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大規模臨床研究によると冬場の血圧は夏に比べて6.7/7.2mmHg高値であり、1月中旬~2月下旬にかけて最も高くなることが知られています。

意外なことに、これは外気温が最も低下する時期より2~3週間早いことになります。

気温の絶対値よりむしろ気温の変動が影響しているのでしょうか?

これらの変化は高齢者・男性で顕著であることも分かっています。

また夏場の血圧低下が大きい人(高変動群)や夏場にかえって血圧の上昇する人(逆転群)では脳心血管疾患のリスクが高く、血圧の季節変動を抑える必要性が示唆されます。

 

特に季節の変わり目には血圧が大きく変動し、測定した血圧値に驚いてしまうこともよくあります。

それまで治療により正常の血圧を維持していたのに、急に180/以上に上昇し慌てふためくということもあると思います。

実は随分以前はそんな時には短時間作用型の降圧薬を内服や舌下投与し血圧を緊急に下げるということが行われていました。

しかし、現在ではそういう急速な高圧は脳や心臓などの虚血を誘発するとして、禁忌とされています。

一過性血圧上昇で進行性臓器障害がみられない場合は褐色細胞腫という特殊なケースを除いて緊急高圧の対象とはなりません。

一過性血圧上昇の一部には精神的要因の関与が示唆されており、パニック障害や過換気でも同様の症状がみられます。

こういう場合には気持ちを落ち着け身体を楽にして安静を保ったのちに再測定するのが推奨されます。

血圧上昇時に降圧剤の追加をすることは十分注意が必要です。

 

心房細動の最も恐ろしい合併症は何といっても血栓症とくに脳梗塞です。

心房内では血液が澱み血栓が形成され、それが血流にのって脳の血管に詰まると脳梗塞になりますので、この合併症だけは何としても予防しなければいけません。

血栓予防には抗凝固薬と言われる、血液を固まりにくくする薬を内服します。

当然出血の副作用がありますから、有益性が副作用を上回ると考えられる場合にのみ勧められます。

どういった方がこの抗凝固薬を内服するのかはCHADS2スコアで判断します。

CHADS2スコアとは

・Congestive heart failure:うっ血性心不全 1点

・Hypertension:高血圧 1点

・Age:75歳以上 1点

・Diabetes Mellitus:糖尿病 1点

・Stroke:脳梗塞の既往 2点

の5項目、6点満点で点数をつけ1点以上の方は抗凝固薬の内服が推奨されます。

また点数により推奨される薬剤に若干の差があります。

心房細動と診断されてもCHADS2スコアが」0点の場合には経過を見てよいということになります。

 

収縮期血圧が140、または拡張期血圧が90のどちらか一方を超えると高血圧と診断されるのですが、家庭で測定する家庭血圧では収縮期が135,拡張期が85に定義されています。

一般に診察室で測定するより家庭でリラックスして測る方が低いことが多いからです。

これにはもちろん個人差があるのですが、やはりほとんどの方が家庭血圧のほうが低いようです。

10mmHg以上の差がある方も珍しくありません。

では診察室血圧と家庭血圧が大きく乖離する場合にはどうするのが良いのでしょうか?

実は診察室血圧より家庭血圧のほうが予後予測能が優れていることが証明されています。

ですので二者が大きく乖離する場合は家庭血圧を参考に治療を勧めます。

日本には4,000万台の家庭用血圧計があるそうでこれは一家に一台に相当します。

高血圧の方、または高血圧が疑われる方はぜひ家庭血圧を測定してみて下さい。

高血圧をカテーテル手術で治すという試みをご存じの方は少ないと思います。

太腿の血管から腎臓の動脈までカテーテルを挿入し高周波で血管の神経を破壊し血圧を低下させるという治療を「腎交感神経デナベーション」と言い2009年から臨床に用いられています。

血圧の薬を毎日飲む必要がなくなるのではないかと期待され一時はかなり話題になりました。

しかしながら、血圧低下効果が期待されたほどではないという研究結果が発表され、それ以後は以前ほどは注目されなくなりました。

今でも対象を絞れば一定の効果が期待できるのではないかと臨床研究は継続中です。

長期成績が未だ不明ですので確定した評価は難しいのですが、知見を積み重ねてどういう結果が出るのか興味があります。

 

 

