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健診でブルガダ心電図と診断され受診をすすめられるケースが少なからず見られます

ブルガダ症候群は昔日本で「ぽっくり病」と呼ばれた突然死をする不整脈疾患です

働き盛りの男性が何前触れもなく心室細動を起こし突然死する遺伝子病で、生前からある特徴のある心電図を呈することが知られておりブルガダ心電図と呼ばれます

ただブルガダ心電図には3タイプがありタイプ1はブルガダ症候群である可能性が大きいのですがタイプ2あるいはタイプ3ではブルガダ症候群であることは稀です

ただし、タイプ2でも発熱時やある種の抗不整脈薬内服後にタイプ1に変化するケースもあるので注意が必要です

健診でブルガダ心電図と診断された場合にはまずタイプ1なのかどうかが大切で、その他に失神発作の経歴や突然死の家族歴も参考になります

ブルガダ心電図と診断された方が全てブルガダ症候群ではありませんので混同されませんようにお願いします

 

不整脈や狭心症を検出するのに有用なのがホルター心電図です

動悸や胸痛を自覚しても病院に到着するころには症状そのものが治まってしまって心電図を記録しても診断がつかないことが多いのが実情です

ホルター心電図は胸部に張り付けるだけで24時間以上の心電図を記録できますから、数分程度で収まる動悸や胸痛などの心臓発作を検出するのに優れています

当院では24時間装着の従来型のホルター心電図以外に、2週間連続装着可能なものあるいはバンドエイド程度の大きさで1週間装着できる小型のハートノートの3種類のホルター心電図に加え

自覚症状があるときにポケットから取り出して自身でスマホを用いて記録する携帯型心電図を用意しております

それぞれにそれぞれの長所と短所があり使い分けます

 

全国でApple Watch 外来を実施する医療機関が増えていますね

Apple Watch は不整脈を検知する機能を備えておりその診断は古典的なルールドAIではなく8層のディープラーニングAIが担当しているそうです

同社によりますと心房細動検出の感度(心房細動を心房細動と診断する確率)は98%、特異度(心房細動でないものを心房細動でないと診断する確率)は90%です

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ですのでApple Watch の診断は医師が確認する必要があります

iphone からPDFファイルとして保存する

Apple Watch の画面をスクリーンショットする

のいずれかの画像をご提示頂ければ参考になります

この場合、当院を受診し対面診察をお受け頂く以外にも、オンライン診療でPDFまたは画像を添付頂けましたら対応可能です。

ぜひご活用ください。

心臓は筋肉でできた筒のような構造をしていて拡張と収縮を繰り返し血液を送り出すポンプの役割をしています。

心筋は拡張時に大きく引き伸ばされればそれだけ強い力で収縮するという性質があり、スターリングの法則と呼ばれます。

長い拡張期に大きく拡張した心臓はそれだけ強い力で多くの血液を送り出すというわけです。

下の心電図の上向きの鋭く大きい波形は心室の収縮を意味し、その間は拡張期です。

拡張期は長く収縮期はほんの一瞬ですね。

はじめの4心拍までは正常なのですが、5心拍目に拡張期の短い期外収縮という不整脈が出ています。

例えば、初めの4心拍までは収縮期血圧120で一回の心拍出量が80mlとしましょう。

5心拍目の期外収縮は拡張期が短いので心室への流入血液量も少なく拍出する力も弱くなります。

収縮期血圧は80で一回の拍出量は40ml程度でしょう。

ちょうど「脈がとぶ」感じがする(脈拍結滞)はずです。

その後の5心拍目は通常の心拍なのですが、不整脈の後で拡張期が長く多くの血液が心臓に流入しより強い力で心臓は収縮します。

収縮期血圧は200くらいで一回の拍出量は120mlていどでしょう。

かなり強い「ドキン」とする動悸を感じると思います。

不整脈の場合、この5心拍目の期外収縮を動悸を感じると誤解されがちですが実際に動機として自覚するのはその後の6拍目の正常心拍です。

 

 

動悸などを自覚し循環器内科を受診する方のうち治療を必要とする不整脈がみられるのは多いものではありません。

しかし一方で不整脈による突然死があるのも事実で、多くが心室頻拍や心室細動です。

これらは大きく分けて

・遺伝性不整脈疾患:心筋のイオンチャネルの異常により不整脈が起こる

ブルガダ症候群

遺伝性QT延長群

カテコラミン誘発性多型制心室頻拍

などがあり、さらに

・器質的心疾患

心筋症

虚血性心疾患

弁膜疾患

高血圧性心疾患

などの器質的心疾患によるものがあります。

不整脈による突然死を事前に予知するのは簡単なことではなく、心臓電気生理学的検査や遺伝子検査がありますがどういった場合にこれらの検査をするのかについても判断が難しい場合があります。

一般的には

めまいや眼前暗黒感などの脳貧血症状を伴う場合は要注意で、そういう症状のある場合は急いで検査をすることが進められます。

当院では

24時間

1週間

2週間

装着できる3種類のホルター心電図を実施しております。

上記の症状のある場合は早めに受診してください。

 

 

この3月に改訂された日本循環器学会2024年版不整脈治療ガイドラインでは心房細動による脳梗塞発症において、低体重(BMI18.5未満)が危険因子として認定されています。

低体重心房細動患者では、全死亡と心血管死の発生率が高かったそうです。

ですから、この基準に該当する人では抗凝固療法を実施する意義が高くとりわけDOAC(直接経口抗凝固薬)がワーファリンに比して有効性・危険性とも優れていることが示されています。

ここで誤解してはならないのは、体重を増やせば死亡率も心血管死も発生率が下がるわけではないということです。

それに関しては介入試験を実施しないと分かりません。

 

3月8日~10日の間、神戸で第88回日本循環器学会総会が行われました。

そのタイミングの合わせて日本循環器学会の不整脈ガイドラインも改訂されました。

いくつかの大きな改訂点があるのですが今回はそのうちの一つ心房細動における脳梗塞予測スコアについてご説明いたします。

 

梗塞発症リスクを判断するための簡便なリスクスコアとして,CHADS2スコア,CHA2DS2-VASc スコアが従来用いられてきました.

