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新型コロナ肺炎のためストレスの多い生活を余儀なくされている影響でしょうか、最近動悸を訴え受診される方が多いような気がします。

動悸の多くは何らかの不整脈が原因なのですが、不整脈のすべてが治療を必要とするわけではありません。

むしろ治療を要する不整脈はごく一部で大多数の不整脈は放置可能なものです。

現実に24時間心電図を解析して24時間で不整脈が1拍も無いという人を私は見たことがありません。

それほど不整脈は誰にでも起こるありふれたものです。

そしてその多くは精神的ストレス・不眠・喫煙・飲酒や過労などの生活環境に大きく影響を受けます。

動悸に対する不安感そのものが精神的ストレスとなりそのため不整脈が悪化するという悪循環はよく見受けられます。

とは言え急いで治療を要する不整脈が一部にあるのも事実で、今後高血圧の話と並行して不整脈についてもお話ししようと思います。

一般に危険な不整脈の特徴は動悸以外の症状があるものです。

特に注意が必要なものは血行動態の異常を疑う症状、例えば「頭から血の気が引くような感じがする」「足が浮腫む」「息切れがする」などの症状がある場合は注意が必要です。

一口に不整脈と言っても多くの種類があります。

このブログで少しづつ分かりやすく解説させて頂きます。

ある人たちの集団を追跡調査し、二つの事象の関連を調べることを観察研究と言います。

例えばある地域の住民を「塩分摂取量」と「脳卒中発生率」に関して年余にわたり追跡調査し、

「塩分摂取量の多い人ほど脳卒中発生率が高かった」という事実を突き止めることを観察研究と言います。

この場合「塩分摂取量を減らすと脳卒中発生率が低下する」かは不明です。

そこで「塩分制限をした人たち」と「塩分制限をしなかった人たち」について追跡調査します。

そして「塩分摂取をすると脳卒中発生率が低下する」という事実を突き止めることを介入研究と言います。

「塩分制限」という治療で住民に介入するという意味です。

現実に「塩分摂取が多いと血圧は上昇し、塩分摂取を制限すると血圧は低下し脳卒中発生率は低下する」

ことは複数の観察研究・介入研究で証明されています。

1950年代の日本のある地域で実施された調査では日本人一日の塩分摂取量は25グラムにも達していたそうです。

2016年の調査では日本人一日の塩分摂取量は9.9グラムだそうですから大幅に減少しています。

この塩分摂取量減少の大きな要因は冷蔵庫の普及だと言われています。

冷蔵庫の普及により野菜や魚を塩漬けにして保存する必要がなくなり、塩分摂取量が減少したという訳です。

WHO(世界保健機構)では一日塩分摂取量は5グラム未満が推奨されていますから、我々はさらに減塩の必要があることになります。

冷蔵庫のような特効薬を考えているのですがなかなか妙案は浮かびません。

血圧は常に変動します。

精神的ストレスによるイライラ感・睡眠不足・疼痛・不安・便秘や気温の変動など多くの要因で血圧は急に上昇します。

家庭で血圧を測定し上昇していると、脳卒中などに対する懸念からさらに血圧が上昇し、上昇するとさらに不安になり・・・。

こんな一過性の血圧上昇は珍しいことではありません。

一過性の血圧上昇は一部の例外を除き緊急降圧の対象とはなりません。

多くの場合安静のみで降圧しますから、超短時間に血圧を下げる降圧剤を内服すると過度の降圧を招き脳や心臓の虚血を招きかねないので緊急降圧は禁忌です。

家庭で急な血圧の上昇に気づいた場合は麻痺や頭痛などの症状がない限りまず安静にして気持ちを楽にすることが最善の方法です。

 

