今年改定された心不全診療ガイドライン2025では心不全治療薬としていくつかの薬が追加されました

マバカムテン(カムザイオス)、ブトリシラン(アムヴトラ)、アコラミジス(ビヨントラ)らは肥大型心筋症やアミロイドーシス治療薬として推奨されていますが、フィネレノン(ケレンディア)は糖尿病を伴う慢性腎臓病の方が心不全を発症を予防する効果があると認定され推奨されています

フィネレノンはアルドステロン受容体拮抗薬の一種です

アルドステロン受容体拮抗薬は現在開発中のものも含めて5種類あり、そのうちスピロノラクトンは最も早くから心不全に対する有効性が証明された薬剤の一つです

現在心不全治療薬として認定されているのはスピロノラクトンとエプレレノンの2種類ですが、フィネレノンは糖尿病と慢性腎臓病を合併した方が心不全に陥るのを予防する効果が認められた薬剤です

 

ちなみに以下の表はchatGPTに「ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬の特徴をまとめた一覧表を作って」と入力して作成されたものです

ほんの一瞬で出力されたから驚きました

 

 

薬剤名商品名(代表例)分類特徴主な適応症副作用
スピロノラクトンアルダクトンAステロイド系(非選択的)・最も古い
・非選択的(性ホルモン受容体にも作用)
・安価
・高血圧
・心不全
・原発性アルドステロン症
・高カリウム血症
・女性化乳房(男性)
・月経異常
エプレレノンセララステロイド系(選択的)・MR選択性が高く性ホルモン受容体への作用が少ない・高血圧
・急性心筋梗塞後の心不全
・慢性心不全(HFrEF)
・高カリウム血症
・腎機能障害
エソレノンミネブロステロイド系(高選択性)・日本独自のMR拮抗薬
・選択性がさらに高く副作用が少ない
・高血圧・高カリウム血症
・腎機能障害
フィネレノンケレンディア非ステロイド系・新しい薬剤
・組織選択性が高い
・抗線維化・抗炎症作用あり
・2型糖尿病を伴うCKD・高カリウム血症
・軽度の腎機能悪化
エスポレノンステロイド系(選択的)・開発中/海外のみ(国内未承認)
・エプレレノンに近い特性
・情報不十分(臨床データ未確定)

 

心室細動や心室頻拍は致死的不整脈で一度の発作で命を落とすことがあります

この致死的不整脈はいろんな状況でおこりうるのですが心不全に合併するものも稀ではありません

重症心不全の方の死因は心不全による(心臓が生きていくのに必要な血液を供給できなくなった場合)死亡と不整脈による突然死があります

今まではこういった致死的不整脈を治療するための植込み型除細動器(ICD)は「心室頻拍や心室細動からの蘇生後」が適応とされていましたが、それはラッキーにも蘇生に成功した方が対象で蘇生できなかった方への言及がありません

言い換えれば初めての致死的不整脈で命を落とす方への対策がない、ということになります

今年改定された心不全治療ガイドラインでは「心不全患者におけるICDの突然死一次予防」について言及されています

それによると「ガイドラインにのっとった適切な心不全治療が3月以上実施されているにもかかわらず、一定以上の心不全があり左室駆出分画35%以下の虚血性心不全患者」に予防的ICD植え込みが推奨されています

予防的ICD植込みは一度の発作で命を落としかねない致死的不整脈の予防ですから、勧められた方はその必要性が実感しにくいかもしれません

しかし今後予防的ICD]植込みは増えると思います

 

新クリニック建設工事にご協力いただき本当に有難うございます

お陰様で本日宮園建設様と合同で上棟式を行うことができました

完成は7月末ごろを予定しており、8月7日~8月13日は夏季休診とさせて頂きその間に新クリニックに引越しをする予定です

8月14日からは新クリニックでの診察となります

設備も充実し、ますます皆様のお役に立てるクリニックを目指して尽力致してまいります

もうしばらくの間、寛容なお心でお付き合いいただけましたら幸いです

 

 

 

 

