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心不全の治療には大きく分けて二つの目標があります。

一つは現在の意症状を和らげることです。

心不全には動悸・呼吸困難感や咳・倦怠感など多彩で辛い症状があります。

そういった苦痛を取り除く短期的な治療目標と、長期的な生命予後を改善するという目標もあります。

どちらも同様に大切なのですが、両方の治療方法が一致しないこともあります。

そして長期予後を改善するという治療には見えない目標に向かって進むというもどかしさもあります。

大規模臨床研究からこの治療が長期予後を改善する、すなはち生存期間を延長するということが証明されている場合でも短期的には特にメリットを実感しないケースも稀ではありません。

また逆に短期的に症状を改善する治療が長期的には予後を悪化させるというケースもあります。

「心不全治療は見えない目標に向かって進む旅のようなものだ」と言った循環器専門の著明な医師がいましたがまさにその通りだと思います。

現在心不全の治療薬には

・ベータ遮断薬

・アンジオテンシン変換酵素阻害薬/アルドステロイン受容体拮抗薬

・抗アルドステロン薬

・SGLT2阻害薬

の4種の柱があります。

後者2剤には著明な利尿作用があり、循環血漿量を減少させるので効果を実感しやすいと思いますが、前者2剤には短期的な効果を実感しにくいという特徴があります。

特にベータ遮断薬は効果が実感しにくく

「何のためにこの薬を飲んでいるのだろう」

と疑問に思われることもあるかもしれません。

心不全治療は継続することこそが大切です。

何のための治療か、本当にこの薬は必要なのか、など疑問に思われることがありましたらなんでもお尋ねください。

治療の目標を共有することが継続には大切です。

 

心房細動では頻脈になればそれだけで心不全を誘発しますし、長期予後も悪く死亡率や脳卒中などの有害事象も増えることが分かっています。

このことを立証した大規模臨床試験がAFFIRM試験で

・安静時心拍数80以下

・6分間歩行時の心拍数110以下

の群では死亡率も低下し大きな合併症も少なかったとされています。

これは最適な心拍数がどの程度なのかを示すものではないのですが、ほかの臨床試験でもベータ遮断薬により心拍数を少なくすることが長期予後改善につながることが証明されています。

心房細動の方は自分の安静時の心拍数を把握することも重要です。

 

夏に比べて冬場は心不全が悪化しやすい季節です。

発汗量が減り、鍋物や汁物による塩分摂取量の増加によって全身の循環血漿量が増加します。

また体温保持のため末梢血管が収縮し血圧が上昇しやすくなり心臓の負担も増加します。

血圧は寒い季節には上昇しますが、統計的には「寒い時期」よりむしろ「寒くなりつつある時期」に最も上昇します。

冬場は

・部屋を暖かくし末梢血管の収縮を抑えること

・塩分を制限し循環血漿量を抑えること

が重要です。

鍋物の美味しい季節で、最後に雑炊をすると汁まで全部摂取することになり塩分過剰になりますので、鍋物の最後には麺類の方が良いと思います。

 

いよいよ明日から映画『アントニオ猪木をさがして』が上映されますね。

あまり聞きなれない病名かもしれませんが猪木さんは晩年心アミロイドーシスで苦しまれたそうです。

実はこの心アミロイドーシスは実勢を正確に反映した疫学調査がなくどの程度の有病率かはわかっていないのですが、原因不明の左室駆出分画の保たれた心不全の中にはこの病気が隠れている可能性があり手根管症候群の手術を受けた方のうち2%に心アミロイドーシスを認めたという報告があります。

全身の症状、例えば手根管症候群や下痢、末梢神経障害などを伴い診断には超音波検査やシンチグラフィーを用い、患者のほとんどが男性で50~70歳で発症することが多いようです。

近年治療薬が開発されたこともあって注目されるようになりました。

 

心不全に用いられる治療薬はたくさんありますが、単に現在の症状を改善するだけでなく長期予後も改善する薬が推奨されます。

現在は基本的な治療薬は

・アンジオテンシン変換酵素阻害薬/アルドステロン受容体拮抗薬

・ベータ遮断薬

・SGLT2阻害薬

・ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬

の4種類が俗にファンタスティック・フォーと呼ばれ基本の薬とされています。

それぞれの薬にはそれぞれの特徴があり、すべての人に画一的に使用されるわけではありませんし、上記以外にも選択肢は存在します。

この中で特にベータ遮断薬はいわゆるアンカー・ドラッグで可能な限り処方することが求められます。

心筋そのものが変性をおこし収縮機能を失っていくことを心筋リモデリングと言いますが、ベータ遮断薬だけはそのリモデリングを改善させるリバース・リモデリング作用があるとされています。

副作用は何といっても徐脈でいきなり大量を投与すると徐脈による弊害が現れます。

できるだけ少量から開始し、できるだけ少量ずつ増量し、できるだけ大量に用いることが原則とされています。

他に、最近開発されたイバブラジンにもリバースリモデリング作用があるとされています。

このリバースリモデリング作用は患者さんにとっては実感はなく、内服したからと言って急に楽になるわけではありませんから「見えないゴール」を目指して治療することになります。

心不全治療は短期的に症状を改善するだけでなく、長期的な展望が必要です。

 

 

