投稿

収縮機能が正常な心不全には、拡張機能障害による心不全以外にも存在します。

脈が速すぎる場合、脈が遅すぎる場合、ホルモンの異常で体液バランスが崩れる場合など決して稀ではありません。

特に脈拍の早い心房細動は要注意です。

心電図中の鋭く高い波はQRS波と呼ばれますが、心室が収縮し血液を送り出す時相です。

このQRSの幅(収縮期)は脈拍によって変化しませんから脈拍が多くなると相対的に拡張期の時相が短くなります。

心房細動では左心房の収縮が無くなり心室に血液を押し込む力が無くなりますので、心室への流入が減ります。

左心室へ血液を押し込む力が失われているうえに、拡張期の時間が短くなると心室に十分の血液が流入しにくくなります。

ですので心房細動では心室の収縮能が正常でも、脈が速くなるとそれだけで心不全を起こしうります。

特に左心室への流入障害のある場合、僧帽弁狭窄症や心室肥大などでは頻脈には要注意です。

 

左心室の機能を測る上で大切なのが拡張機能です。

収縮機能は左心室がポンプとしてどの程度血液を駆出する力があるかを測る、いわばポンプとしての能力です。

一方、拡張機能は左心房から左心室への血液の流入のしやすさです。

左心室への血液の流入は

・拡張早期

・心房収縮期

の二相に分かれます。

収縮を終えたばかりの左心室が自然に拡張する時点で左心房ー左心室間の僧帽弁が開き血液が流入します(拡張早期)。

そして、左心房から左心室への血液の流入が終わったころに、左心房が収縮しさらに左心室に血液を押し込みます(心房収縮期)。

一般には流量は

拡張早期>心房収縮期

ですが、左心室が硬くなり広がりにくくなると

拡張早期<心房収縮期

となります。

これは超音波検査で簡単に調べることができます。

この左心室の拡張機能障害は、高血圧や心筋症あるいは大動脈弁狭窄症のために左心室の筋肉が肥厚した状況などでみられます。

収縮機能の維持された心不全(HFpEF:ヘフペフ)はこういう状態で、分かりやすく言うと左心室に血液が流入しにくくなってその手前の肺に血液が渋滞を起こしている(肺うっ血)ことです。

「拡張機能障害による肺うっ血」と呼べば分かりやすいと思うのですが、なぜが学会では「収縮機能の正常な心不全」と呼ばれます。

 

 

心臓には左心室・右心室・左心房・右心房と4個のポンプがありますがその中で左心室は全身に血液を送り出す役割を持った最大のポンプです。

例えば慎重170センチの方が立っている時に血液は左心室から両足まで送られ、さらに100センチ以上のの高さを登って心臓まで帰ってくるのも左心室の力です。

凄い力ですね。

ですので心機能の測定は一般に左心室の機能を指します。

左心室が最大に拡張したときに100mlの容量があり、収縮末期に内宮が40mlだとしたら一回の収縮で60mlの血液を送り出したことになりますので、左室駆出分画は60%ということになります。

左心室の筋肉が劣化しこの駆出分画が例えば40%になると心不全ということになります。

全身が必要とする血液を供給できなくなりますから、疲労感・息切れ・ふらつきなどの症状がみられるようになります。

また左心室の手前で血液が渋滞を起こしうっ血が起こるので肺に水がたまったり足がむくんだりします。

これが「左室駆出分画の低下した心不全」でHFrEF(Heart Failure reduced Ejection Fraction)と省略され「ヘフレフ」と呼ばれたりします。

原因疾患としては拡張型心筋症・心筋梗塞・心筋炎などがあります。

 

心不全は一般の方が想像しているよりずっと頻度の高い病気でずっと恐ろしい病気です。

一旦心不全と診断された方の予後はがん患者の予後に劣ります。

もちろん原因が何かによるのですが、一つの分類方法に左室駆出分画があります。

左室駆出分画(EF:Ejection Fraction)とは左心室が拡張したときの何パーセントを心臓から送り出すかの割合です。

左心室が拡張期に100mlの容量があり、収縮によりそのうち60mlを心臓から拍出したら左室駆出分画は60%という意味になります。

一般に50%以上が正常とされていますが、心不全の場合この左室駆出分画が低下している場合が多く、その数字によって左心室の収縮能が推定されます。

左室駆出分画が低下するとそれだけ心臓のポンプとしての機能が低下し全身に必要な血液を送り出せなくなります。

倦怠感やふらつき、四肢冷感に呼吸困難感が代表的な症状です。

この左室駆出分画は超音波検査で簡単に調べるとこが可能です。

 

房室結節回帰性頻拍は一般の方には聞きなれない、おそらく初耳の不整脈と思いますが内科では時折見かける不整脈です。

特徴は心拍数が急に早くなり多くの場合安静時にも拘らず140~160/分といった高度の頻脈になります。

症状は動悸とそれに伴う息切れや多尿などです。

長時間持続すると心不全になりますが、自然停止することも多く受診時には治まっていて診断がつかないということも珍しくありません。

繰り返す場合はアブレーション治療の適応になりますが、発作時の心電図を記録することが必要です。

そしてこれが実は容易ではありません。

24時間心電図や携帯型心電図を試しますが、発作をうまく捉えられないケースも多く診断に難渋します。

こういう場合アップルウォッチが有用でしょうね。

 

心房細動の治療には大きく分けてリズムコントロールとレートコントロールがあります。

心房細動そのものを停止させて規則正しい脈にするリズムコントロールはわかりやすいと思うのですが、どうして心拍数をコントロールして頻脈にならないようにすることが心房細動の治療になるのでしょうか?

