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先日の内科学会では腸内細菌と心不全との関係に関する講演がありました。

演者によりますと

「肉や卵・チーズに多く含まれるフォスファチジルコリンが腸内細菌により代謝を受けTMA(トリメチルアミン)に変換され、さらに肝臓で代謝されたTMAO(トリメチルアミンNオキシド)が心不全を悪化させる」

そうです。

事実、慢性心不全患者では健常者と比して血中TMAO濃度が高く、TMAO濃度が高いほど死亡率が高いそうです。

またTMAOの産生に関わる腸内細菌酵素TMAリアーゼを抑える薬物の開発が進められているそうです。

腸内細菌が心不全と関連するとは、意外な発表で驚きました。

 

現在心不全治療薬の柱と言われる薬剤は

・ベータ遮断薬

・アンジオテンシン変換酵素阻害薬/アルドステロン受容体拮抗薬

・SGLT2

・ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬

の4種類で俗にFantastic Fourと呼ばれたりします。

このうちSGLT2は糖尿病治療薬として開発されたものの、発売後に糖尿病のある無しに関わらず心不全の予後を改善することが判明し心不全治療薬として認可されました。

これは大規模臨床研究という、患者さんを長期間追跡調査した結果に基づいて導かれた結果です。

大規模臨床研究は常に多くのものが進行中で、次々に新しい結果が学会に発表されます。

これらのデータの蓄積からガイドラインも定期的に見直されます。

最近の臨床研究「STEP-HFpEF」によると、やはり糖尿病治療薬のセマグルチドが糖尿病がある無しに関わらず肥満患者の心不全の症状を改善したそうです。

このセマグルチドは巷では痩せ薬としても話題になっている薬です。

長期の予後改善データではありませんが、今後のデータによってはFantastic Fiveということになるかもしれませんね。

私が循環器領域の臨床研究結果をチェックするのに用いているサイトの一つは

https://www.ebm-library.jp/circ/trial/index_top.html

です。

とても分かりやすく解説されていますので興味のある方はご覧ください。

 

 

3月8日~10日の間、神戸で第88回日本循環器学会総会が行われました。

そのタイミングの合わせて日本循環器学会の不整脈ガイドラインも改訂されました。

いくつかの大きな改訂点があるのですが今回はそのうちの一つ心房細動における脳梗塞予測スコアについてご説明いたします。

 

梗塞発症リスクを判断するための簡便なリスクスコアとして,CHADS2スコア,CHA2DS2-VASc スコアが従来用いられてきました.

しかし,海外で開発されたこれらのリスクスコアを本邦に適用できるか否かについて,日本人を対象とした3つのレジストリ

で統合解析を行ったところ,両スコアの構成要素のなかで脳梗塞発症に寄与する独立危険因子として同定されたのは

・年齢75歳以上

・高血圧

・脳卒中既往

の3因子のみでした。

さらに,2つの追加レジストリを加えた統合解析で得られた独立危険因子は,

・年齢75~84歳

・年齢85 歳以上

・高血圧,

・脳卒中既往

・BMI 18.5 kg/m2未満

・持続性/永続性心房細動

の6因子でした.

すなわち,CHADS2スコア,CHA2 DS2-VASc スコアと共通する危険因子として年齢,高血圧,脳卒中既往の3因子が追認された一方で

糖尿病,心不全,血管疾患は独立危険因子として同定されませんでした.

かわりに,85歳以上,BMI 18.5 kg/m2 未満,持続性/永続性心房細動という新たな危険因子が同定され重みづけを行い,

・高血圧(H: Hypertension)

・年 齢 75~84 歳(E: Elderly)

・BMI 18.5 kg/m2 未満(L: Low BMI)

・持続性/永続性心房細動(T: Type of AF)を 1点

・年齢 85歳以上(E: Extreme elderly)

・脳 卒 中 既 往 ( S: previous Stroke)を 2点

とする合計7点(年齢の Eが2つあるが配点は互いに背反)のリスクスコア評価法を定め,HELTE2S2 スコアと名付けられました。

HELT-E2S2スコア別の脳梗塞発症率は,

抗凝固療法なしの場合,0点で0.57%/年,1点で0.73%/年,2点で1.37%/年,3点で2.59%/年,4 点で3.96%/年,5点以上で5.82%/年とはっきりと点数依存性に上昇し、

