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稀なものですが緊急を要する高血圧も存在します。

拡張期血圧が120-130mmHg 以上で放置すると臓器障害が急速に進行するものです。

この状態では悪性腎硬化症と言われる急激な腎機能の低下があり、しれがさらに血圧を上昇させるという悪循環に陥りますので緊急の降圧が必要です。

腎臓以外に眼では網膜出血や乳頭浮腫がみられ脳浮腫を伴えばふらつきなどの症状もあります。

緊急時の診断では網膜病変を用いることが多く海外では

「網膜出血や乳頭浮腫を伴う高血圧」

と呼ばれることもあります。

1970年代は一旦この加速型悪性高血圧を発症すれば5年生存率は32%、すなはち5年以内に3人のうち2人が死亡すると言われていましたが、最近はこの加速型悪性高血圧そのものの頻度が低下し、治療方法の進歩により現在では5年生存率は90%以上です。

但し、発症時の腎機能の低下の程度が予後予測因子で腎機能障害が高度の場合は注意が必要です。

動悸などを自覚し循環器内科を受診する方のうち治療を必要とする不整脈がみられるのは多いものではありません。

しかし一方で不整脈による突然死があるのも事実で、多くが心室頻拍や心室細動です。

これらは大きく分けて

・遺伝性不整脈疾患:心筋のイオンチャネルの異常により不整脈が起こる

ブルガダ症候群

遺伝性QT延長群

カテコラミン誘発性多型制心室頻拍

などがあり、さらに

・器質的心疾患

心筋症

虚血性心疾患

弁膜疾患

高血圧性心疾患

などの器質的心疾患によるものがあります。

不整脈による突然死を事前に予知するのは簡単なことではなく、心臓電気生理学的検査や遺伝子検査がありますがどういった場合にこれらの検査をするのかについても判断が難しい場合があります。

一般的には

めまいや眼前暗黒感などの脳貧血症状を伴う場合は要注意で、そういう症状のある場合は急いで検査をすることが進められます。

当院では

24時間

1週間

2週間

装着できる3種類のホルター心電図を実施しております。

上記の症状のある場合は早めに受診してください。

 

 

特定健診の令和6年度から用いられている血圧の受診勧奨判定値について基準が変ったとか、高血圧の診断基準が変わったという誤解が広まっていますので、高血圧学会の声明を掲載いたします。

 

『厚生労働省による「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度度版)」の受診勧奨判定値を超えるレベルの対応についてこの内容は、以下のようになっており、これは、日本高血圧学会による高血圧治療ガイドライン2019年版の推奨と同じです。

● 収縮期血圧≧160mmHg又は拡張期血圧≧100mmHg → ①すぐに医療機関の受診を

● 140mmHg≦収縮期血圧<160mmHg又は90mmHg≦拡張期血圧<100mmHg → ②生活習慣を改善する努力をした上で、数値が改善しないなら医療機関の受診を

今回の誤解は、2つの記載の①だけを強調されたものと考えられます。

受診勧奨に関するより具体的な説明が「健診結果とその他必要な情報の提供(フィードバック文例集)」に記載されていますので紹介します。

上記の②に相当するⅠ度高血圧(140mmHg≦収縮期血圧<160mmHg又は90mmHg≦拡張期血圧<100mmHg)への対処は以下のように記載されています(抜粋)。

「今回、あなたの血圧はⅠ度高血圧になっていました。この血圧レベルの人は、望ましい血圧レベルの人と比べて、約3倍、脳卒中や心臓病にかかりやすいことが分かっています。正確な血圧の診断の上で、治療が必要となる血圧レベルです。血圧を下げるためには、減量、適度な運動、お酒を減らす、減塩、野菜を多くして果物も適度に食べるなど、生活習慣の改善が必要です。ご自身で生活習慣の改善に取り組まれる方法、特定保健指導を活用する方法、保健センター等で健康相談や保健指導を受ける方法等があります。これらを実行した上で、おおむね1か月後にかかりつけの医療機関で再検査を受けてください」

健診では一過性の血圧の上昇もありますし、ちょっとした自己管理で血圧が下がる場合もあります。

また受診して正確な血圧の診断をした場合でも、Ⅰ度高血圧の場合、1ヶ月は生活習慣の改善を行い再評価します。

1か月後の時点で服薬の要否を判断するのは主治医と患者さんご自身です。

なお、重要なこととして、Ⅰ度高血圧でも、脳心血管病、心房細動、慢性腎臓病、糖尿病、危険因子の集積がある場合は、至急かかりつけの医療機関を受診すべきことが、同じフィードバック文例集に記載されてます。

健診結果に基づく受診勧奨も、高血圧治療ガイドラインも科学的エビデンスに基づいて作成されています。これらに変更があったわけではありません。』

 

ネット上には情報が氾濫しており正しい情報と誤った情報を見分ける能力が求められます。

ご不明な点は医師にお尋ねください。

 

徐々に気温が上昇するにつれ冬場は高値だった血圧も低下傾向を示す方が増えてきました。

下がり過ぎて不安という方もおられるようです。

診察室で測った場合の血圧は

・高血圧    140/以上   または /90以上

・高値血圧   130-139/ または /80-90

・正常高値血圧 120-129/ かつ  /80以下

・正常血圧   120/以下   かつ  /80以下

と定義されており家庭血圧はこれからそれぞれ5を引きます。

多くの方が110/台の血圧を下がり過ぎと解釈されるようですが、そうではありません。

もちろん下がり過ぎてふらつくとかめまいがするなどの場合は降圧剤の減量・中止も考慮しなければなりません。

 

 

3月8日~10日の間、神戸で第88回日本循環器学会総会が行われました。

そのタイミングの合わせて日本循環器学会の不整脈ガイドラインも改訂されました。

いくつかの大きな改訂点があるのですが今回はそのうちの一つ心房細動における脳梗塞予測スコアについてご説明いたします。

 

梗塞発症リスクを判断するための簡便なリスクスコアとして,CHADS2スコア,CHA2DS2-VASc スコアが従来用いられてきました.

