ネット上は情報で氾濫しています。

情報には真偽の不明なものも多く、あるいは意図的に他人の意見を操ろうとした作話も見られます。

そんな状況では間違った情報に踊らされて損をすることもありうります。

ですから最近は情報を鵜呑みにせず、批判的に情報を吟味すること『クリティカル・シンキング』が重要視されています。

医学論文でも第三者の翻訳を避けてできるだけ原著を読み、内容につき自分自身で確かめる能力が求められます。

例えば、現在心房細動などに第一選択薬としての地位を確立したDOAC(経口抗凝固剤)という薬があります。

多くの臨床研究でそれまで用いられてきたワルファリンより有効で副作用も少ないと証明されガイドラインでも第一選択薬となっています。

このDOACは4種類あるのですが、それぞれに大規模臨床研究が実施されています。

その一つにENGAGE AF試験という数千人の人を対象とした臨床研究があります。

ご興味のある方はネットで検索すれば日本語訳もありますのでご覧ください。

この臨床研究の結論は、このDOACは有効性ではワルファリンに劣っておらず、副作用はワルファリンより少なかったというものです。

素晴らしい結果だと思います。

しかし、原著を注意深く読むとワルファリンの治療域の割合は64.9%です。

ワルファリンを服用された方はご存じだと思いますが、ワルファリンはビタミンKによってその作用が邪魔されます。

ですのでワルファリン内服中の方はビタミンKを多く含む食品例えば納豆や青汁を控えるように勧められます。

しかし、ビタミンKは緑色野菜をはじめ多くの食材に含まれますので完全に絶つことは不可能です。

ですので、一般的には毎月受診するたびにPT(プロトロンビン時間)を測定し容量を調節します。

この論文ではワルファリンを服用されていた方は64.9%しか目標治療域になかったと言っています。

つまり10回受診するとそのうち3回以上は有効な治療域ではなかったという意味です。

これは私にはとても不自然です。

当院ではワルファリン服用中の方は90%以上が目標域にあります。

つまり十分に管理されていないワルファリン服用者と比較された試験であると推定されます。

もちろん直ちにこの薬剤の有用性を否定するわけではないのですが、私は例えば目標域に90%ある方々と比較したらどうだったのかに興味があります。

ワルファリンを恣意的に多めにすれば出血の副作用が増加する代わりに塞栓症の予防効果は増します。

逆にワルファリンを減らすと出血の副作用は減る代わりに塞栓症の予防効果は低下します。

ですので、このDOACを正確に評価するのは、塞栓症予防効果はワルファリンの有効域何%と同等で、出血副作用はワルファリンの有効域何%に相当するという表現が正確だと思うのですが。

今回は特定の薬の批判のようになってしまいましたが、そういう意図はなくその臨床研究に私なりの疑問があるという意味です。

『全ての発言はポジショントーク』というアドバイスを頂いたことがあります。

辛い時代ですね。

 

 

睡眠時無呼吸症候群は主に肥満の方に多く日中の眠気が強く時として交通事故の原因になることから注目を浴びました。

実はこの睡眠時無呼吸症候群は高血圧の原因にもなります。

無呼吸時事には著明な血圧上昇があるのですが、その際の交感神経の過剰活性化が日中まで持ち越され早朝高血圧や治療抵抗性高血圧の原因になることもあります。

こういう方は脳卒中の発症が多いことが分かっており、治療が必要です。

内服薬でどうしても十分低下しなかった高血圧が持続陽圧呼吸療法で正常化することもあります。

高血圧で肥満傾向の方は夜間のいびきに注意してみてください。

 

糸球体過ろ過が持続するとブレナーのハイパーフィルトレーション・セオリーに従い糸球体濾過率は低下し腎不全に向かいます。

このような腎機能低下は糖尿病以外にも高血圧による動脈硬化でも起こります。

病理的には糸球体硬化症と呼ばれ臨床的には腎硬化症と呼ばれます。

実はこの腎硬化症は今日では極めて多くみられます。

但し、腎硬化症には糸球体硬化症以外にも、糸球体輸入細動脈直前の動脈の硬化が原因の場合もあります。

ストレイン・ベッセルと言われるこの血管は太さが数ミリメートルしかないにもかかわらず、大動脈と大して変わらない圧力がかかります。

そのため動脈硬化を起こしやすく、これが原因で腎機能が悪化するケースもあります。

一般には糸球体の過ろ過の場合にはアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアルドステロン受容体拮抗薬を処方するのですが、このストレイン・ベッセルの硬化の場合には逆効果になりますので注意が必要です。

