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ご家庭で血圧測定を続けておられる人はお気づきかもしれませんが一般に冬には血圧は上昇します。

もちろん気温が低下し血管が収縮することも要因の一つと推定されていますが、気温の低下する時期と血圧が上昇する時期は必ずしも一致しません。

一年で最も血圧が上昇するのは最も気温が低くなる時期の2~3週間前です。

単純な気温の変化以外にも日照時間や活動性、ホルモンの年周期との関連も推定されています。

高変動群(冬場の血圧上昇が大きい人)や逆転群(冬場にむしろ血圧が低下する人)では脳心血管疾患の発症が多く、季節変動を先取りした血圧の調節が有用であると考えられます。

 

高血圧患者では脳卒中や心臓病・腎臓病の発症が多いのはご存じの通りですが、自覚症状としては現れていなくても検査をすることによって既に高血圧性の臓器障害があることがわかる場合があります。

①脳:高血圧は脳卒中のリスク因子であるばかりでなく、認知症・うつ病のリスクにもなります。

これらはいずれも発症してしまってからでは回復が困難な場合が多く、頭部MRIや眼底検査で早期の臓器障害を検出することが可能です

②心臓:高血圧による心臓への負荷や心筋虚血には心電図・心臓超音波検査が有用です。

③腎臓:高血圧による腎臓への障害を調べるにはまず検尿をします。

④血管:動脈の硬化性病変には頸動脈や下肢動脈の超音波検査が有用です。

もしこれらの検査で臓器障害が検出された場合には速やかな高血圧の治療が必要です。

 

カリウムはナトリウムの血圧上昇作用を阻害し適度なカリウム補給だけで収縮期血圧が4~5低下するとされています。

また脳卒中の発生は3,500mg/日のカリウム摂取で最小となります。

現在の日本人の平均カリウム摂取量は2,400mg/日ですからほとんどの人がさらにカリウム摂取を推奨されるということになります。

カリウムは生野菜や果物に多く含まれます。

おやつに塩分や糖分を多く含むスナック菓子を食べることを止めて果物を食べることが良いのでしょうね。

 

 

血圧には季節性の変動があり夏場には低下することも珍しくありません。

血圧が下がり過ぎる場合には一時的に減薬や休薬を考慮することもあります。

降圧剤を中止した方で、一定期間後に再び降圧剤は必要になるケースは多くみられます。

降圧剤を再開せずにすむ方の特徴は

・臓器症状や検査異常など動脈硬化所見のない方

・若年者

・正常体重

・低塩分摂取

・非飲酒者

・1剤のみの内服

などです。

ですからこれらの特徴を持たない方の降圧剤中止は推奨されません。

 

脳梗塞は再発率の高い病気であり、再発予防には血圧管理が極めて重要です。

血圧を下げすぎるとかえって再発率が高くなるJカーブ現象があるのかについては未だに結論の出ていない難問です。

Jカーブ現象の存在を裏付ける論文も、存在を否定する文献もあります。

ただ、収縮期血圧120程度までは低ければ低いほど再発率は低いことが分かっています。

また、脳梗塞の既往のある場合には大きな脳血管に狭窄がある場合には下げすぎにも注意が必要となる場合もあります。

脳梗塞再発予防には抗血小板薬が処方されますが、副作用には出血があります。

抗血小板薬を内服中には脳出血の危険性も考慮しなければなりませんが、その場合には130/81がカットオフ値でこれを超えないようにすることが必要です。

 

少量の飲酒は数時間の血圧低下作用があります。

特に飲酒後入浴すると血圧低下が著明な場合もあります。

しかしながら習慣的な飲酒は逆に血圧上昇につながります。

実は脳出血はアルコール摂取量に比例し増加するのですが、脳梗塞や慢性腎臓病は少量の飲酒はかえってリスクを低下させることが分かっています。

酒は百薬の長ということわざもありますが、ある部分ではその通りです。

高血圧の方の場合にはエタノールで20~30ml/日以下が推奨され、これはおよそ

日本酒1合、ビール中瓶1本、焼酎0.5合、ワイン2杯に相当します。

女性の場合はこの半量が推奨される量です。

大規模臨床研究によると冬場の血圧は夏に比べて6.7/7.2mmHg高値であり、1月中旬~2月下旬にかけて最も高くなることが知られています。

意外なことに、これは外気温が最も低下する時期より2~3週間早いことになります。

気温の絶対値よりむしろ気温の変動が影響しているのでしょうか?

これらの変化は高齢者・男性で顕著であることも分かっています。

また夏場の血圧低下が大きい人(高変動群)や夏場にかえって血圧の上昇する人(逆転群)では脳心血管疾患のリスクが高く、血圧の季節変動を抑える必要性が示唆されます。

 

特に季節の変わり目には血圧が大きく変動し、測定した血圧値に驚いてしまうこともよくあります。

それまで治療により正常の血圧を維持していたのに、急に180/以上に上昇し慌てふためくということもあると思います。

実は随分以前はそんな時には短時間作用型の降圧薬を内服や舌下投与し血圧を緊急に下げるということが行われていました。

しかし、現在ではそういう急速な高圧は脳や心臓などの虚血を誘発するとして、禁忌とされています。

一過性血圧上昇で進行性臓器障害がみられない場合は褐色細胞腫という特殊なケースを除いて緊急高圧の対象とはなりません。

一過性血圧上昇の一部には精神的要因の関与が示唆されており、パニック障害や過換気でも同様の症状がみられます。

こういう場合には気持ちを落ち着け身体を楽にして安静を保ったのちに再測定するのが推奨されます。

血圧上昇時に降圧剤の追加をすることは十分注意が必要です。

 

心房細動の最も恐ろしい合併症は何といっても血栓症とくに脳梗塞です。

心房内では血液が澱み血栓が形成され、それが血流にのって脳の血管に詰まると脳梗塞になりますので、この合併症だけは何としても予防しなければいけません。

血栓予防には抗凝固薬と言われる、血液を固まりにくくする薬を内服します。

当然出血の副作用がありますから、有益性が副作用を上回ると考えられる場合にのみ勧められます。

どういった方がこの抗凝固薬を内服するのかはCHADS2スコアで判断します。

CHADS2スコアとは

・Congestive heart failure:うっ血性心不全 1点

・Hypertension:高血圧 1点

・Age:75歳以上 1点

・Diabetes Mellitus:糖尿病 1点

・Stroke:脳梗塞の既往 2点

の5項目、6点満点で点数をつけ1点以上の方は抗凝固薬の内服が推奨されます。

また点数により推奨される薬剤に若干の差があります。

心房細動と診断されてもCHADS2スコアが」0点の場合には経過を見てよいということになります。

 

収縮期血圧が140、または拡張期血圧が90のどちらか一方を超えると高血圧と診断されるのですが、家庭で測定する家庭血圧では収縮期が135,拡張期が85に定義されています。

一般に診察室で測定するより家庭でリラックスして測る方が低いことが多いからです。

これにはもちろん個人差があるのですが、やはりほとんどの方が家庭血圧のほうが低いようです。

10mmHg以上の差がある方も珍しくありません。

では診察室血圧と家庭血圧が大きく乖離する場合にはどうするのが良いのでしょうか?

実は診察室血圧より家庭血圧のほうが予後予測能が優れていることが証明されています。

ですので二者が大きく乖離する場合は家庭血圧を参考に治療を勧めます。

日本には4,000万台の家庭用血圧計があるそうでこれは一家に一台に相当します。

高血圧の方、または高血圧が疑われる方はぜひ家庭血圧を測定してみて下さい。