心臓から全身に血液を送り出す最も大きなかつ最も重要なポンプは左心室です。

左心房から左心室に送り込まれた血液は左心室の収縮により全身に送り出されるのですが、その左心室に血液を送り込むポンプが左心房です。

そして左心房から左心室に血液が送り込まれる時相が拡張期です。

例えば脈拍が60/分の時は一回の心拍は1秒ですが、120/分になると一回の心拍は0.5秒となり拡張期の時間が短くなります。

心房細動によって心房の収縮が無くなり左心房から左心室へ血液を送り込む力が減っているときに拡張期が短くなり左心室に十分な血液が流入しなくなると結果的に左心室から送り出される血液が減少し心不全を起こすことになります。

ですので心房細動は頻脈を伴うとそれだけで心不全になります。

ですから心房細動の場合は頻脈にならないように心拍数をコントロールすることが大切なのです。

心房細動の治療は

・リズムコントロール:心房細動を止めてしまい規則正しい脈にする

・レートコントロール:心房細動はそのままで脈拍をコントロールし心不全を予防する

の二つに分かれます。

リズムコントロールはアブレーションと言われるカテーテル治療で心房細動そのものを止める方法です。

数日の入院が必要ですが心房細動の不愉快な動機から解放され、場合によっては抗凝固薬が不要になります。

一方レートコントロールは心房細動そのものはそのままにして頻脈にならないよう脈拍をコントロールする治療で抗凝固薬を併用します。

動悸などの自覚症状が無い方はこの治療のほうが手軽なのですが、最近の臨床研究で長期予後はアブレーションの方が優れていることが徐々に分かってきています。

また最近では左心房の中でも特に血栓の好発する左心耳をウォッチマンというデバイスで閉鎖する左心耳閉鎖術が新しい選択肢として注目を浴びています。

この左心耳閉鎖術は併存疾患のため抗凝固薬が使用しにくい場合が適応です。

どの方法を選択するかについて、どちらのみが正解ということはなくて自分に合ったものを選べばよいのですが、最近の大規模な臨床研究の積み重ねからはクライオバルーンという冷凍焼却によるアブレーションが最も予後が良いことが示唆されています。

 

 

心房細動の最も恐ろしい合併症は何といっても血栓症とくに脳梗塞です。

心房内では血液が澱み血栓が形成され、それが血流にのって脳の血管に詰まると脳梗塞になりますので、この合併症だけは何としても予防しなければいけません。

血栓予防には抗凝固薬と言われる、血液を固まりにくくする薬を内服します。

当然出血の副作用がありますから、有益性が副作用を上回ると考えられる場合にのみ勧められます。

どういった方がこの抗凝固薬を内服するのかはCHADS2スコアで判断します。

CHADS2スコアとは

・Congestive heart failure:うっ血性心不全 1点

・Hypertension:高血圧 1点

・Age:75歳以上 1点

・Diabetes Mellitus:糖尿病 1点

・Stroke:脳梗塞の既往 2点

の5項目、6点満点で点数をつけ1点以上の方は抗凝固薬の内服が推奨されます。

また点数により推奨される薬剤に若干の差があります。

心房細動と診断されてもCHADS2スコアが」0点の場合には経過を見てよいということになります。

 

心房細動の最も多い症状はやはり動悸です。

心拍が全く不規則になりますから拡張期の長い後の収縮は拍出量が大きく「ドキン」とした胸の中でうさぎが跳ねたような感じがすることがありますし、直前の心拍との間隔が短く拡張期の短い収縮では拍出量が小さく「脈がとんだ」感じがします。

この不愉快な動機が持続しますので、なんとなく倦怠感があり集中力が途切れるような感じがする場合もあります。

しかしながらこの自覚症状は個人差があり、全く何の自覚のない方もおられます。

心房細動は心拍数が早くなるとそれだけで心不全になりうりますから場合によっては呼吸困難感やめまい・ふらつきあるいはむくみなどを訴える方もおられます。

このように心房細動の自覚症状は多彩で、一概に症状だけから診断することは困難ですが、心電図は有用で発作時の心電図はそれだけで確定診断に直結します。

多くの場合、緊急を要することはないのですがWPW症候群などの副伝導路症候群がある場合には心房細動が致死的になる場合もありますので注意が必要です。

治療を要する不整脈のうち最も頻繁に出会うのがこの心房細動だと思います。

そして最近ますますこの心房細動に出会う頻度が増えているような気がします。

心臓には心室と心房がありますがそのうちの心房の筋肉が細かく震えてしまい全体としての統制の取れた収縮をせずポンプ機能が失われた状況です。

心室に血液を送り込む能力が損なわれ心拍出量も20パーセント程度低下します。

特に拡張期(心室に血液の流れ込むタイミング)が相対的に短くなる頻脈の場合には心拍出量の低下が大きくなりますので頻脈性心房細動は心不全の原因になりうります。

しかし何といっても一番恐ろしいのは心房内で形成された血栓が血流にのって脳にとんで行く脳梗塞です。

したがって脳梗塞のハイリスクであると考えられる場合には血液を固まりにくくして血栓を予防する必要があります。

古くはワーファリン、現在ではDOACと呼ばれる薬を用います。

心房細動についてはこのブログで少しづつ詳しく説明させていただこうと思います。