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心房細動では規則正しい収縮を失った心房内で血流がよどみ、血栓が形成されやすくなりその血栓が心房壁からはがれて血流にのって流れると脳梗塞をおこします。

ですので、心房細動の場合には抗凝固剤を内服し血液を固まりにくくして血栓の形成を予防しなければいけません。

当然のことながらこの抗凝固剤の副作用は出血です。

臨床研究では重症な出血、例えば脳出血などは稀で比較的安全性の高い薬なのですが、それでも超高齢者では出血が危惧されたり腎機能低下のため抗凝固剤の使用が難しい場合には左心耳閉鎖というカテーテル手術を実施する場合があります。

左心房の血栓はほとんどが左心耳という左心房から突き出た別室のようなところで形成されます。

この左心時にWATCHMANというデバイスで蓋をしてしまおうという方法です。

日本では2019年に保険適応となったばかりの新しい治療方法ですが、臨床研究では抗血栓効果は抗凝固剤に劣らず、出血副作用は抗凝固剤より少なかったそうです。

 

心房細動は頻脈になるとそれだけで心不全を起こしうりますから心拍数が増えすぎないように治療しなければいけません。

用いる薬剤はβ(ベータ)遮断薬、ジギタリス製剤、カルシウム拮抗薬、陽イオンチャンネル阻害薬などの選択肢がありますが最も汎用されるのはベータ遮断薬です。

一口にβ遮断薬と言っても多くの種類がありベータ受容体のサブタイプ(β1とβ2)の選択性、内因性交感神経刺激作用の有無で分類されます。

一般にβ1選択性が高く内因性交感神経刺激作用のない脂溶性のものが効果を発揮し汎用されます。

β1受容体選択制の低い薬は気管支に分布するβ2受容体にも作用し副作用を起こす危険性があるので敬遠されるのですが、心臓に分布するβ受容体が100パーセントβ1であるというわけではなく、気管支に分布するβ受容体が100パーセントβ2受容体というわけもないので気管支喘息などのある方は慎重に使用しなければいけません。

また薬剤のβ受容体の選択性については動物実験の結果をもとに表記されているケースもみられますので、実臨床の場で用いられるのは経験的にカルベジロール・ビソプロロール・メトプロロールの3種類です。

この3種類のベータ遮断薬は心拍数を低下させるのみならず、心房から心室への伝導も抑制しますので心房細動の場合には好都合です。

さらに血圧を下げる作用もあり高血圧を合併する方には一石二鳥と言えます。

心不全に対してはリバースリモデリング作用(低下した心機能を回復させる作用)があることも証明されており心房細動のみならず心不全にも第一選択薬です。

 

 

 

全ての抗不整脈薬に共通する副作用は不整脈です。

不整脈を治療するために投与された抗不整脈薬が不整脈を引き起こすことは実は珍しいことではありません。

内服すればその不整脈が消失しかつ副作用のない薬はありませんので、治療には細心の注意が必要です。

そもそもその不整脈に治療の必要性があるのか、あるとすれば薬剤での治療が適しているのかあるいは植え込み式除細動器などの手術が必要なのかを判断しなかければなりません。

抗不整脈薬で誘発される重篤な不整脈には

・CAST型催不整脈

・LQT型催不整脈

・その他の催不整脈

があります。

CAST型のものは抗不整脈薬の選択に十分留意する必要があり、

LQT型の不整脈は定期的な心電図モニターや電解質のチェックが必要ですが、女性はこの不整脈が多い傾向にあり特に下痢をした時には注意が必要です。

 

 

健診の心電図でcoved型ブルガダ心電図がみられた場合には精密検査が必要です。

普通とは若干違う場所に電極を装着した心電図や、あるいは薬剤を負荷して記録した心電図が参考になる場合もあります。

24時間心電図などで長時間の心電図を記録し、致死的な不整脈がないかを調べます。

突然死の高いブルガダ症候群と診断された場合に、残念ながら根治させる治療方法はありませんが、不整脈による突然死を防ぐために植込み型除細動器の植え込み手術をします。

薬剤による治療は一定の効果はありますが、突然死を完全に防ぐことはできませんのでやはり植込み型除細動器が必須です。

最近健康診断でブルガダ症候群が疑われる方が増えているように思います。

持参される診断結果には「ブルガダ症候群疑い」としか記載がないので、なぜ増えているのか不明ですが疾患としての認知度がましているのでしょうか?