診察室血圧が140/90未満でも家庭での早朝の血圧が135/85を超える場合は早朝高血圧と呼び、脳卒中や心臓病あるいは腎臓病のリスクとなります。

現実に診察室で診断された高血圧より臓器障害が進行している場合が多く、十分な血圧管理が必要です。

原因は

・飲酒

・喫煙

・寒冷な環境

・動脈硬化

・不十分な降圧薬治療

です。

家庭血圧は朝と夕の二回特に早朝に測られることをお勧めします。

特に冬は部屋を暖かく保ちトイレも寒くならないように注意をして下さい。

 

 

私が研修医の頃は血圧計といえば水銀計のことでしたが、現在は環境への配慮から電子血圧計に置き換わってしまいました。

水銀計の血圧は目盛りの関係から必ず偶数で130/82といった具合でしたから、例えば131/77といった奇数の血圧を見ると何となく違和感を感じます。

現在市販されている電子血圧計はどれも精密に作られておりどのメーカーのどの機種意を選択しても問題はないと思います。

ただし、測定部位は上腕式に限ります。

手首で測定するものは小型で安価というメリットはありますが、手首の橈骨動脈や尺骨動脈は腱や骨に囲まれており正確に圧迫できません。

また指尖式のものは上腕の動脈とは違った部位の血圧で同一に比べられません。

ですので血圧計は必ず上腕で測定するものを選択してください。

メモリー機能などの付いた高価なものである必要はありません。

家庭血圧は診察室血圧より日常生活の実態に近いもので、ぜひ一台血圧計を購入し家庭血圧を測定してください。

冬になり気温が低下すると血圧は上昇傾向にあるようです。

この季節は特に家庭血圧と診察室血圧に乖離がみられる方が多いように感じます。

例えば診察では145/90であるのに家庭では130/80であるといった具合にです。

診察室に到達するまでに寒い屋外を通過し、若干の緊張感で血圧を測定すると高めになるのはある意味当然かもしれません。

ではどちらの血圧を基準にして治療するのが良いのでしょうか?

家庭血圧と診察室血圧の両者を基準にした治療結果、脳血管疾患の発生率や死亡率の差異を示した論文はありません。

しかしながら家庭血圧を基準に治療した場合のほうがより厳密なコントロールを達成できることが証明されています。

ですので、家庭血圧と診察室血圧に差異のある場合は家庭血圧を優先して治療の基準に用いることが推奨されています。

血圧計にも多くの種類がありますが、手首や指で測定するものは避けてください。

周囲の腱が多く正確に血管を圧迫できないからです。

上腕式のものであれば高価なものである必要はありません。

毎日朝と夕にできるだけリラックスして測定してみてください。

高血圧の場合塩分制限が大切であるのはご存じと思います。

一日の塩分摂取量を6グラム以下に制限することが血圧を下げますが、カリウムはナトリウムの血圧上昇を抑えることから野菜や果物などカリウムを多く含む食事の摂取により降圧が期待できます。

カリウム摂取により血圧が低下する以外にも、一日カリウム摂取量3.5グラムの場合脳卒中のリスクが最小になることが判明しています。

野菜・果物・低脂肪乳製品が豊富で飽和脂肪酸とコレステロールが少ないDASH食とそれに塩分制限を加えたDASH-sodiumu食が高血圧の方には特に推奨されます。

地中海食・ノルディック食や塩分制限と組み合わせた日本食などがこれに近いものです。

ただし、腎機能低下のある方はカリウム多量摂取には注意が必要です。

診察室で測定すると高血圧なのに家庭で測定すると正常という、白衣高血圧の場合にはどうするべきなのでしょうか?

事実として

①白衣高血圧の方は高血圧でない方と比較して、脳卒中・心疾患・死亡のリスクに有意な差はない

②白衣高血圧の方は白衣高血圧でない方と比較して将来高血圧症を発症する可能性が高い

ことが分かっています。

ですので白衣高血圧の方は直ちに降圧剤を服用する必要はありません。

しかし、将来の高血圧発症を発見するために家庭血圧測定を継続し注意深い経過観察をすることが推奨されます。

また、白衣高血圧の方が塩分制限を実施すると将来の高血圧症発症を予防できるかの十分なエビデンスはありませんが、日本人全体が塩分の過剰摂取ですので白衣高血圧の方も塩分制限をすることは推奨されると思います。