私は本を読むことが好きです。

ドキュメンタリー・歴史・政治や経済などいろんなジャンルの本を読みます。

主にブックオフの古本をたくさん買って次に読もうと置いてある本は数え切れません。

昨年読んだ中で最も印象深いのは『21Lessons』(ユヴァル・ノア・ハラリ著)です。

著者はエルサレム・ヘブライ大学の歴史学の教授なのですが過去の歴史から近未来を予想するという内容であまりに鋭い指摘にぞっとしたりします。

非常に示唆に富んで、もしかしたら私が生涯読んだ本の中で最も感銘を受けた本かもしれません。

『スマートフォンに目が釘付けになったまま通りを歩き回るゾンビたちを見たことがあるだろう。あなたは彼らがテクノロジーを支配していると思うだろうか?それともテクノロジーが彼らを支配しているのか?』

『イデオロギーに加えて、営利企業も虚構とフェイクニュースに頼っている。ブランド戦略は人々が真実と信じ込むまで同じ虚構の物語を何度となく語るという手法を取ることが多い。あなたはコカ・コーラについて考えた時どんな画像が頭に思い浮かぶだろうか?若くて健康な人々がスポーツをしながら一緒に楽しんでいるところを思い描くだろうか?あるいは太りすぎの糖尿病患者が病院のベッドに横たわっている姿を想像するだろうか?コカ・コーラをたくさん飲んでも若返れないし、健康になれないし、運動が得意にもなれない。むしろ肥満と糖尿病になる危険が高まる。それにもかかわらずコカ・コーラは長年莫大な資金を投じて自らを若さや健康やスポーツと結び付けてきた。そして何十億という人が潜在意識の中でその結びつきを信じている』

『世の中はますます複雑になっているのに、人々は今起こっていることにいかに無知であるか、気づけていない。その結果、気象学や生物学にろくな知識も持たない人が平気で気候変動や遺伝子組み換え作物についての政策を提案したり、イラクやウクライナを地図で見つけられない人がそうした国で何をするべきかに関して恐ろしく強硬な意見を唱えたりする。人々が自分の無知を正しく認識することはめったにない。なぜなら人々は同じ意見の友人や自分の意見を言裏付けるオンライオン配信のニュースからなる殻に閉じこもっておりそこでは自分の意見が絶えず増幅され正当性を問われることは稀だからだ』

等々、鋭すぎて背筋が凝りそうな指摘の連続です。

高校生の頃に『第三の波』(アルビン・トフラー著)を読んでいたく感動した記憶があります。

2022年の現在から見ればなんて言うことのない内容かもしれませんが、あの当時は情報工学が産業構造を変えるという予想の意味が全く理解できないままワクワク・ゾクゾクしました。

ハラリ氏は『もし何らかの問題が自分にとって格別に重要に思えるのなら、関連した科学文献を読む努力をすることだ。ただし、科学文献といっても専門家の査読を受けた論文や名の知れた学術出版社が刊行した書籍や定評のある大学や機関の教授の著作に限る。』

とも訴えています。

パソコンで何か調べ物をしていると私の気を誘うような期間限定バーゲン品の情報や格闘技のニュースや政治家のスキャンダルなどの無料のニュースが次々にポップアップし私にクリックさせようと躍起です。

そんな罠にはまったら最後1時間も2時間も無駄な時間を奪われた挙句に変な先入観を植え付けられます。

氾濫する情報の中で真実を見つけるには無料の情報には要注意です。

情報は力で、役に立つ情報はお金を支払う価値があるとも思います。

面倒くさがって自分の頭で考えない癖がつかないように気を払い、真偽不明の情報を鵜吞みにしない賢さが今流行りのcritical thinkingなんでしょうね。

冬になり気温が低下すると血圧は上昇傾向にあるようです。

この季節は特に家庭血圧と診察室血圧に乖離がみられる方が多いように感じます。

例えば診察では145/90であるのに家庭では130/80であるといった具合にです。

診察室に到達するまでに寒い屋外を通過し、若干の緊張感で血圧を測定すると高めになるのはある意味当然かもしれません。

ではどちらの血圧を基準にして治療するのが良いのでしょうか?

家庭血圧と診察室血圧の両者を基準にした治療結果、脳血管疾患の発生率や死亡率の差異を示した論文はありません。

しかしながら家庭血圧を基準に治療した場合のほうがより厳密なコントロールを達成できることが証明されています。

ですので、家庭血圧と診察室血圧に差異のある場合は家庭血圧を優先して治療の基準に用いることが推奨されています。

血圧計にも多くの種類がありますが、手首や指で測定するものは避けてください。

周囲の腱が多く正確に血管を圧迫できないからです。

上腕式のものであれば高価なものである必要はありません。

毎日朝と夕にできるだけリラックスして測定してみてください。

ぽっくり病という病名をお聞きになったことはあるでしょうか?