高血圧のすべてが本態性高血圧ではありません

本態性高血圧と診断されたら降圧剤の選択に入るのですが、2次性高血圧であればまず原疾患の治療に取り掛からなければいけません

2次性高血圧の一つである内分泌性高血圧には

・原発性アルドステロン症

・クッシング症候群

・褐色細胞腫

・先端巨大症

・甲状腺機能亢進症

・副甲状腺機能低下症

等があります

特に原発性アルドステロン症は頻度が多く全高血圧の10%前後と決して珍しい病気ではありません

アルドステロンの直接血管障害作用は強く、単なる高血圧よりも脳血管疾患や冠動脈疾患が多く降圧には抗アルドステロン薬を用い、場合によっては手術が必要です

クッシング症候群や先端巨大症は特有の風貌から診断は難しくはありません

褐色細胞腫は頻脈や顔面紅潮など特有の症状があり一部悪性腫瘍の場合もあります

 

今年もクリニックのつつじがきれいに咲きました

工事の影響で昨年までの半分の量なのですがとても鮮やかな色でまた一年が経ったなあと実感します

歴史小説を読むのが好きで、中井貴一主演の大河ドラマ「武田信玄」を観て以来多くの武田信玄に関する歴史書を読みました

江戸時代に編纂された「甲陽軍鑑」は歴史資料ではなく一般向けの娯楽作品の意味合いが強かったようです

江戸時代は徳川一強の時代ですが、その徳川が大いに苦しめられた武田信玄やその家臣は別格的な存在として庶民に語り継がれていたそうです

特に有名なのが三方ヶ原の戦いで、わずか数時間の戦闘で1万人近い徳川勢が壊滅し浜松城に逃げかえったときは100人に満たなかったと言いますからいかに武田信玄の軍事力が強大であったかが知れます

その直後に武田信玄は肺結核で命を落とし時代は大きく動きますから、彼のような偉人も病気には勝てなかったということですね

「人は石垣、人は城。人は城なり、城は人なり」は武田信玄の有名な言葉ですが、終生彼は人の心をつかむのに腐心したそうです

生涯城を持たず、つつじが崎と呼ばれる屋敷に住んだ彼はこのきれいなつつじを観ながら何を考えたのでしょうね?

 

心不全は

・HFrEF (左室駆出分画が低下した、言い換えれば左心室の壁運動が悪い心不全) と

・HFpEF(左心駆出分画が低下していない、言い換えれば左心室の壁運動が正常な心不全」)

に分けて論じられることが多いと思います

左心室の壁運動が悪い心不全については容易に想像がつくと思いますが、左心室が良く動いているのに心不全がおこるとはイメージしづらいかもしれません

私がHFpEFについて説明する場合には、「高血圧などの影響で左心室の筋肉が肥大して厚くなった心筋は広がりにくくなるので、左心室の手前の肺にうっ血がおこった状況、要するに左室拡張機能障害」と表現することが多いと思います

なんとなくイメージしやすいのではないでしょうか?

ただ、厳密にいえばHFpEFはそれだけではありません

単純に左心室の動きが悪くない心不全ですから

・頻脈性心房細動:本来左心室に血液を押し込む左心房の収縮が消失された上に頻脈で拡張期時間が短くなれば左心室に流入する血液が減少し左心室から駆出される血液も減ります

・徐脈:洞性徐脈や房室ブロックなどで心拍数が低下すれば心拍出量が低下するのは想像に難くありません

・構造的心疾患:心室中隔欠損症などのようにいくら左心室が収縮しても血液が大動脈から出ていかなくて右心室に流れれば心拍出量が減ります

・心タンポナーデや収縮性心外膜炎:心臓の周囲に心嚢液が貯留するなどして心室が拡張できなければ当然心不全になります

・弁膜症:僧帽弁狭窄症では左心室に血液が流入しにくくなりますので心不全を起こしますし、僧帽弁閉鎖不全や大動脈弁閉鎖不全では左心室が収縮してもその前後で血液が行ったり来たりするだけで有効心拍出量は確保できません

その他にもいくつかHFpEFをおこす状況はあると思います

しかし何といってもHFpEFとして議論されるのが最初の左室拡張機能障害です

なぜなら他の状況は治療方法がはっきりしていて各々の原疾患を治療すれば心不全は軽快するからです

HFrEFでは長期予後を改善するための治療方法はほぼ確立されているのに対し、HFpEFで長期予後改善効果の証明された薬剤は限られています

単に心不全ではなくて、なぜ心不全を起こしているのかを突き止めないと治療方針はたちません

 

今年もつつじが咲き始めました

 