こういう場合にはカルシウム拮抗薬が最適です。

 

暑さが厳しくなってむしろ低血圧で体調を崩す方もお見受けするようになりました。

特に急に立ち上がった時などに一過性の低血圧をおこしめまいやふらつきを自覚することもあると思います。

起立性低血圧とは急な立位で一時的に血圧の維持ができなくなることで、高血圧と同時に併存する可能性もあります。

原因は自律神経の異常(例えばパーキンソン病や単なる体質)、降圧剤の影響、脱水などがあります。

降圧剤内服中の方は慌てて降圧剤を中止するのは危険で、夏場になって常に血圧が低くなっているのかそれとも一過性のものなのかを十分見極める必要があります。

昇圧剤を必要とするケースはむしろ稀で、涼しい部屋で十分の水分を摂取し臥位で休養すると回復します。

ただ、常に低血圧が持続する場合には降圧剤の減量・中止も検討する必要があります。

実際には昇圧剤を必要とするケースはまれで、十分な睡眠や水分補給で軽快することが殆どです。

 

心房細動では規則正しい収縮を失った心房内で血流がよどみ、血栓が形成されやすくなりその血栓が心房壁からはがれて血流にのって流れると脳梗塞をおこします。

ですので、心房細動の場合には抗凝固剤を内服し血液を固まりにくくして血栓の形成を予防しなければいけません。

当然のことながらこの抗凝固剤の副作用は出血です。

臨床研究では重症な出血、例えば脳出血などは稀で比較的安全性の高い薬なのですが、それでも超高齢者では出血が危惧されたり腎機能低下のため抗凝固剤の使用が難しい場合には左心耳閉鎖というカテーテル手術を実施する場合があります。

左心房の血栓はほとんどが左心耳という左心房から突き出た別室のようなところで形成されます。

この左心時にWATCHMANというデバイスで蓋をしてしまおうという方法です。

日本では2019年に保険適応となったばかりの新しい治療方法ですが、臨床研究では抗血栓効果は抗凝固剤に劣らず、出血副作用は抗凝固剤より少なかったそうです。

 

当院ホームページのオンライン問診はユビーという会社と契約しているAI問診です。

患者様が記入された問診内容から、推定される診断がいくつか表示され、それに関連するガイドラインなども閲覧できます。

このオンライン問診を送信いただいた方はまずAIが診断を試み私がそれを参考にします。

しかしながらこのAI問診に「なるほど」と唸らされた経験はいまのところありません。

一つにはAIに与えられるデータは患者様の自覚症状のみであり、診察所見や検査結果などが含まれず、情報量も圧倒的に少ないと思います。

それに人間の医師からのフィードバックも少ないように思います。

フェイスブックが欧米でユーザーの投稿内容を分析しうつ状態で自殺の可能性のあるユーザーに心理的なリソースへのリンクを送り始めたのが2017年だそうですから日本のAI活用は周回遅れですね。

 

心房細動は頻脈になるとそれだけで心不全を起こしうりますから心拍数が増えすぎないように治療しなければいけません。

用いる薬剤はβ(ベータ)遮断薬、ジギタリス製剤、カルシウム拮抗薬、陽イオンチャンネル阻害薬などの選択肢がありますが最も汎用されるのはベータ遮断薬です。

一口にβ遮断薬と言っても多くの種類がありベータ受容体のサブタイプ(β1とβ2)の選択性、内因性交感神経刺激作用の有無で分類されます。

一般にβ1選択性が高く内因性交感神経刺激作用のない脂溶性のものが効果を発揮し汎用されます。

β1受容体選択制の低い薬は気管支に分布するβ2受容体にも作用し副作用を起こす危険性があるので敬遠されるのですが、心臓に分布するβ受容体が100パーセントβ1であるというわけではなく、気管支に分布するβ受容体が100パーセントβ2受容体というわけもないので気管支喘息などのある方は慎重に使用しなければいけません。

