私は金の聴診器を持っています。

どうやってこの金の聴診器を手に入れたかお聞きください。

 

私が奈良県立医大第一内科に在籍していたもう30年以上前の話です。

当時、附属病院と研究棟は別棟でその間は数十メートル離れていました。

その間を歩いて移動するのですが、途中に小さな池がありました。

ある日その池のほとりを歩いていた時のことです。

不注意にも白衣のポケットに入れていた聴診器を池に落としてしまったのです。

「しまった」と思いながら池の中を覗き込んでいましたら、池の中から白いドレスに身を包んだ女神の様な女性が現れました。

その女性は私に

「あなたの落とした聴診器はこの鉄の聴診器?この銀の聴診器?あるいはこの金の聴診器?」

と尋ねました。

「私が落としたのはアルミの聴診器です」

と答えますと、その女性は一瞬ムッとした面倒くさそうな表情になりましたが、すぐに気を取り直して

「あなたは正直なドクターです。ご褒美にこの金の聴診器を差し上げましょう」

とこの金の聴診器をくれました。

世の中には不思議なことがあるものです。

(2021年4月1日)

 

ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬も利尿剤の一種なのですが、他の利尿剤とは働きが違うので別に語られることが多い薬です。

ミネラルコルチコイドはアルドステロンのことで原発性アルドステロン症治療に大して用いられます。

アルドステロンは単に血圧を上げる以外に多くの臓器を直接傷害し、本態性高血圧に比して極めて予後が悪いことから別に扱われ、用いる降圧薬も異なります。

一般に処方されるミネラルコルチコイド受容体拮抗薬にはスピロノラクトン(アルダクトン)やエプレレノン(セララ)があります。

利尿剤なので尿量が増え心臓の負担が減少しますから心不全治療にも用いられます。

代表的な副作用は高カリウム血症ですので腎不全の方には要注意です。

他に、乳房が大きくなり男性でも女性のような乳房になることがあります。

アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)はアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)と作用機序が類似しており効果の面でも似通っている薬なのでひとくくりに論じられることも多いと思います。

ARB同様に腎機能の保護作用がありまた狭心症などの冠動脈疾患の発症リスクも軽減しますし、糖尿病患者の死亡リスクも低下させることが証明されていますから特に腎症を合併した糖尿病患者さんでは多用されます。

空咳という特有の副作用がありますが、一般には認知されていないせいか患者さん自身がこの咳を降圧薬の副作用とは自覚しないケースも珍しくありません。

降圧効果はARB同様と言われていますが、実臨床ではARBより劣る印象があります。

実は空咳の副作用はアジア人に多く、日本での投与量が欧米に比して低く設定されているからだと思います。

ですので一般にはARBの方が多用されているようです。

 

ところで、この満月の写真は私の英会話の先生 Mike Hoyer さんがバンクーバーから送って下さったものでカナダでは warm moon と呼ばれるそうです。

この満月をきっかけに徐々に暖かくなり春を実感するそうです。

日本では春は梅や桜といった植物で感じることが多いと思いますが、緯度の高いカナダでは冬は昼間の時間が極端に短くなるので空を見て季節を感じるのでしょうね。

 

warm moon

利尿薬はナトリウムを排泄し尿量を増やし体液量を減らすことにより血圧を下げます。

ですから塩分過剰の方、浮腫(むくみ)のある方、慢性腎臓病の方や糖尿病の方に適しています。

利尿薬は既に多くの臨床研究から多くのエビデンスが導き出されており、心臓や腎臓の合併症を予防する効果があります。

特に高齢者で糖尿病を合併した高血圧に適しており心不全の治療効果も期待できます。

一方副作用としてやはり頻尿や脱水がありますが、その他にも尿酸値や血糖の上昇また電解質の異常も見られることがあり注意が必要です。

夏場、汗の多い時期には特に脱水に注意してください。

最近糖尿病の治療薬としてSGLT2阻害薬が処方されますが、この薬にも利尿作用があり降圧効果があることも分かっています。

SGLT2阻害薬は利尿薬には分類されませんが降圧効果や心不全治療薬としても活用されており、また体重を減らす効果もありますので糖尿病以外の方への処方がされるようになってきました。

 

コロナウィルスパンデミックの影響で多くの学会は会場とオンラインのハイブリッド方式になりました。

専門医などの資格を維持するために学会参加が必要なのですが、従来は実際の会場に行くしか方法がなく、土曜日の診察終了後飛行機で羽田に向かいそのまま東京あるいは横浜で宿泊し、日曜日の朝から学会場で発表や講演を聴講し夕方の飛行機で大阪に戻るといった強行軍が当たり前でした。

しかし昨年はオンラインで聴講し、それで専門医が更新できたので本当に楽でした。

また、地方で製薬会社主導で行われる研究会は多くが中止になっています。

多くの先生は今後もオンライン形式を歓迎しています。

しかし一方それを残念に思う声もあります。

大きな学会特に全国規模の学会や国際学会は勤務医時代は一種のお祭りでした。

学会そのものもさることながら、普段は縁遠い地域や国を訪れついでに観光や地域のグルメを楽しむことが日頃の研究活動に対するささやかなご褒美と考える向きもあったと思います。

大学院の頃は学会は発表の場でした。

実験や準備にかなりの時間を割いて医局での予行演習では上司の厳しいご指導を頂き、それが終われば学会は終わったも同然であとは旅行気分でした。

ビル・ゲイツが指摘したようにこれからは学会などの出張の過半数はなくなるのでしょうね。

降圧薬のうちβ遮断薬は交感神経の働きを遮断し、心拍数を減少させ心臓の収縮力を低下させるなどの作用がありますので交感神経活性の高い若年者や頻脈傾向の方あるいは大動脈解離の方に積極的に処方されます。