新クリニック建設工事が進行しております

駐車場などご迷惑をおかけしていると思います

移転は8月中旬を予定しており準備を進めているところです

移転後は現在のクリニックビルは解体し駐車場として整備する予定です

現在の敷地内の植栽はできるだけ残したいと考えております

玄関前の姫りんごの花が今年もきれいに咲きました

もう少しすればつつじも真っ赤に咲くと思います

毎年このつつじを見てまた一年経ったなあと実感します

大学病院勤務時代には近鉄電車の産業医のお手伝いをさせて頂いておりましたが、衛生巡視で葛城山のロープウェイに乗って葛城山頂に行くのが楽しみでした

一面野生のつつじで本当に見事な光景でした

クリニックのつつじもとても美しい真っ赤な花を咲かせます

今年でこのつつじを見るのは23回目になるはずです

 

循環器領域には癌は稀ですが、抗がん剤の副作用による心機能疾患は稀ならずあります

現在ではonco-cardiology(腫瘍心臓病学)のガイドラインも作成されておりがん治療関連心機能障害は「左室駆出率がベースラインより10%以上低下し、かつ正常下限値を下回る状態」と規定されています

左室駆出率は通常の心臓エコーでTechholz法やmod-Simpson法で測定されるものですが、最も鋭敏な指標はスペックルトラッキング法によるlongitudinal strain 法による計測と言われています

当院でも心臓エコーでもこの方法で測定することはありますが第一に用いる方法ではありません

特にがん治療関連心機能障害の多い抗がん剤は、アントラサイクリン系薬剤・HER2阻害薬・CHOP療法・VEGF阻害薬・BCR-ABL阻害薬・RAF/MEK阻害薬と言われておりこれらの薬剤で治療中は3~6月毎の心機能評価が推奨されていますが心機能の測定はスペックルトラッキング法によるlongitudinal strain 法を用いることが推奨されています

新しい抗がん剤の登場により循環器内科学も変わりつつあると最近実感します

 

 

心室の壁が痩せて収縮力が低下し心不全に陥る拡張型心筋症は珍しい病気ではありません

球体の内圧をP、半径をR、壁にかかる張力をTとするとTはPとRの積で表されます

内圧が上昇すると壁にかかる張力は上昇し、また内腔が拡張すると壁にかかる張力は上昇しますので心室壁はその張力に耐えるために壁が肥厚し強度を増します

いずれの場合も壁にかかる張力を低減させる方向すなはち内腔を小さくする言い換えれば半径を小さくする方向に肥大します

これを求心性肥大と呼びます

ですので心拡大は必ず心肥大を伴いますが、心肥大は必ずしも拡大を伴いません

逆に言い換えると拡大しているのに肥大(壁が肥厚)していない心臓があれば、その時点で心筋そのものに異常があるということになります

心臓エコーでは左心室が大きく拡大しているにもかかわらず壁の肥厚がなく、収縮力が低下している場合には心筋疾患です

もちろんこういう病態を呈する疾患は他にも糖尿病心筋症・頻脈誘発心筋症・ウィルス性心筋炎・アミロイドーシスや抗がん剤の副作用など多くありますからそれらを除外する必要があります

拡張型心筋症は一般に発症年齢が若いほど重症で心臓移植の対象にもなる場合があります

診断には心臓超音波が有効です

 

心不全がある一定の期間持続すると心筋自体にダメージがおこります

心臓の内腔が拡大したり(心拡大)心臓の筋肉が肥厚したり(心肥大)といった肉眼的変化のみならず、

心臓の筋肉が線維化をおこして収縮能を失ったり心筋細胞膜のイオンチャネルの電気抵抗が変化してしまったりといった具合に心臓の構造そのものが劣化してしまいます

これを心筋リモデリングと呼びます

一旦起こったリモデリングは元に戻すことは難しいのですが、一部の薬剤にはその効果が認められ、

これをリバースリモデリングと言い、β遮断薬とイバブラジン(商品名コララン)で確認されています

ただしどういった症例でこのリバースリモデリングが期待できるかについては未だ明らかにはなっていません

ESC(欧州心臓病学会)では心不全の病型に関係なく心不全と診断されればまず導入されるべき薬剤としてSGLT2が挙げられていますが、日本ではβ遮断薬を心不全のアンカードラッグと考える傾向があるように思います

β遮断薬は副作用が多く処方には注意が必要なのですが逆にβ遮断薬にしかないメリットもたくさんあります

その一つがリバースリモデリング作用です