ぽっくり病は睡眠中に急に心臓が止まってしまい突然死する病気で欧米でも “Pokkuri disease” として一時話題になりました。

現在では心筋のナトリウムイオンの通り道に遺伝的な異常のあるブルガダ症候群として定義されています。

この病気は症状のない時でも特徴的な心電図を呈することから、健康診断の心電図でブルガダ心電図と診断されることがあります。

ブルガダ心電図を呈する方がすべてブルガダ症候群ではありませんが、健診の心電図からこの病気が判明し予防的な手術を受け突然死を免れるという例もあります。

また遺伝的な背景もありますので、突然死の家族歴のある方では特に注意が必要です。

心電図でこの病気が疑われる場合には通常とは違う場所に電極を付けて心電図を記録したり、ある種の抗不整脈薬を投与して心電図の変化を見たりする場合もあります。

診断が確定すれば内服薬では突然死を防げませんので、植込み型除細動器を植え込む手術をする必要がります。

当院に設置しております新型コロナウィルスを検出するリアルタイムRT-PCRは島津製作所製 Auto Amp と言い、一度に4検体が測定できますが結果判明に130分程度かかります。

主に唾液を用いて(鼻咽頭粘膜も可能)検査しますが、唾液の性情に影響を与える口腔内の状況により上手く検査ができなかったり偽陰性になったりするそうです。

特に唾液採取直前にカテキンを多く含む緑茶を接種するとカテキンの殺菌作用により偽陰性になるそうです。

ですのでPCRをご希望の方は来院前には緑茶の接種をお控え頂くのが望ましいと思います。

ところで、世界の中で日本だけが新型コロナウィルス流行が沈静化しています。

理由は多くの仮説があるものの証明された根拠のある説はなく、研究者の間でもミステリーと言われているようです。

もしかしたら日本人が多く摂取する緑茶の効果もあるのでしょうか?

そう言えば新型コロナウィルス対策に毎晩アルコールで喉や胃を消毒しているという方がおられました。

効果は・・・?

 

高血圧の場合塩分制限が大切であるのはご存じと思います。

一日の塩分摂取量を6グラム以下に制限することが血圧を下げますが、カリウムはナトリウムの血圧上昇を抑えることから野菜や果物などカリウムを多く含む食事の摂取により降圧が期待できます。

カリウム摂取により血圧が低下する以外にも、一日カリウム摂取量3.5グラムの場合脳卒中のリスクが最小になることが判明しています。

野菜・果物・低脂肪乳製品が豊富で飽和脂肪酸とコレステロールが少ないDASH食とそれに塩分制限を加えたDASH-sodiumu食が高血圧の方には特に推奨されます。

地中海食・ノルディック食や塩分制限と組み合わせた日本食などがこれに近いものです。

ただし、腎機能低下のある方はカリウム多量摂取には注意が必要です。

コロナウィルスパンデミックで本当に多くのことを経験し多くのことを学びました。

現在当院で実施している発熱外来は、発熱または上気道炎症状のある方は受診前に予め問診をし階下の別室で診察をする、発熱患者さんを一般の患者さんから完全に隔離するという方法です。

これはもちろん新型コロナ感染症を念頭に置いたものなのですが、どうして今までこのような方式をとらなかったのだろうと自問自答することがあります。

パンデミック前を思い出せば、特に冬の風邪の季節にはどこの医療機関も同じ待合室に糖尿病の方、喘息でステロイドホルモンを服用されている方、膠原病で免疫抑制剤を使用中の方や肺気腫の方が風邪やインフルエンザの方と一緒にお待ちでした。