HELT-E2S2スコア2点以上における脳梗塞発症率は,抗凝固療法ありの場合はなしの場合に比べて半分程度でした。

 

今後は日本ではHELTE2S2 スコアが脳梗塞治療の基準としてスタンダードになるでしょうね。

左室駆出分画が低下しているか否かに関わらず、心不全急性期から一定の運動をして心臓に負荷をかけることが再入院率や死亡率を低下させることが証明されています。

入院中も退院してからも計画的に運動を実施することで、例えば左室駆出分画が低下した心不全患者の再入院や心血管死は15%低下するこことが分かっています。

日本でこの心臓リハビリテーションがそれほど普及していないのは時間や経費がかかる割には効果が実感できないからではないかと考えます。

私が研修医の頃は急性心筋梗塞の場合数日は床上安静が5~7日程度あったように思います。

この心臓リハビリテーションはその有用性が客観的に証明されているにも関わらずもっとも普及していない治療かと考えます。

やはり急性期では時間と労力がかかる割に一般からは認知されておらず期待もされていないからでしょうし、開業医では必要なスペースが確保するのが難しいからでしょうか?

 

 

 

心不全の治療には大きく分けて二つの目標があります。

一つは現在の意症状を和らげることです。

心不全には動悸・呼吸困難感や咳・倦怠感など多彩で辛い症状があります。

そういった苦痛を取り除く短期的な治療目標と、長期的な生命予後を改善するという目標もあります。

どちらも同様に大切なのですが、両方の治療方法が一致しないこともあります。

そして長期予後を改善するという治療には見えない目標に向かって進むというもどかしさもあります。

大規模臨床研究からこの治療が長期予後を改善する、すなはち生存期間を延長するということが証明されている場合でも短期的には特にメリットを実感しないケースも稀ではありません。

また逆に短期的に症状を改善する治療が長期的には予後を悪化させるというケースもあります。

「心不全治療は見えない目標に向かって進む旅のようなものだ」と言った循環器専門の著明な医師がいましたがまさにその通りだと思います。

現在心不全の治療薬には

・ベータ遮断薬

・アンジオテンシン変換酵素阻害薬/アルドステロイン受容体拮抗薬

・抗アルドステロン薬

・SGLT2阻害薬

の4種の柱があります。

後者2剤には著明な利尿作用があり、循環血漿量を減少させるので効果を実感しやすいと思いますが、前者2剤には短期的な効果を実感しにくいという特徴があります。

特にベータ遮断薬は効果が実感しにくく

「何のためにこの薬を飲んでいるのだろう」

と疑問に思われることもあるかもしれません。

心不全治療は継続することこそが大切です。

何のための治療か、本当にこの薬は必要なのか、など疑問に思われることがありましたらなんでもお尋ねください。

治療の目標を共有することが継続には大切です。

 

心房細動では頻脈になればそれだけで心不全を誘発しますし、長期予後も悪く死亡率や脳卒中などの有害事象も増えることが分かっています。

このことを立証した大規模臨床試験がAFFIRM試験で

・安静時心拍数80以下

・6分間歩行時の心拍数110以下

の群では死亡率も低下し大きな合併症も少なかったとされています。

これは最適な心拍数がどの程度なのかを示すものではないのですが、ほかの臨床試験でもベータ遮断薬により心拍数を少なくすることが長期予後改善につながることが証明されています。

心房細動の方は自分の安静時の心拍数を把握することも重要です。

 

夏に比べて冬場は心不全が悪化しやすい季節です。

発汗量が減り、鍋物や汁物による塩分摂取量の増加によって全身の循環血漿量が増加します。

また体温保持のため末梢血管が収縮し血圧が上昇しやすくなり心臓の負担も増加します。

血圧は寒い季節には上昇しますが、統計的には「寒い時期」よりむしろ「寒くなりつつある時期」に最も上昇します。

冬場は

・部屋を暖かくし末梢血管の収縮を抑えること

・塩分を制限し循環血漿量を抑えること

が重要です。

鍋物の美味しい季節で、最後に雑炊をすると汁まで全部摂取することになり塩分過剰になりますので、鍋物の最後には麺類の方が良いと思います。

 