しかし,海外で開発されたこれらのリスクスコアを本邦に適用できるか否かについて,日本人を対象とした3つのレジストリ

で統合解析を行ったところ,両スコアの構成要素のなかで脳梗塞発症に寄与する独立危険因子として同定されたのは

・年齢75歳以上

・高血圧

・脳卒中既往

の3因子のみでした。

さらに,2つの追加レジストリを加えた統合解析で得られた独立危険因子は,

・年齢75~84歳

・年齢85 歳以上

・高血圧,

・脳卒中既往

・BMI 18.5 kg/m2未満

・持続性/永続性心房細動

の6因子でした.

すなわち,CHADS2スコア,CHA2 DS2-VASc スコアと共通する危険因子として年齢,高血圧,脳卒中既往の3因子が追認された一方で

糖尿病,心不全,血管疾患は独立危険因子として同定されませんでした.

かわりに,85歳以上,BMI 18.5 kg/m2 未満,持続性/永続性心房細動という新たな危険因子が同定され重みづけを行い,

・高血圧(H: Hypertension)

・年 齢 75~84 歳(E: Elderly)

・BMI 18.5 kg/m2 未満(L: Low BMI)

・持続性/永続性心房細動(T: Type of AF)を 1点

・年齢 85歳以上(E: Extreme elderly)

・脳 卒 中 既 往 ( S: previous Stroke)を 2点

とする合計7点(年齢の Eが2つあるが配点は互いに背反)のリスクスコア評価法を定め,HELTE2S2 スコアと名付けられました。

HELT-E2S2スコア別の脳梗塞発症率は,

抗凝固療法なしの場合,0点で0.57%/年,1点で0.73%/年,2点で1.37%/年,3点で2.59%/年,4 点で3.96%/年,5点以上で5.82%/年とはっきりと点数依存性に上昇し、

HELT-E2S2スコア2点以上における脳梗塞発症率は,抗凝固療法ありの場合はなしの場合に比べて半分程度でした。

 

今後は日本ではHELTE2S2 スコアが脳梗塞治療の基準としてスタンダードになるでしょうね。

診察室で測定した血圧は高くないにも関わらず自宅などで測定した場合に高血圧の基準を満たす場合には仮面高血圧と言い、

早朝高血圧

昼間高血圧

夜間高血圧

があります。

高血圧の基準は診察室では140/90ですが、自宅で測定する場合は135/85です。

ただし、夜間高血圧の場合には独自の基準があり120/70です。

厳密には24時間血圧計を用いて測定した平均値から判断するのですが家庭血圧計で代用することも可能です。

夜間高血圧も脳血管疾患や認知機能低下の原因となることが分かっています。

 

仮面高血圧には昼間高血圧も含まれます。

身体活動の多い時間帯で、職場や家庭での精神的ストレスや身体的ストレスが原因でストレス下高血圧とも呼ばれます。

特に肥満の方に多く生活習慣の改善や適性体重の維持が必要です。

これも他の仮面血圧と同様診察室外血圧が診断基準なので、基準は135/85が高血圧の基準となります。

 

 

仮面高血圧とは診察室では高血圧ではなくても、それ以外の状況では高血圧を呈する場合を指し

①早朝高血圧

②昼間高血圧

③夜間高血圧

があります。

早朝高血圧の原因として

飲酒・喫煙

寒冷

血管の硬化

短時間作用型の降圧剤の不適切な処方

等があります。

冬場は特に朝の血圧が上昇します。

十分な睡眠をとり部屋を暖かくし、トイレも暖かくして下さい。

 

グリチルリチンはある種の漢方薬や健康補助食品に含まれますが、内因性のコルチゾール(ステロイドホルモン)の効果を増強し血圧を上昇させます。

グリチルリチンの摂取量・接種期間に比例し高血圧が発症しやすくなります。

特に60歳以上の方は危険と言われています。

コルチゾールはナトリウムを貯留するのと同時にカリウムを排泄しますので、多くの場合低カリウム血漿をきたします。

こういう場合は該当する健康補助食品を中止してもすぐには血圧は低下せず、血圧の正常化には数週間~数か月を要します。

健康補助食品による高血圧は案外盲点です。

健康補助食品を常用されている方はお気を付けください。

 

 

寒い冬の朝に脳卒中が多いことは以前から知られています。

寒い冬の朝、特に暖房の入っていないトイレで急に血圧が上昇し脳卒中を発症することは稀ではありません。

寒い冬は一晩中でも暖房を入れること、または早朝にタイマーで暖房を入れることは急激な血圧上昇を予防するのに効果的です。

しかしトイレにまで暖房を設備している家は稀でしょうから、冬の朝にはトイレに注意が必要です。

トイレだけ寒くならないように冬場はトイレのドアは開けっ放しにすることをお勧めしていますが、それだけでは十分ではない場合には電気ストーブをお勧めしています。

ルームエアコンはスイッチをお入れてから部屋が温まるまで数分は必要ですが電気ストーブですと特に狭いトイレなどでは数秒で暖かくなります。

コンセントさえあればすぐにでも設置できますのでトイレの暖房にはお勧めです。