは測定されます

発作性心房細動のある方が、ある時心不全でもないのに急にNT-ProBNPが上昇した場合にはごく最近の心房細動発作を疑う根拠になります

また腎機能低下や加齢、心肥大などでも上昇しますし、意外なことに脱水状態でも高値を示す場合があります

 

 

 

 

 

本日当院スタッフと宮園建設様とで土地のお清めの式を行いました

明日から新クリニック建設工事が始まります

工事期間中は駐車スペースが極めて限られ、現在のクリニック玄関前に若干のスペースが確保できるのみです

このスペースは脚の不自由な方や介助の必要な方にお譲りいただき一般の方は隣接するエコ薬局の駐車場をご利用ください

後期は約半年を予定しております

工事期間中はご迷惑をおかけすると思います

何卒ご理解とご協力をお願い致します

 

 

当院では昨年秋から院内で末梢血液一般・生化学検査が実施可能になりました

緊急の場合は血液検査の結果が約10分ほどで分かります

 

京都大学の本庶佑先生がノーベル賞を受賞し有名になった免疫チェックポイント阻害薬も現在では10種類以上が臨床応用されており、私のような循環器内科開業医でも投与中の患者さんにお目にかかる機会は頻繁です

心筋炎、サイトカイン放出症候群、下垂体炎、重症筋無力症、Ⅰ型糖尿病など免疫チェックポイント阻害薬は従来の抗がん剤にはなかった多彩な副作用がみられます

そのうちのいくつかは予後不良で特に心筋炎は症状が非特異的で軽微であるにもかかわらず致死的経過をたどるケースが珍しくありません

免疫チェックポイント阻害薬を投与されている方が発熱や倦怠感を自覚された場合には直ぐに対応できるようにと考えたのが上記の検査機器を導入した理由の一つです

また免疫関連有害事象(免疫チェックポイント阻害薬の副作用)に緊急で対応できるように最大量のステロイドホルモンであるソル・メドロールも在庫しております

 

私が勤務医であった頃は循環器内科はがんとはほとんど無縁の科でした

心臓には実質上がんはありませんし(極めてまれに肉腫という悪性腫瘍はあるのですが)抗がん剤を処方する機会もありません

しかし現在ではがんに対する化学療法は進化し多くの科が連携しないと継続できないものになっています

医学の進歩は診療科の概念も変えるようです

 

 

 

健診でブルガダ心電図と診断され受診をすすめられるケースが少なからず見られます

ブルガダ症候群は昔日本で「ぽっくり病」と呼ばれた突然死をする不整脈疾患です

働き盛りの男性が何前触れもなく心室細動を起こし突然死する遺伝子病で、生前からある特徴のある心電図を呈することが知られておりブルガダ心電図と呼ばれます

ただブルガダ心電図には3タイプがありタイプ1はブルガダ症候群である可能性が大きいのですがタイプ2あるいはタイプ3ではブルガダ症候群であることは稀です

ただし、タイプ2でも発熱時やある種の抗不整脈薬内服後にタイプ1に変化するケースもあるので注意が必要です

健診でブルガダ心電図と診断された場合にはまずタイプ1なのかどうかが大切で、その他に失神発作の経歴や突然死の家族歴も参考になります

ブルガダ心電図と診断された方が全てブルガダ症候群ではありませんので混同されませんようにお願いします

 

降圧薬のうちβ遮断薬が処方に最も注意が必要な薬かも知れません

降圧以外の副作用が大きく、その反面他の降圧薬にはないメリットもあります

特に心不全を合併した場合にはまず初めに考慮するべき薬剤です

何かの手術を受ける際にその前後の期間を周術期と呼びますが、周術期には心筋梗塞や脳卒中などのイベントが増加することが知られています

そして周術期に新たにβ遮断薬を開始するとその期間の心筋梗塞は減りますが、脳卒中は増加するという複数のデータが発表されています

ですので周術期の新たなβ遮断薬開始には注意が必要ですが、以前から服用中のβ遮断薬は周術期に中止すると逆に死亡率が上昇することが分かっています

β遮断薬は降圧薬の中で最も注意が必要な薬ですが、他の薬にはないメリットがあり循環器疾患には欠かせない薬です

 

