特定健診の令和6年度から用いられている血圧の受診勧奨判定値について基準が変ったとか、高血圧の診断基準が変わったという誤解が広まっていますので、高血圧学会の声明を掲載いたします。

 

『厚生労働省による「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度度版)」の受診勧奨判定値を超えるレベルの対応についてこの内容は、以下のようになっており、これは、日本高血圧学会による高血圧治療ガイドライン2019年版の推奨と同じです。

● 収縮期血圧≧160mmHg又は拡張期血圧≧100mmHg → ①すぐに医療機関の受診を

● 140mmHg≦収縮期血圧<160mmHg又は90mmHg≦拡張期血圧<100mmHg → ②生活習慣を改善する努力をした上で、数値が改善しないなら医療機関の受診を

今回の誤解は、2つの記載の①だけを強調されたものと考えられます。

受診勧奨に関するより具体的な説明が「健診結果とその他必要な情報の提供(フィードバック文例集)」に記載されていますので紹介します。

上記の②に相当するⅠ度高血圧(140mmHg≦収縮期血圧<160mmHg又は90mmHg≦拡張期血圧<100mmHg)への対処は以下のように記載されています(抜粋)。

「今回、あなたの血圧はⅠ度高血圧になっていました。この血圧レベルの人は、望ましい血圧レベルの人と比べて、約3倍、脳卒中や心臓病にかかりやすいことが分かっています。正確な血圧の診断の上で、治療が必要となる血圧レベルです。血圧を下げるためには、減量、適度な運動、お酒を減らす、減塩、野菜を多くして果物も適度に食べるなど、生活習慣の改善が必要です。ご自身で生活習慣の改善に取り組まれる方法、特定保健指導を活用する方法、保健センター等で健康相談や保健指導を受ける方法等があります。これらを実行した上で、おおむね1か月後にかかりつけの医療機関で再検査を受けてください」

健診では一過性の血圧の上昇もありますし、ちょっとした自己管理で血圧が下がる場合もあります。

また受診して正確な血圧の診断をした場合でも、Ⅰ度高血圧の場合、1ヶ月は生活習慣の改善を行い再評価します。

1か月後の時点で服薬の要否を判断するのは主治医と患者さんご自身です。

なお、重要なこととして、Ⅰ度高血圧でも、脳心血管病、心房細動、慢性腎臓病、糖尿病、危険因子の集積がある場合は、至急かかりつけの医療機関を受診すべきことが、同じフィードバック文例集に記載されてます。

健診結果に基づく受診勧奨も、高血圧治療ガイドラインも科学的エビデンスに基づいて作成されています。これらに変更があったわけではありません。』

 

ネット上には情報が氾濫しており正しい情報と誤った情報を見分ける能力が求められます。

ご不明な点は医師にお尋ねください。

 

徐々に気温が上昇するにつれ冬場は高値だった血圧も低下傾向を示す方が増えてきました。

下がり過ぎて不安という方もおられるようです。

診察室で測った場合の血圧は

・高血圧    140/以上   または /90以上

・高値血圧   130-139/ または /80-90

・正常高値血圧 120-129/ かつ  /80以下

・正常血圧   120/以下   かつ  /80以下

と定義されており家庭血圧はこれからそれぞれ5を引きます。

多くの方が110/台の血圧を下がり過ぎと解釈されるようですが、そうではありません。

もちろん下がり過ぎてふらつくとかめまいがするなどの場合は降圧剤の減量・中止も考慮しなければなりません。

 

 

先日の内科学会では腸内細菌と心不全との関係に関する講演がありました。

演者によりますと

「肉や卵・チーズに多く含まれるフォスファチジルコリンが腸内細菌により代謝を受けTMA(トリメチルアミン)に変換され、さらに肝臓で代謝されたTMAO(トリメチルアミンNオキシド)が心不全を悪化させる」

そうです。

事実、慢性心不全患者では健常者と比して血中TMAO濃度が高く、TMAO濃度が高いほど死亡率が高いそうです。

またTMAOの産生に関わる腸内細菌酵素TMAリアーゼを抑える薬物の開発が進められているそうです。

腸内細菌が心不全と関連するとは、意外な発表で驚きました。

 

4月12日~4月14日は東京で日本内科学会でした。

私はオンラインで参加しいくつかの講演を聞きました。

その中で、東海大学の先生の「急性冠症候群の急性期治療」という講演が印象的でした。

急性冠症候群は急性心筋梗塞と不安定狭心症を含み世界統計では現在死因の第一位です。

非常に死亡率が高く発症後90分以内に閉塞した血管を再開通させることが重要です。

これは多くの場合、緊急の心臓カテーテル治療によって達成されますが日本ではこの達成率が非常に高く死亡率は世界平均が約30%であるのに対して日本では3%以下と世界一です。