新型コロナ肺炎を診療するようになって感染対策に配慮するようになった今から考えると、以前はなんと配慮のないことをしていたのかと痛感します。

単なる風邪でも肺気腫の方や免疫機能の抑制されている方は時として致死的になります。

いつかこの新型コロナウィルスパンデミックが終息しても、私は現在の発熱外来という診療方法を継続しようと思います。

不整脈には心拍数が多くなる頻脈性不整脈と逆に少なくなる徐脈性不整脈がありますが、徐脈性不整脈の原因の一つに洞不全症候群があります。

心臓の電気的活動は右心房の一番上にある洞結節という場所で始まります。

この洞結節の機能が低下し心拍数が少なくなるのが洞不全症候群です。

脈拍が毎分30程度に減少すると脳貧血状態となりふらつきや欠神発作がおこります。

洞不全症候群のすべてが治療を要するものではありませんが、このような症状がある場合は緊急の治療が必要です。

薬物治療は一般的ではなくペースメーカー植え込み手術をすることになります。

ただ、かなりのハードトレーニングを積んだ一流のアスリートには安静時の心拍数が極端に少ない方がおられます。

もちろんこういう場合は治療の必要性はありません。

ヤフーが中国から撤退するというニュースを耳にしました。

中国や北朝鮮などの共産主義国家ではネットの検閲があるとお聞きしています。

しかし時々日本でも検閲があるのではないかと疑いたくなるくらい検索でヒットしないキーワードがあります。

『t-PA スキャンダル』

がその一つです。

我々医師は各学会発表のガイドラインに沿った形で診療を勧めます。

そしてそのガイドラインは学会で主導的立場にある研究者たちの合議で作成されていました。

t-PAという高額な薬剤がある年に突如として急性心筋梗塞や脳卒中の第一選択薬として推奨されました。

このガイドラインには当時駆け出しの医師だった私にも大きな違和感がありました。

急性心筋梗塞に対してはバルーンを使って血管を拡張させるPTCAという治療が既に根付きつつあったからです。

結局そのガイドラインは大きな議論を呼び、あっという間に改定されました。

そしてガイドライン策定委員会の医師たちに製薬会社から高額の献金がされていたというスキャンダルが発覚しガイドライン作成のありかたそのものを考え直すきっかけになりました。

https://medical.nikkeibp.co.jp/inc/all/hotnews/archives/176990.html

現在でガイドラインは参考にした研究や論文を挙げ、その論文からその治療がどの程度の根拠をもって推奨されるのかという表現形式に変わっています。

また正式に発表される前に原案が公開されパブリックコメントが求められます。

より公平な形で作成されているという訳です。

 

この事件は現在ネットで検索しても本当にヒットせず上記リンクのみが唯一のヒットです。

この事件をヒントに作成された映画がハリソン・フォード主演の「逃亡者」だと言われています。

私より若い世代の医師はおそらくこの出来事を知らない人が多いのではないでしょうか?

心筋梗塞の既往がある方では心室期外収縮や非持続性心室頻拍という不整脈がみられ、時として死につながることが分かっています。

私が医師になった1987年にはこういうケースでは抗不整脈薬が処方され、投与後に24時間心電図などで不整脈が減少するのを確認してほっとする、ということが普通にありました。

しかしこの状況は1991年に英国の医学誌 New England Journal of Medicine に発表された論文 CAST (Cardiac arrhythmia suppression trial)で大きく変わりました。

この論文では心筋梗塞後の心室期外収縮を抗不整脈薬または偽薬で治療した1498人を追跡調査しましたが、抗不整脈薬で治療した場合にかえって死亡率が増加することが明らかになり、世界中の循環器内科医に天と地がひっくり返るほどの衝撃を与えました。

患者の命を救うと信じて投与していた薬が実は全く逆の結果になっていた訳ですから一時は臨床の現場は大混乱だったといっても過言ではないと思います。

今日では、不整脈はどういう場合に介入する必要がありどういう治療が適しているのかを大規模臨床研究から得られたエビデンスをもとに選択します。

1987年の頃に比べて現在では治療が必要と判断される不整脈は少なくなったように感じます。

そして致死的不整脈には除細動器やアブレーションといった非薬物療法が汎用されるようになりました。

全ての抗不整脈薬の副作用は不整脈です。

使い方を誤ると逆効果になります。

不整脈ほどエビデンスを重視する分野も少ないのではないでしょうか?

 

新型コロナ肺炎が流行してから本当に多くの申請書を公的機関に提出しています。

クリニックで発熱患者さんを診察するのに申請が必要ですし、コロナの検査をするのに申請が必要です。

さらにワクチン接種やスタッフの慰労金に補助金の申請など数えきれないほどの申請書を記入提出しました。

その最後には大抵「反社会的勢力でないことの宣誓」をする書類があり、オンライン申請の場合には「はい」「いいえ」からどちらかを選ばなければなりません。

例えば

「わたしは反社会的勢力の一員ではありません」

という文章に

「はい」

と答えることになります。

ところで、私は2年ほど前から英会話を習っているのですが、英語と日本語では”YES”と”NO”が全く逆になることがあります。

「わたしは反社会的勢力の一員ではありません」は英語で ”I am not a member of antisocial forces” ですが

答えは

「はい、違います」で英語で ”No, I am not”

となります。

つまり日本語で「はい」、英語で “NO” です。

先日、大阪府感染症対策課から電話があり

「先生は反社会的勢力ですか?」

と聞かれました。

初めは何のことを仰っているのか分からなかったのですが、要するに

「わたしは反社会的勢力の一員ではありません」

という宣誓文に私は

「いいえ」

と答えていたそうです。

私の中途半端な英語力が日本語の邪魔をして大きな誤りを犯してしまったという訳です。

電話で

「私は決してその様な反社会的勢力と関わりもなく、極めて善良な市民で運転免許もゴールドです」

とお答えしたところ、電話の向こうで笑いながら

「了解しました、こちらで訂正しておきますね」

と仰って頂きほっとしました。