特に心房細動の場合には測定する度に血圧の値が変わります

心房細動では収縮期時間は変わりませんが拡張期時間は一心拍ごとに変わります

直前の拡張期が長い場合には心臓が大きく拡張し拍出量も増えます

逆に直前の拡張期が短い場合には心臓の拡張も小さく拍出量も少なく脈圧も小さくなります

ですから心房細動の場合には一心拍ごとに血圧が大きく変わります

測る度に血圧は変動しますから何度か測定し平均を把握する必要があります

心房細動の場合には一度の測定で一喜一憂せずに全体像を把握することが大切です

 

インフルエンザが大流行です

症状は突然の高熱に全身の倦怠感・関節痛などの俗にいうサイトカイン症状が主です

普通の感冒とは明らかに症状が異なり起き上がるのがやっとというくらいの倦怠感がありますから、表情は憔悴し眼の焦点も合わない方が稀ではありません

新型コロナ感染症とは異なり効果の強い抗ウィルス薬が比較的安価で利用でき早期に服用すればそれだけ排出ウィルス量も減りますからご家族や友人への感染も防げます

飛沫感染ですのでマスク着用が防御には効果的です。

ぜひマスク着用をお願い致します

 

もう随分以前の話、私が奈良県立医大CCU(Coronary Care Unit)に勤務していたころの話です

CCUは重症心疾患を扱う集中治療室で多くの心不全患者が搬入されます

心不全は多くの場合体液過剰状態で脚が浮腫んだり胸水が貯留したりしています

肺の組織が浮腫み染み出した水が胸水で、声も出ないほどの呼吸困難に陥ります

この危機的状況から脱するために利尿剤や血液浄化法を用いて体から余分な水分を取り除きます

電解質のバランスに細心の注意を測りながら(大抵2時間毎に血液検査をします)利尿剤を注射し、また腎機能低下などそれでは十分な効果がない場合には血液浄化療法を実施します

当時は透析技師さんなどの当直はなかったので一人で回路を組み立て半透膜のカラムで除水をします

最も簡単な方法はECUMと呼ばれる方法で透析液も不要ですが、腎機能の低下した方には血液透析が必要です

個人用透析器の回路を洗浄し透析液を作成し回路を組み立て内部をヘパリン水で満たし、下大静脈に留置したカテーテルに接続します

効果は絶大で数時間で数リットルの余分な体液を取り除くことが可能で、話すこともできなかった重症心不全の方が数時間後には笑いながら話せるよ言うになりますからまるで魔法です

が、実は心不全の治療はここから始まります

心不全の原疾患、例えば弁膜症、先天性心疾患、頻脈性心房細動、心筋疾患、冠動脈疾患や他の臓器疾患からの心不全など様々でその治療をしなければなりません

場合によっては外科手術、カテーテル治療などもありますが、内科的治療すなはち薬剤を用いて心不全の再発を防止することになるケースも多くあります

この場合には目標が心不全を再発しないことや心不全で死亡しないことになりますから、病状を改善する治療ではなくて悪化させない治療です

つまり、何も起こらなければそれがゴールです

言い換えれば目に見えた改善はないので、慢性心不全の治療は見えない目標に向かって進むようなものだと仰る医師もいます

では何を指標に治療を組み立てるのか、それは今までに確立されたエビデンスです

「この治療により再入院が抑制され死亡率が低下した」というデータに基づき治療を組み立てるわけです

もちろん学会発のガイドラインもありますが数年毎の改定なので、やはり最新の知見は最新の論文を読む必要があります

大きなトライアルだけでしたら

https://www.ebm-library.jp/circ/trial/index_top.html

でも参考になります