一方、発症者数は世界的には減少傾向にあるのに対して日本では今なお増加傾向です。

それでもさらに死亡数は減少を続けておりこれは日本のカテーテル治療の体制が行き渡っているからです。

しかしながら医師の働き方改革により、この体制を維持するのが困難であろうとの見方が大半で、今後急性冠症候群死亡率世界一を維持するのは困難であろうと考えられています。

死亡者数を減らすには発症者を減らすことです。

スタチン剤によって血中LDLコレステロールを低下させることが最も効果的な予防策なのですが、未だ認知度は低く、脂質異常症は症状が無いため内服治療を好まなかったり途中で治療を止める人が多いのが現状です。

どうすればもっと多くの方が脂質異常症の治療に積極的になってくれるのかが私の今の一番の関心事です。

 

今年もクリニックのつつじが満開を迎えました。

本当にきれいな色で圧倒される奇麗さです。

私は歴史小説が好きで特に戦国時代と太平洋戦争に関するものが好きなのですが、このつつじを見るといつも戦国時代の武将武田信玄を思い出します。

躑躅が崎と呼ばれる館に住み城を持たなかった珍しい存在です。

下剋上と言われるように権謀術数の時代にどうやってあれだけの家臣団や部下の心をつかんだのか、その人間力には本当に興味があります。

実の父を国外追放し、実子を切腹に追い込みながら一方で家臣の忠誠を引き出すとはいったいどんな人間だったのか、外からは推し量ることのできない苦悩があったにちがいありません。

そんな英雄がこのつつじを眺めながら何を考えていたもでしょうか?

そんなことを考えるのも今の時期だけの楽しみです。

現在心不全治療薬の柱と言われる薬剤は

・ベータ遮断薬

・アンジオテンシン変換酵素阻害薬/アルドステロン受容体拮抗薬

・SGLT2

・ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬

の4種類で俗にFantastic Fourと呼ばれたりします。

このうちSGLT2は糖尿病治療薬として開発されたものの、発売後に糖尿病のある無しに関わらず心不全の予後を改善することが判明し心不全治療薬として認可されました。

これは大規模臨床研究という、患者さんを長期間追跡調査した結果に基づいて導かれた結果です。

大規模臨床研究は常に多くのものが進行中で、次々に新しい結果が学会に発表されます。

これらのデータの蓄積からガイドラインも定期的に見直されます。

最近の臨床研究「STEP-HFpEF」によると、やはり糖尿病治療薬のセマグルチドが糖尿病がある無しに関わらず肥満患者の心不全の症状を改善したそうです。

このセマグルチドは巷では痩せ薬としても話題になっている薬です。

長期の予後改善データではありませんが、今後のデータによってはFantastic Fiveということになるかもしれませんね。

私が循環器領域の臨床研究結果をチェックするのに用いているサイトの一つは

https://www.ebm-library.jp/circ/trial/index_top.html

です。

とても分かりやすく解説されていますので興味のある方はご覧ください。

 

 

私が奈良県立医科大学で医学を学んだ昭和56年~62年はまだ内科診断学全盛の時代でした。

内科診断学とは視診・触診・聴診などの身体所見から病状・診断を探ろうとする、当時は医師の基本技術と考えられていたものです。

心臓の聴診だけで、弁膜症の名前と重症度を言い当てる言わば名人芸のような技術を磨くことが重要視されていました。

現在では超音波検査をすればすぐにわかるのですが、その当時は聴診器が武士の魂である刀の様なものでした。

自慢するわけではありませんが、今でも心臓の音だけで例えば

「大動脈弁狭窄症で左心室・大動脈圧較差は25mmHg」

「三尖弁閉鎖不全 2/Ⅲ」

と言った診断ができます。

その分聴診器にはこだわりがあってオープンベルとダイアフラムの使い分けにも気を遣います。

ダイアフラムは胸壁に押し当てる強さで聞こえる心音の周波数が変化しますので、あて方によって聴こえる音と聴こえない音があります。

奈良県立医科大学の助教授で後に東大第二内科の助教授になられた武内重五郎先生の名著「内科診断学」も今となっては歴史的遺産になるのかもしれません。

日々新しい技術が開発され、当院で採用しているウェブ問診では患者さんが問診にこたえ終わると同時にAIが診断候補を提示してくれます。

私は最新の技術は「使った者の勝ち」だと思っています。

 