また薬剤のβ受容体の選択性については動物実験の結果をもとに表記されているケースもみられますので、実臨床の場で用いられるのは経験的にカルベジロール・ビソプロロール・メトプロロールの3種類です。

この3種類のベータ遮断薬は心拍数を低下させるのみならず、心房から心室への伝導も抑制しますので心房細動の場合には好都合です。

さらに血圧を下げる作用もあり高血圧を合併する方には一石二鳥と言えます。

心不全に対してはリバースリモデリング作用(低下した心機能を回復させる作用)があることも証明されており心房細動のみならず心不全にも第一選択薬です。

 

 

 

糸球体という血液を濾すろ紙に過剰なろ過を強いるとろ紙が目詰まりを起こして腎機能が低下するという説はブレナーという医学者により提唱されハイパーフィルトレーションセオリーと呼ばれます。

私が研修医の頃にブレナーの講演をビデオで見たことがあります。

もちろん英語での講演なのですが、医局の先輩方は話を聞きながらウンウンとうなづきながら感心して聞いておられ、その横で英語力のない私は分かったふりをしながらうなづいていました。

内容は後日日本語に翻訳された内容を読んで理解したという情けない思い出ですが、今日でもこのセオリーは腎機能を保護するうえで基礎となるものです。

糸球体過ろ過を抑制する代表的な薬剤はアルドステロン受容体拮抗薬ですが、実は最近糖尿病の治療薬であるSGLT2阻害薬にも腎機能保護の作用があることが大規模臨床研究から証明され臨床にも利用されています。

しかし、開始時に一過性の腎機能低下がありますので処方には注意が必要です。

昨今ではいろんな薬剤の効能は大規模臨床研究により判明し臨床応用されることが殆どなのですが、本当はなぜその薬剤がその効果を持つのかを解明するべきと私は思うのですが現実にはそうではありません。

その薬剤の作用機序を十分解明することが後手に回っていることが残念です。

 

腎臓の糸球体は血液を濾して尿を作るろ紙のような構造なのですが、過剰なろ過を続けるとろ紙が目詰まりをおこしてしまい、いったん目詰まりをおこした糸球体は回復しません。

目詰まりをおこして機能を失った糸球体が現れると、ほかの糸球体にその分の負担がかかり過ろ過になりその糸球体も目詰まりをおこし・・・、といった具合に糸球体は徐々に減っていきます。

ですので、腎機能低下が危惧されるケースでは早期から糸球体濾過を下げる工夫が必要です。

糸球体の過ろ過を下げる方法はいくつかありますが、一つは糸球体の輸入細動脈を収縮させ輸出細動脈を拡張させることによって糸球体の濾過圧を下げる方法です。

こういう作用を持った降圧剤がアンジオテンシン変換酵素阻害薬またはアルドステロン受容体拮抗薬です。

糖尿病の方で蛋白尿も見られないが血液検査をすると糸球体濾過率が正常を大きく上回る方がおられます。

正常を上回るのだから良いのかというとそうではなく、この状況が継続するといずれ腎機能が低下してきます。

こういう段階から腎機能を守る工夫をしておかないと手遅れになることになります。

 

 

収縮機能が正常な心不全には、拡張機能障害による心不全以外にも存在します。

脈が速すぎる場合、脈が遅すぎる場合、ホルモンの異常で体液バランスが崩れる場合など決して稀ではありません。

特に脈拍の早い心房細動は要注意です。

心電図中の鋭く高い波はQRS波と呼ばれますが、心室が収縮し血液を送り出す時相です。

このQRSの幅(収縮期)は脈拍によって変化しませんから脈拍が多くなると相対的に拡張期の時相が短くなります。

心房細動では左心房の収縮が無くなり心室に血液を押し込む力が無くなりますので、心室への流入が減ります。

左心室へ血液を押し込む力が失われているうえに、拡張期の時間が短くなると心室に十分の血液が流入しにくくなります。

ですので心房細動では心室の収縮能が正常でも、脈が速くなるとそれだけで心不全を起こしうります。

特に左心室への流入障害のある場合、僧帽弁狭窄症や心室肥大などでは頻脈には要注意です。