いよいよ明日から映画『アントニオ猪木をさがして』が上映されますね。

あまり聞きなれない病名かもしれませんが猪木さんは晩年心アミロイドーシスで苦しまれたそうです。

実はこの心アミロイドーシスは実勢を正確に反映した疫学調査がなくどの程度の有病率かはわかっていないのですが、原因不明の左室駆出分画の保たれた心不全の中にはこの病気が隠れている可能性があり手根管症候群の手術を受けた方のうち2%に心アミロイドーシスを認めたという報告があります。

全身の症状、例えば手根管症候群や下痢、末梢神経障害などを伴い診断には超音波検査やシンチグラフィーを用い、患者のほとんどが男性で50~70歳で発症することが多いようです。

近年治療薬が開発されたこともあって注目されるようになりました。

 

心不全に用いられる治療薬はたくさんありますが、単に現在の症状を改善するだけでなく長期予後も改善する薬が推奨されます。

現在は基本的な治療薬は

・アンジオテンシン変換酵素阻害薬/アルドステロン受容体拮抗薬

・ベータ遮断薬

・SGLT2阻害薬

・ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬

の4種類が俗にファンタスティック・フォーと呼ばれ基本の薬とされています。

それぞれの薬にはそれぞれの特徴があり、すべての人に画一的に使用されるわけではありませんし、上記以外にも選択肢は存在します。

この中で特にベータ遮断薬はいわゆるアンカー・ドラッグで可能な限り処方することが求められます。

心筋そのものが変性をおこし収縮機能を失っていくことを心筋リモデリングと言いますが、ベータ遮断薬だけはそのリモデリングを改善させるリバース・リモデリング作用があるとされています。

副作用は何といっても徐脈でいきなり大量を投与すると徐脈による弊害が現れます。

できるだけ少量から開始し、できるだけ少量ずつ増量し、できるだけ大量に用いることが原則とされています。

他に、最近開発されたイバブラジンにもリバースリモデリング作用があるとされています。

このリバースリモデリング作用は患者さんにとっては実感はなく、内服したからと言って急に楽になるわけではありませんから「見えないゴール」を目指して治療することになります。

心不全治療は短期的に症状を改善するだけでなく、長期的な展望が必要です。

 

 

心房細動は頻脈になるとそれだけで心不全を起こしうりますから心拍数が増えすぎないように治療しなければいけません。

用いる薬剤はβ(ベータ)遮断薬、ジギタリス製剤、カルシウム拮抗薬、陽イオンチャンネル阻害薬などの選択肢がありますが最も汎用されるのはベータ遮断薬です。

一口にβ遮断薬と言っても多くの種類がありベータ受容体のサブタイプ(β1とβ2)の選択性、内因性交感神経刺激作用の有無で分類されます。

一般にβ1選択性が高く内因性交感神経刺激作用のない脂溶性のものが効果を発揮し汎用されます。

β1受容体選択制の低い薬は気管支に分布するβ2受容体にも作用し副作用を起こす危険性があるので敬遠されるのですが、心臓に分布するβ受容体が100パーセントβ1であるというわけではなく、気管支に分布するβ受容体が100パーセントβ2受容体というわけもないので気管支喘息などのある方は慎重に使用しなければいけません。

また薬剤のβ受容体の選択性については動物実験の結果をもとに表記されているケースもみられますので、実臨床の場で用いられるのは経験的にカルベジロール・ビソプロロール・メトプロロールの3種類です。

この3種類のベータ遮断薬は心拍数を低下させるのみならず、心房から心室への伝導も抑制しますので心房細動の場合には好都合です。

さらに血圧を下げる作用もあり高血圧を合併する方には一石二鳥と言えます。

心不全に対してはリバースリモデリング作用(低下した心機能を回復させる作用)があることも証明されており心房細動のみならず心不全にも第一選択薬です。