しかし,海外で開発されたこれらのリスクスコアを本邦に適用できるか否かについて,日本人を対象とした3つのレジストリ

で統合解析を行ったところ,両スコアの構成要素のなかで脳梗塞発症に寄与する独立危険因子として同定されたのは

・年齢75歳以上

・高血圧

・脳卒中既往

の3因子のみでした。

さらに,2つの追加レジストリを加えた統合解析で得られた独立危険因子は,

・年齢75~84歳

・年齢85 歳以上

・高血圧,

・脳卒中既往

・BMI 18.5 kg/m2未満

・持続性/永続性心房細動

の6因子でした.

すなわち,CHADS2スコア,CHA2 DS2-VASc スコアと共通する危険因子として年齢,高血圧,脳卒中既往の3因子が追認された一方で

糖尿病,心不全,血管疾患は独立危険因子として同定されませんでした.

かわりに,85歳以上,BMI 18.5 kg/m2 未満,持続性/永続性心房細動という新たな危険因子が同定され重みづけを行い,

・高血圧(H: Hypertension)

・年 齢 75~84 歳(E: Elderly)

・BMI 18.5 kg/m2 未満(L: Low BMI)

・持続性/永続性心房細動(T: Type of AF)を 1点

・年齢 85歳以上(E: Extreme elderly)

・脳 卒 中 既 往 ( S: previous Stroke)を 2点

とする合計7点(年齢の Eが2つあるが配点は互いに背反)のリスクスコア評価法を定め,HELTE2S2 スコアと名付けられました。

HELT-E2S2スコア別の脳梗塞発症率は,

抗凝固療法なしの場合,0点で0.57%/年,1点で0.73%/年,2点で1.37%/年,3点で2.59%/年,4 点で3.96%/年,5点以上で5.82%/年とはっきりと点数依存性に上昇し、

HELT-E2S2スコア2点以上における脳梗塞発症率は,抗凝固療法ありの場合はなしの場合に比べて半分程度でした。

 

今後は日本ではHELTE2S2 スコアが脳梗塞治療の基準としてスタンダードになるでしょうね。

心房細動では頻脈になればそれだけで心不全を誘発しますし、長期予後も悪く死亡率や脳卒中などの有害事象も増えることが分かっています。

このことを立証した大規模臨床試験がAFFIRM試験で

・安静時心拍数80以下

・6分間歩行時の心拍数110以下

の群では死亡率も低下し大きな合併症も少なかったとされています。

これは最適な心拍数がどの程度なのかを示すものではないのですが、ほかの臨床試験でもベータ遮断薬により心拍数を少なくすることが長期予後改善につながることが証明されています。

心房細動の方は自分の安静時の心拍数を把握することも重要です。

 

心房細動では規則正しい収縮を失った心房内で血流がよどみ、血栓が形成されやすくなりその血栓が心房壁からはがれて血流にのって流れると脳梗塞をおこします。

ですので、心房細動の場合には抗凝固剤を内服し血液を固まりにくくして血栓の形成を予防しなければいけません。

当然のことながらこの抗凝固剤の副作用は出血です。

臨床研究では重症な出血、例えば脳出血などは稀で比較的安全性の高い薬なのですが、それでも超高齢者では出血が危惧されたり腎機能低下のため抗凝固剤の使用が難しい場合には左心耳閉鎖というカテーテル手術を実施する場合があります。

左心房の血栓はほとんどが左心耳という左心房から突き出た別室のようなところで形成されます。

この左心時にWATCHMANというデバイスで蓋をしてしまおうという方法です。

日本では2019年に保険適応となったばかりの新しい治療方法ですが、臨床研究では抗血栓効果は抗凝固剤に劣らず、出血副作用は抗凝固剤より少なかったそうです。

 

心房細動は頻脈になるとそれだけで心不全を起こしうりますから心拍数が増えすぎないように治療しなければいけません。

用いる薬剤はβ(ベータ)遮断薬、ジギタリス製剤、カルシウム拮抗薬、陽イオンチャンネル阻害薬などの選択肢がありますが最も汎用されるのはベータ遮断薬です。

一口にβ遮断薬と言っても多くの種類がありベータ受容体のサブタイプ(β1とβ2)の選択性、内因性交感神経刺激作用の有無で分類されます。

一般にβ1選択性が高く内因性交感神経刺激作用のない脂溶性のものが効果を発揮し汎用されます。

β1受容体選択制の低い薬は気管支に分布するβ2受容体にも作用し副作用を起こす危険性があるので敬遠されるのですが、心臓に分布するβ受容体が100パーセントβ1であるというわけではなく、気管支に分布するβ受容体が100パーセントβ2受容体というわけもないので気管支喘息などのある方は慎重に使用しなければいけません。

また薬剤のβ受容体の選択性については動物実験の結果をもとに表記されているケースもみられますので、実臨床の場で用いられるのは経験的にカルベジロール・ビソプロロール・メトプロロールの3種類です。

この3種類のベータ遮断薬は心拍数を低下させるのみならず、心房から心室への伝導も抑制しますので心房細動の場合には好都合です。

さらに血圧を下げる作用もあり高血圧を合併する方には一石二鳥と言えます。

心不全に対してはリバースリモデリング作用(低下した心機能を回復させる作用)があることも証明されており心房細動のみならず心不全にも第一選択薬です。