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降圧薬のうちβ遮断薬が処方に最も注意が必要な薬かも知れません

降圧以外の副作用が大きく、その反面他の降圧薬にはないメリットもあります

特に心不全を合併した場合にはまず初めに考慮するべき薬剤です

何かの手術を受ける際にその前後の期間を周術期と呼びますが、周術期には心筋梗塞や脳卒中などのイベントが増加することが知られています

そして周術期に新たにβ遮断薬を開始するとその期間の心筋梗塞は減りますが、脳卒中は増加するという複数のデータが発表されています

ですので周術期の新たなβ遮断薬開始には注意が必要ですが、以前から服用中のβ遮断薬は周術期に中止すると逆に死亡率が上昇することが分かっています

β遮断薬は降圧薬の中で最も注意が必要な薬ですが、他の薬にはないメリットがあり循環器疾患には欠かせない薬です

 

特に心房細動の場合には測定する度に血圧の値が変わります

心房細動では収縮期時間は変わりませんが拡張期時間は一心拍ごとに変わります

直前の拡張期が長い場合には心臓が大きく拡張し拍出量も増えます

逆に直前の拡張期が短い場合には心臓の拡張も小さく拍出量も少なく脈圧も小さくなります

ですから心房細動の場合には一心拍ごとに血圧が大きく変わります

測る度に血圧は変動しますから何度か測定し平均を把握する必要があります

心房細動の場合には一度の測定で一喜一憂せずに全体像を把握することが大切です

 

アルドステロン受容体拮抗薬(またはアンジオテンシン変換酵素阻害薬)とカルシウム拮抗薬の最大量に利尿剤を加えた3剤併用療法でも降圧目標に達しないものを治療抵抗性高血圧と呼びます

この場合、なぜ十分な降圧を得られないかを十分吟味する必要があります

規則正しい服薬が順守されているか、白衣現象はないか、血圧を上昇させる併用薬はないか(例えば甘草・ステロイドホルモンや経口避妊薬など)、環境(肥満・喫煙・睡眠不足など)などを見直さなければいけませんがやはり一番大切なのは塩分摂取量と室温だと思います

部屋が寒いと血圧は上昇しますから部屋を暖かくすることと塩分制限です

塩分は6g/日に制限することが推奨されますが、カリウムを多く摂取するとナトリウム排泄作用があるのでカリウムを多く含む野菜や果物も推奨されます

味噌汁は塩分が多くできれば止めて頂きたいのですが、どうしてもやめられない場合には

・減塩味噌を用い薄目に作る

・具は豆腐や油揚げなどではなくカリウムを多く含有する海草や大根・玉ねぎなどの野菜を用いる

ことが推奨されます

これらによって降圧目標に達しない場合には処方の変更になります

 

 

 

蛋白尿を合併するかしないかで降圧薬の選択に影響しますが、蛋白尿の定義はご存じでしょうか?

蛋白尿の定義は一日蛋白尿が0.15gを超えることを言います。

一日の蛋白尿の量を測定するのには一日に排尿した尿を全て容器にためて検査しなければいけないのかというとそうではありません。

g/gCrという表記をご存じでしょうか?

Crとはクレアチニンの略で主に筋肉の老廃物です。

このクレアチニンは全ての人で一日排泄量がほぼ1gと一定であるとされています。

ですので仮にある人に採尿してもらってその尿中にはCrが0.2g含まれていたとすると、その尿は一日量の1/5であると考えられます。

そしてその尿中に蛋白が0.3g含まれていたら、その人の一日尿蛋白は1.5gということになります。

すなはち、クレアチニン1g当たりの蛋白尿の量という意味でg/gCrと表記します。

そしてこれは一日尿蛋白量と考えられます。

もちろんこれは簡易的な指標ですので筋肉量の多い方では誤差が出ます。

ボディビルダーの血清Crが高めなのはそのためでこういう場合にはシスタチンCを測定します。

 

 

心不全になると多くのホルモンや液性因子の働きで体液量が増加、すなはち心臓の前負荷が増大します。

初期はこの前負荷の増大で心不全は軽快する方向に動きます。

しかしながらある一定の状況を超えると体に余分な水分が貯留し下腿の浮腫や肺うっ血などの原因になります。

慢性腎臓病があると多くの場合体液貯留傾向にあることから心不全は悪化します。

ですので慢性腎臓病を合併する心不全は治療に難渋する場合も稀ではありません。

ところで、この慢性腎臓病という病名は私が研修医の頃はあまり馴染みのないものでした。

当時は慢性腎臓病という呼び方はせず、個々の腎疾患を病理診断名と臨床診断名の両方で呼ぶのが一般的で中にはこの両者が同じ名前の場合もあり慣れるまで混乱することもあったと思います。