心房細動という不整脈は長嶋茂雄さんが脳梗塞を発症してよく知られるようになりました。

血圧が高いと心房細動発症のリスクが増加しますし、

心房細動の方では血圧が高いほど脳卒中発症のリスクが増加します。

ですので心房細動の方では血圧の管理が極めて重要です。

一般に130/80未満を目標に血圧を調節するのが望ましいと言われています。

心房細動の方では脳梗塞予防のために抗凝固剤を内服することが多いのですが、この薬は脳出血のリスクにもなりますのでなおさら十分な降圧が必要です。

心房細動では脈拍が多いとそれだけで心不全を発症しますので脈拍を減らすベータ遮断薬を処方されることが多いです。

もちろん減塩が重要なことは言うまでもありません。

心肥大は心臓にかかる圧負荷により心臓の壁が厚くなった状態です。

高血圧に心肥大を合併すると心不全や冠動脈疾患あるいは死亡率そのものも上昇することが分かっています。

逆に降圧治療により心肥大が退縮するとこれらのイベントや突然死も減少することが証明されています。

ですので心肥大のある方には高血圧治療が特に重要です。

収縮期血圧130以下の降圧でこれらのイベント発生が抑制されますが、特にARB(アルドステロン受容体拮抗薬)とカルシウム拮抗薬でその効果が顕著です。

健康診断で心肥大を指摘された方は十分な治療が必要です。

green leaf

高血圧を放置すると多くの臓器に障害がでます。

脳卒中や心臓病、認知症などが代表的なものですがなかでも腎臓は血圧の影響を受けやすい臓器です。

腎臓は一言でいえば血液を糸球体というざるで濾して尿を作る臓器です。

ですので腎機能の低下すなはち腎不全は血液から不要な老廃物や余分な水分を取り除くことができなくなる病気です。

高血圧による腎臓の障害の代表は腎硬化症ですが、大きく分けて2種類があります。

一つは血液をろ過する糸球体の硬化で、分かりやすく言えば糸球体というざるの目がつまってくる状態で糸球体の障害を示唆する蛋白尿がみられるようになります。

この場合、高血圧により糸球体に過剰な負荷がかかりざるの目がつまってくるので、糸球体に対する過剰な負荷を抑えるために糸球体のろ過を抑える作用のあるARB(アンジオテンシン受容体拮抗薬)やACEI(アンジオテンシン変換酵素阻害薬)を用います。

もう一つは糸球体の手前の細動脈の硬化です。

腎臓という臓器の特殊なところは大動脈から数センチしか離れていないにも関わらずすぐに細かい血管に枝分かれするという点で、1~2mmの細い血管に大動脈と大差のない高い圧力がかかることです。

この動脈をストレイン・ベッセルと呼びますがこの血管に動脈硬化がおこるとやはり腎機能の低下が生じます。この場合は糸球体の障害はないので蛋白尿はみられません。

こういう状態でARBやACEIを投与数すると逆効果で腎機能障害が進行してしまいます。

高血圧による腎臓の障害がみられた場合にはどういうタイプの障害なのかを見極めて治療することが必要です。

 

中枢性交感神経抑制薬は、降圧作用がすぐに実感できるほど顕著で副作用も少ない降圧剤が多数発売されている今日では出番の少なくなった薬剤です。

薬剤としてはメチルドパ・クロニジン・グアナベンズがあります。

メチルドパは妊娠中にも安全に投与できるので主に妊娠中の高血圧に対して処方されます。

クロニジン・グアナベンズはα遮断薬と同様早朝高血圧に効果的とされていますが、倦怠感や立ちくらみなどの副作用が見られることがあり最近はあまり処方されなくなりました。

交感神経にはα(アルファ)受容体とβ(ベータ)受容体がありその両方ともが降圧剤として臨床応用されています。

α遮断薬は主に血管平滑筋の収縮を抑え、すなはち血管を拡張させ血圧を下げます。

ですのでどうしても立ちくらみといった起立性低血圧の副作用が散見されます。

一過性の副作用で大事に至ることは殆どありませんが、服薬開始時には注意が必要です。

他に降圧効果の強い製品が多く市販されていますので出番は少なくなってきていますが、前立腺肥大による排尿障害を抑制しますので前立腺肥大を併発されている方にはうってつけの薬です。

その他に早朝高血圧の方にも好んで投与されます

ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬も利尿剤の一種なのですが、他の利尿剤とは働きが違うので別に語られることが多い薬です。

ミネラルコルチコイドはアルドステロンのことで原発性アルドステロン症治療に大して用いられます。

アルドステロンは単に血圧を上げる以外に多くの臓器を直接傷害し、本態性高血圧に比して極めて予後が悪いことから別に扱われ、用いる降圧薬も異なります。

一般に処方されるミネラルコルチコイド受容体拮抗薬にはスピロノラクトン(アルダクトン)やエプレレノン(セララ)があります。

利尿剤なので尿量が増え心臓の負担が減少しますから心不全治療にも用いられます。

代表的な副作用は高カリウム血症ですので腎不全の方には要注意です。

他に、乳房が大きくなり男性でも女性のような乳房になることがあります。

アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)はアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)と作用機序が類似しており効果の面でも似通っている薬なのでひとくくりに論じられることも多いと思います。

ARB同様に腎機能の保護作用がありまた狭心症などの冠動脈疾患の発症リスクも軽減しますし、糖尿病患者の死亡リスクも低下させることが証明されていますから特に腎症を合併した糖尿病患者さんでは多用されます。

空咳という特有の副作用がありますが、一般には認知されていないせいか患者さん自身がこの咳を降圧薬の副作用とは自覚しないケースも珍しくありません。

降圧効果はARB同様と言われていますが、実臨床ではARBより劣る印象があります。

実は空咳の副作用はアジア人に多く、日本での投与量が欧米に比して低く設定されているからだと思います。

ですので一般にはARBの方が多用されているようです。

 

ところで、この満月の写真は私の英会話の先生 Mike Hoyer さんがバンクーバーから送って下さったものでカナダでは warm moon と呼ばれるそうです。

この満月をきっかけに徐々に暖かくなり春を実感するそうです。

日本では春は梅や桜といった植物で感じることが多いと思いますが、緯度の高いカナダでは冬は昼間の時間が極端に短くなるので空を見て季節を感じるのでしょうね。

 

warm moon