心不全の話 19 たこつぼ心筋症
Stunned myocardium という言葉はおそらく一般の方にはなじみが薄いと思います
日本語では『気絶心筋』などと呼ばれますが、一過性の虚血など心筋に対する強いストレスが誘因となり一時的に心筋がまるで壊死を起こしたかのように運動性の低下する状態です
時間とともに壁運動は回復するのでこんな呼び名があるのですが、たこつぼ心筋症ははじめはこのstunned myocardium の一種として日本で報告されていました
左心室の一部分にのみ壁運動異常がみられ収縮末期にはまるでたこつぼのような形をするからこのような名前になったのですが、現在では世界的に認知されTakotsubo Syndrome (TTS)と呼ばれています
高齢女性に多く精神的ストレスが誘因となるケースが多いことからbroken heart syndrome と呼ばれたこともあり、楽しい出来事も誘因になることが報告されhappy heart syndrome と呼ばれたこともあります
交感神経の一過性の過剰な興奮により増加したカテコラミンに対してβ受容体の反応性が低下して心臓の収縮力が低下するというのが一般的に支持されている仮説ですが証明はされていませんし、確立された治療方法もありません
一般に症状は時間とともに軽快し予後良好なのですが、最近では重症例も多く報告され特に右心室の壁運動異常を合併する例では予後不良と言われています