ブルガダ症候群にはコブド型とサドルバック型があり厳密には前者をブルガダ症候群と定義します。

急に出現する致死的不整脈心室細動を引き起こす遺伝子疾患で突然死の原因になる恐ろしい病気です。

サドルバック型の場合にはブルガダ症候群という診断にはなりませんが、念のため心電図の電極を変えて記録したりある種の抗不整脈薬を内服後の心電図を記録する場合もあります。

突然死の家族歴、原因不明の意識消失発作の既往歴があるなどの場合には要注意です。

 

洞不全症候群、房室ブロックや心房細動などで徐脈になりそれに伴う症状、例えばめまい・失神・眼前暗黒感や倦怠感がある場合はペースメーカを植え込む手術が推奨されます。

マッチ箱程度の小さな機械を左胸皮下に留置し、その機械から心室あるいは心房に置いた電極に電流を流し心臓を刺激・収縮させる治療法です。

手術手技自体は難しいものではなく、傷も小さなものですがバッテリーの寿命があり定期的に本体を交換する必要があります。

最近では心室に留置するリードレスペースメーカもあります。

この機械を留置した方は電磁波の干渉すなはち携帯電話や電子レンジなどの機器に注意が必要です。

ちなみに正確な医学用語は『ペースメーカー』ではなく『ペースメーカ』です。

 

房室結節回帰性頻拍は一般の方には聞きなれない、おそらく初耳の不整脈と思いますが内科では時折見かける不整脈です。

特徴は心拍数が急に早くなり多くの場合安静時にも拘らず140~160/分といった高度の頻脈になります。

症状は動悸とそれに伴う息切れや多尿などです。

長時間持続すると心不全になりますが、自然停止することも多く受診時には治まっていて診断がつかないということも珍しくありません。

繰り返す場合はアブレーション治療の適応になりますが、発作時の心電図を記録することが必要です。

そしてこれが実は容易ではありません。

24時間心電図や携帯型心電図を試しますが、発作をうまく捉えられないケースも多く診断に難渋します。

こういう場合アップルウォッチが有用でしょうね。

 

心房細動の合併症で最も恐ろしいのは脳梗塞です。

そして脳梗塞を予防するために抗凝固薬を内服することになります。

抗凝固薬には古くからあるワーファリンとDOACと呼ばれる比較的新しい抗凝固薬があり、メジャーな副作用は両者とも出血です。

薬価はワーファリンが圧倒的に安価なのですが摂取するビタミンKの量により効果が左右され頻回に薬効をチェックしなければならないというデメリットがあります。

多くの臨床研究からDOACの有用性が証明され現在ではDOACが抗凝固薬の主役になっています。

ただこのDOACも腎機能の低下している場合には注意が必要で、定期的な血液検査をしなければなりません。

腎機能は一般に血清クレアチニン値からeGFR値を計算するのですが、目安として(eGFR/10)月に一回の血液検査が望ましいとされています。

例えばeGFRが30の方では、3か月に一度の血液検査が推奨されます。

 

 

心房細動の治療には大きく分けてリズムコントロールとレートコントロールがあります。

心房細動そのものを停止させて規則正しい脈にするリズムコントロールはわかりやすいと思うのですが、どうして心拍数をコントロールして頻脈にならないようにすることが心房細動の治療になるのでしょうか?

心臓から全身に血液を送り出す最も大きなかつ最も重要なポンプは左心室です。

左心房から左心室に送り込まれた血液は左心室の収縮により全身に送り出されるのですが、その左心室に血液を送り込むポンプが左心房です。

そして左心房から左心室に血液が送り込まれる時相が拡張期です。

例えば脈拍が60/分の時は一回の心拍は1秒ですが、120/分になると一回の心拍は0.5秒となり拡張期の時間が短くなります。

心房細動によって心房の収縮が無くなり左心房から左心室へ血液を送り込む力が減っているときに拡張期が短くなり左心室に十分な血液が流入しなくなると結果的に左心室から送り出される血液が減少し心不全を起こすことになります。

ですので心房細動は頻脈を伴うとそれだけで心不全になります。

ですから心房細動の場合は頻脈にならないように心拍数をコントロールすることが大切なのです。

心房細動の治療は

・リズムコントロール:心房細動を止めてしまい規則正しい脈にする

・レートコントロール:心房細動はそのままで脈拍をコントロールし心不全を予防する

の二つに分かれます。

リズムコントロールはアブレーションと言われるカテーテル治療で心房細動そのものを止める方法です。

数日の入院が必要ですが心房細動の不愉快な動機から解放され、場合によっては抗凝固薬が不要になります。

一方レートコントロールは心房細動そのものはそのままにして頻脈にならないよう脈拍をコントロールする治療で抗凝固薬を併用します。

動悸などの自覚症状が無い方はこの治療のほうが手軽なのですが、最近の臨床研究で長期予後はアブレーションの方が優れていることが徐々に分かってきています。

また最近では左心房の中でも特に血栓の好発する左心耳をウォッチマンというデバイスで閉鎖する左心耳閉鎖術が新しい選択肢として注目を浴びています。

この左心耳閉鎖術は併存疾患のため抗凝固薬が使用しにくい場合が適応です。

どの方法を選択するかについて、どちらのみが正解ということはなくて自分に合ったものを選べばよいのですが、最近の大規模な臨床研究の積み重ねからはクライオバルーンという冷凍焼却によるアブレーションが最も予後が良いことが示唆されています。