病理名は例えば、膜性腎症、層状糸球体硬化症、メサンギウム増殖性糸球体腎炎や悪性腎硬化症などどいった具合です。

臨床診断名としては糖尿病性腎症、ループス腎炎、IgA腎症や悪性高血圧などどいった具合です。

その各々が予後も違えば治療方法も異なりますのでまず診断名をつけることから始まりました。

目標は透析回避でした。

ところが、その後これらの病気の方々は慢性腎不全で命を落とすよりむしろ合併する心血管疾患が生命予後規定因子であることが証明されました。

それ以来は個々の診断はさておいて慢性腎臓病という病名で一括に扱い心血管疾患予防に重点を置いた治療が中心となりました。

このことについて私は若干の違和感があります。

もちろん慢性腎臓病の方の心血管疾患予防は大切なことなのですが、個々の病型によっては腎不全になるものも存在しますし多くの慢性糸球体腎炎には各々に適した治療方法もあり腎機能悪化を食い止める方法がある場合もあります。

ですので、慢性腎臓病という呼び名はそれだけで終わってはいけないと思うのです。

今回は少々愚痴っぽい話でした。

稀なものですが緊急を要する高血圧も存在します。

拡張期血圧が120-130mmHg 以上で放置すると臓器障害が急速に進行するものです。

この状態では悪性腎硬化症と言われる急激な腎機能の低下があり、しれがさらに血圧を上昇させるという悪循環に陥りますので緊急の降圧が必要です。

腎臓以外に眼では網膜出血や乳頭浮腫がみられ脳浮腫を伴えばふらつきなどの症状もあります。

緊急時の診断では網膜病変を用いることが多く海外では

「網膜出血や乳頭浮腫を伴う高血圧」

と呼ばれることもあります。

1970年代は一旦この加速型悪性高血圧を発症すれば5年生存率は32%、すなはち5年以内に3人のうち2人が死亡すると言われていましたが、最近はこの加速型悪性高血圧そのものの頻度が低下し、治療方法の進歩により現在では5年生存率は90%以上です。

但し、発症時の腎機能の低下の程度が予後予測因子で腎機能障害が高度の場合は注意が必要です。

動悸などを自覚し循環器内科を受診する方のうち治療を必要とする不整脈がみられるのは多いものではありません。

しかし一方で不整脈による突然死があるのも事実で、多くが心室頻拍や心室細動です。

これらは大きく分けて

・遺伝性不整脈疾患:心筋のイオンチャネルの異常により不整脈が起こる

ブルガダ症候群

遺伝性QT延長群

カテコラミン誘発性多型制心室頻拍

などがあり、さらに

・器質的心疾患

心筋症

虚血性心疾患

弁膜疾患

高血圧性心疾患

などの器質的心疾患によるものがあります。

不整脈による突然死を事前に予知するのは簡単なことではなく、心臓電気生理学的検査や遺伝子検査がありますがどういった場合にこれらの検査をするのかについても判断が難しい場合があります。

一般的には

めまいや眼前暗黒感などの脳貧血症状を伴う場合は要注意で、そういう症状のある場合は急いで検査をすることが進められます。

当院では

24時間

1週間

2週間

装着できる3種類のホルター心電図を実施しております。

上記の症状のある場合は早めに受診してください。

 

 

特定健診の令和6年度から用いられている血圧の受診勧奨判定値について基準が変ったとか、高血圧の診断基準が変わったという誤解が広まっていますので、高血圧学会の声明を掲載いたします。

 

『厚生労働省による「標準的な健診・保健指導プログラム(令和6年度度版)」の受診勧奨判定値を超えるレベルの対応についてこの内容は、以下のようになっており、これは、日本高血圧学会による高血圧治療ガイドライン2019年版の推奨と同じです。

● 収縮期血圧≧160mmHg又は拡張期血圧≧100mmHg → ①すぐに医療機関の受診を

● 140mmHg≦収縮期血圧<160mmHg又は90mmHg≦拡張期血圧<100mmHg → ②生活習慣を改善する努力をした上で、数値が改善しないなら医療機関の受診を

今回の誤解は、2つの記載の①だけを強調されたものと考えられます。

受診勧奨に関するより具体的な説明が「健診結果とその他必要な情報の提供(フィードバック文例集)」に記載されていますので紹介します。

上記の②に相当するⅠ度高血圧(140mmHg≦収縮期血圧<160mmHg又は90mmHg≦拡張期血圧<100mmHg)への対処は以下のように記載されています(抜粋)。