心収縮力抑制作用がありますが、上手く使えば心不全の長期予後を改善しますので心不全治療には欠かせない薬です。また頻脈性不整脈を抑える効果もあり抗不整脈薬としても使用される一方、一部の不整脈を悪化させます。

気管支喘息や肺気腫、徐脈性不整脈、冠攣縮性狭心症、レイノー症状や閉塞性動脈硬化症には禁忌である一方β遮断薬にしかないメリットもあり、言わばもろ刃の剣といった印象がありますので循環器専門医以外の先生からはあまり処方されないようです。

 

 

 

ARBと略されるこの降圧薬の正式な名前はアンジオテンシンⅡタイプ1受容体拮抗薬です。

降圧作用が強力で多くの臓器保護作用が証明されていますが副作用は少なくカルシウム拮抗薬に次いで処方されています。

腎臓・心臓・脳の臓器障害のある場合や糖尿病を合併した例で汎用されます。

特に腎臓の機能が悪化するのを防ぐ効果もあるのですが、使い方を間違うと逆効果になります。

カンデサルタン(ブロプレス)・ロサルタン(ニューロタン)・バルサルタン(ディオバン)・テルミサルタン(ミカルディス)が代表的な処方薬です。

副作用が少なく他の降圧薬、特に利尿薬と併用されることが多いのもこの薬の特徴です。

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消毒用アルコールについての質問をよく頂きます。

特に濃度についての疑問が多いようです。

消毒用アルコールはエタノールが多く、濃度表記はw/w%、v/v%、度数が汎用されます。

理解を困難にするのは

水の比重(1mlの重量)が1であり、グラム(重量)で表記してもml(体積)で表記しても同じ1であるのに対して、エタノールは比重が0.789と低く1mlが0.789グラムしかないことと、

エタノールは水に溶けるのでエタノール1リットルと水1リットルを混ぜると2リットル未満にしかならないことの二点だと思います。

一般にw/w%はw%とも表記され、その消毒用エタノール1キログラムの中に何キログラムのエタノールが含まれているかというという意味です。

例えば75w%のエタノールを作成する場合は750グラム(約950ml)の100%エタノールをビーカーに入れ重量計の上に載せます。

そして合計が1,000グラムになるまで水を注ぎます。

これで75w%エタノールの完成で体積は1,100ml以上になります。

一方75v%のエタノールはビーカーに750mlの100%エタノール(約592グラム)を入れ合計が1,000mlになるまで水を注ぎます。

これで75v%エタノールの完成で重量は1,000グラム未満です。

一般に言われるアルコール度数はv%のことで、何も言わなけれなこの度数すなはちv%のことを指します。

コロナウィルスの殺菌に有効な度数は60~80度(v%)と言われていますが、濃度が高すぎるとエタノールは揮発性が高くあっという間に蒸発して十分な時間が得られないからです。

65w%は72v%に相当しますので単位に十分注意が必要ですね。

ちなみに消毒薬としてイソプロピルアルコールも汎用されますが、値段はエタノールの方が圧倒的に高価です。

これはエタノールがお酒として飲めるため酒税が課せられるからです。

エタノールに若干のイソプロピルアルコールを混ぜたものも販売されていますが、これは酒税を回避し価格を抑えるためでしょうね。

アルコールは揮発性が強く蒸発するときに皮脂を奪いますので若干のグリセリンを混ぜておくと手荒れが防げます。

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現在日本で最も処方されている降圧薬がカルシウム拮抗薬です。

代表的な薬品はアムロジピン(アムロジン・ノルバスク)、ニフェジピン(アダラート)、ベニジピン(コニール)などです。

降圧効果は強く飲み始めてすぐに十分な血圧低下が得られることが多い一方副作用も少ないので汎用されます。

歴史の長い薬で多くの臨床研究によって臓器保護などのいろんな好ましい効果は実証済みで、また安価であることも多く処方される理由の一つでしょう。

血管拡張作用が強く多くの臓器の血流を増加させますので狭心症の治療薬として用いられることもありますが、その反面頭部の血管も拡張しますのでのぼせやほてりあるいは頭痛といった副作用も見らるることがあります。この副作用は服薬初期に多く飲み続けると消失することが多いので耐え難いものでなければ中止する必要はないと思います。

また心筋細胞のイオンの流れをブロックし不整脈を抑える抗不整脈薬として使用されることもあります。

その他に歯肉腫脹・便秘や動悸がある場合もありますので気づいた場合には主治医に申し出てください。

グレープフルーツと一緒に摂取すると効果が増強される製品がありますので注意が必要です。

また意外に見過ごされがちなのが逆流性食道炎の悪化です。カルシウム拮抗薬を飲み始めて胸焼けがひどくなったという場合はくすりの副作用を疑う必要があります。

 

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減塩や体重の管理あるいは生活環境の改善などで血圧が十分に下がらない場合には降圧薬を内服することになります。

降圧薬には

カルシウム拮抗薬

アンジオテンシン受容体拮抗薬

アンジオテンシン変換酵素阻害薬

ベータ遮断薬

アルファ遮断薬

利尿薬

直接的レニン阻害薬

中枢性交感神経阻害薬

など多くの選択肢があります。

それぞれに長所と短所があり、自分に合った薬を選択することになります。

既に降圧薬を服用されている方で、自分はどの降圧薬を内服しているのかご存じですか?

自分はどういう理由でその薬を内服しているのか主治医の先生に尋ねてみると高血圧に対する理解が深まると思います。

次回から上記の降圧薬を一つずつ説明させて頂きたいと思います。

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