この3月に改訂された日本循環器学会2024年版不整脈治療ガイドラインでは心房細動による脳梗塞発症において、低体重(BMI18.5未満)が危険因子として認定されています。

低体重心房細動患者では、全死亡と心血管死の発生率が高かったそうです。

ですから、この基準に該当する人では抗凝固療法を実施する意義が高くとりわけDOAC(直接経口抗凝固薬)がワーファリンに比して有効性・危険性とも優れていることが示されています。

ここで誤解してはならないのは、体重を増やせば死亡率も心血管死も発生率が下がるわけではないということです。

それに関しては介入試験を実施しないと分かりません。

 

3月8日~10日の間、神戸で第88回日本循環器学会総会が行われました。

そのタイミングの合わせて日本循環器学会の不整脈ガイドラインも改訂されました。

いくつかの大きな改訂点があるのですが今回はそのうちの一つ心房細動における脳梗塞予測スコアについてご説明いたします。

 

梗塞発症リスクを判断するための簡便なリスクスコアとして,CHADS2スコア,CHA2DS2-VASc スコアが従来用いられてきました.

しかし,海外で開発されたこれらのリスクスコアを本邦に適用できるか否かについて,日本人を対象とした3つのレジストリ

で統合解析を行ったところ,両スコアの構成要素のなかで脳梗塞発症に寄与する独立危険因子として同定されたのは

・年齢75歳以上

・高血圧

・脳卒中既往

の3因子のみでした。

さらに,2つの追加レジストリを加えた統合解析で得られた独立危険因子は,

・年齢75~84歳

・年齢85 歳以上

・高血圧,

・脳卒中既往

・BMI 18.5 kg/m2未満

・持続性/永続性心房細動

の6因子でした.

すなわち,CHADS2スコア,CHA2 DS2-VASc スコアと共通する危険因子として年齢,高血圧,脳卒中既往の3因子が追認された一方で

糖尿病,心不全,血管疾患は独立危険因子として同定されませんでした.

かわりに,85歳以上,BMI 18.5 kg/m2 未満,持続性/永続性心房細動という新たな危険因子が同定され重みづけを行い,

・高血圧(H: Hypertension)

・年 齢 75~84 歳(E: Elderly)

・BMI 18.5 kg/m2 未満(L: Low BMI)

・持続性/永続性心房細動(T: Type of AF)を 1点

・年齢 85歳以上(E: Extreme elderly)

・脳 卒 中 既 往 ( S: previous Stroke)を 2点

とする合計7点(年齢の Eが2つあるが配点は互いに背反)のリスクスコア評価法を定め,HELTE2S2 スコアと名付けられました。

HELT-E2S2スコア別の脳梗塞発症率は,

抗凝固療法なしの場合,0点で0.57%/年,1点で0.73%/年,2点で1.37%/年,3点で2.59%/年,4 点で3.96%/年,5点以上で5.82%/年とはっきりと点数依存性に上昇し、

HELT-E2S2スコア2点以上における脳梗塞発症率は,抗凝固療法ありの場合はなしの場合に比べて半分程度でした。

 

今後は日本ではHELTE2S2 スコアが脳梗塞治療の基準としてスタンダードになるでしょうね。

4月からはCOVID19に対する政策が変わります。

発熱外来を実施していない全ての医療機関で、ほかの患者から隔離することなく対応することが可能となります。

現実に医療機関によってはほかの患者さんと同じ待合室で発熱患者さんにお待ちいただくというケースも見られるようになるかもしれません。

しかしながら、当院では従来通りに発熱の方は予め電話でお申し込み頂き、ほかの患者さんとは別のお部屋でお待ちいただくというシステムを継続したいと思います。

通院治療をされている方の中には重症の呼吸器疾患・心疾患をお持ちの方や免疫能が低下し一旦感染すれば重症化が予測される方も多くおられます。

そういった方を感染から守るためには必須の方法だと考えます。

また、政策により新型コロナに対するワクチンの公費摂取は3月末で終了いたします。

インフルエンザウィルスと同様に頻繁に流行株の変異が起こり新しい免疫を獲得するために半年または一年毎のワクチン接種が必要となるかも知れません。

恐らく今秋には追加接種に関する情報が発表されると思いますが、どの程度の公費補助があるのかは未定です。

分かり次第このHPでお知らせいたします。