「今回、あなたの血圧はⅠ度高血圧になっていました。この血圧レベルの人は、望ましい血圧レベルの人と比べて、約3倍、脳卒中や心臓病にかかりやすいことが分かっています。正確な血圧の診断の上で、治療が必要となる血圧レベルです。血圧を下げるためには、減量、適度な運動、お酒を減らす、減塩、野菜を多くして果物も適度に食べるなど、生活習慣の改善が必要です。ご自身で生活習慣の改善に取り組まれる方法、特定保健指導を活用する方法、保健センター等で健康相談や保健指導を受ける方法等があります。これらを実行した上で、おおむね1か月後にかかりつけの医療機関で再検査を受けてください」

健診では一過性の血圧の上昇もありますし、ちょっとした自己管理で血圧が下がる場合もあります。

また受診して正確な血圧の診断をした場合でも、Ⅰ度高血圧の場合、1ヶ月は生活習慣の改善を行い再評価します。

1か月後の時点で服薬の要否を判断するのは主治医と患者さんご自身です。

なお、重要なこととして、Ⅰ度高血圧でも、脳心血管病、心房細動、慢性腎臓病、糖尿病、危険因子の集積がある場合は、至急かかりつけの医療機関を受診すべきことが、同じフィードバック文例集に記載されてます。

健診結果に基づく受診勧奨も、高血圧治療ガイドラインも科学的エビデンスに基づいて作成されています。これらに変更があったわけではありません。』

 

ネット上には情報が氾濫しており正しい情報と誤った情報を見分ける能力が求められます。

ご不明な点は医師にお尋ねください。

 

徐々に気温が上昇するにつれ冬場は高値だった血圧も低下傾向を示す方が増えてきました。

下がり過ぎて不安という方もおられるようです。

診察室で測った場合の血圧は

・高血圧    140/以上   または /90以上

・高値血圧   130-139/ または /80-90

・正常高値血圧 120-129/ かつ  /80以下

・正常血圧   120/以下   かつ  /80以下

と定義されており家庭血圧はこれからそれぞれ5を引きます。

多くの方が110/台の血圧を下がり過ぎと解釈されるようですが、そうではありません。

もちろん下がり過ぎてふらつくとかめまいがするなどの場合は降圧剤の減量・中止も考慮しなければなりません。

 

 

3月8日~10日の間、神戸で第88回日本循環器学会総会が行われました。

そのタイミングの合わせて日本循環器学会の不整脈ガイドラインも改訂されました。

いくつかの大きな改訂点があるのですが今回はそのうちの一つ心房細動における脳梗塞予測スコアについてご説明いたします。

 

梗塞発症リスクを判断するための簡便なリスクスコアとして,CHADS2スコア,CHA2DS2-VASc スコアが従来用いられてきました.

しかし,海外で開発されたこれらのリスクスコアを本邦に適用できるか否かについて,日本人を対象とした3つのレジストリ

で統合解析を行ったところ,両スコアの構成要素のなかで脳梗塞発症に寄与する独立危険因子として同定されたのは

・年齢75歳以上

・高血圧

・脳卒中既往

の3因子のみでした。

さらに,2つの追加レジストリを加えた統合解析で得られた独立危険因子は,

・年齢75~84歳

・年齢85 歳以上

・高血圧,

・脳卒中既往

・BMI 18.5 kg/m2未満

・持続性/永続性心房細動

の6因子でした.

すなわち,CHADS2スコア,CHA2 DS2-VASc スコアと共通する危険因子として年齢,高血圧,脳卒中既往の3因子が追認された一方で

糖尿病,心不全,血管疾患は独立危険因子として同定されませんでした.

かわりに,85歳以上,BMI 18.5 kg/m2 未満,持続性/永続性心房細動という新たな危険因子が同定され重みづけを行い,

・高血圧(H: Hypertension)

・年 齢 75~84 歳(E: Elderly)

・BMI 18.5 kg/m2 未満(L: Low BMI)

・持続性/永続性心房細動(T: Type of AF)を 1点

・年齢 85歳以上(E: Extreme elderly)

・脳 卒 中 既 往 ( S: previous Stroke)を 2点

とする合計7点(年齢の Eが2つあるが配点は互いに背反)のリスクスコア評価法を定め,HELTE2S2 スコアと名付けられました。

HELT-E2S2スコア別の脳梗塞発症率は,

抗凝固療法なしの場合,0点で0.57%/年,1点で0.73%/年,2点で1.37%/年,3点で2.59%/年,4 点で3.96%/年,5点以上で5.82%/年とはっきりと点数依存性に上昇し、

HELT-E2S2スコア2点以上における脳梗塞発症率は,抗凝固療法ありの場合はなしの場合に比べて半分程度でした。

 

今後は日本ではHELTE2S2 スコアが脳梗塞治療の基準としてスタンダードになるでしょうね。