心房細動は頻脈になるとそれだけで心不全を起こしうりますから心拍数が増えすぎないように治療しなければいけません。

用いる薬剤はβ(ベータ)遮断薬、ジギタリス製剤、カルシウム拮抗薬、陽イオンチャンネル阻害薬などの選択肢がありますが最も汎用されるのはベータ遮断薬です。

一口にβ遮断薬と言っても多くの種類がありベータ受容体のサブタイプ(β1とβ2)の選択性、内因性交感神経刺激作用の有無で分類されます。

一般にβ1選択性が高く内因性交感神経刺激作用のない脂溶性のものが効果を発揮し汎用されます。

β1受容体選択制の低い薬は気管支に分布するβ2受容体にも作用し副作用を起こす危険性があるので敬遠されるのですが、心臓に分布するβ受容体が100パーセントβ1であるというわけではなく、気管支に分布するβ受容体が100パーセントβ2受容体というわけもないので気管支喘息などのある方は慎重に使用しなければいけません。

また薬剤のβ受容体の選択性については動物実験の結果をもとに表記されているケースもみられますので、実臨床の場で用いられるのは経験的にカルベジロール・ビソプロロール・メトプロロールの3種類です。

この3種類のベータ遮断薬は心拍数を低下させるのみならず、心房から心室への伝導も抑制しますので心房細動の場合には好都合です。

さらに血圧を下げる作用もあり高血圧を合併する方には一石二鳥と言えます。

心不全に対してはリバースリモデリング作用(低下した心機能を回復させる作用)があることも証明されており心房細動のみならず心不全にも第一選択薬です。

 

 

 

収縮機能が正常な心不全には、拡張機能障害による心不全以外にも存在します。

脈が速すぎる場合、脈が遅すぎる場合、ホルモンの異常で体液バランスが崩れる場合など決して稀ではありません。

特に脈拍の早い心房細動は要注意です。

心電図中の鋭く高い波はQRS波と呼ばれますが、心室が収縮し血液を送り出す時相です。

このQRSの幅(収縮期)は脈拍によって変化しませんから脈拍が多くなると相対的に拡張期の時相が短くなります。

心房細動では左心房の収縮が無くなり心室に血液を押し込む力が無くなりますので、心室への流入が減ります。

左心室へ血液を押し込む力が失われているうえに、拡張期の時間が短くなると心室に十分の血液が流入しにくくなります。

ですので心房細動では心室の収縮能が正常でも、脈が速くなるとそれだけで心不全を起こしうります。

特に左心室への流入障害のある場合、僧帽弁狭窄症や心室肥大などでは頻脈には要注意です。

 

左心室の機能を測る上で大切なのが拡張機能です。

収縮機能は左心室がポンプとしてどの程度血液を駆出する力があるかを測る、いわばポンプとしての能力です。

一方、拡張機能は左心房から左心室への血液の流入のしやすさです。

左心室への血液の流入は

・拡張早期

・心房収縮期

の二相に分かれます。

収縮を終えたばかりの左心室が自然に拡張する時点で左心房ー左心室間の僧帽弁が開き血液が流入します(拡張早期)。

そして、左心房から左心室への血液の流入が終わったころに、左心房が収縮しさらに左心室に血液を押し込みます(心房収縮期)。

一般には流量は

拡張早期>心房収縮期

ですが、左心室が硬くなり広がりにくくなると

拡張早期<心房収縮期

となります。

これは超音波検査で簡単に調べることができます。

この左心室の拡張機能障害は、高血圧や心筋症あるいは大動脈弁狭窄症のために左心室の筋肉が肥厚した状況などでみられます。

収縮機能の維持された心不全(HFpEF:ヘフペフ)はこういう状態で、分かりやすく言うと左心室に血液が流入しにくくなってその手前の肺に血液が渋滞を起こしている(肺うっ血)ことです。

「拡張機能障害による肺うっ血」と呼べば分かりやすいと思うのですが、なぜが学会では「収縮機能の正常な心不全」と呼ばれます。

 

 

心臓には左心室・右心室・左心房・右心房と4個のポンプがありますがその中で左心室は全身に血液を送り出す役割を持った最大のポンプです。

例えば慎重170センチの方が立っている時に血液は左心室から両足まで送られ、さらに100センチ以上のの高さを登って心臓まで帰ってくるのも左心室の力です。

凄い力ですね。

ですので心機能の測定は一般に左心室の機能を指します。

左心室が最大に拡張したときに100mlの容量があり、収縮末期に内宮が40mlだとしたら一回の収縮で60mlの血液を送り出したことになりますので、左室駆出分画は60%ということになります。

左心室の筋肉が劣化しこの駆出分画が例えば40%になると心不全ということになります。

全身が必要とする血液を供給できなくなりますから、疲労感・息切れ・ふらつきなどの症状がみられるようになります。

また左心室の手前で血液が渋滞を起こしうっ血が起こるので肺に水がたまったり足がむくんだりします。

これが「左室駆出分画の低下した心不全」でHFrEF(Heart Failure reduced Ejection Fraction)と省略され「ヘフレフ」と呼ばれたりします。

原因疾患としては拡張型心筋症・心筋梗塞・心筋炎などがあります。

 

心不全は一般の方が想像しているよりずっと頻度の高い病気でずっと恐ろしい病気です。

一旦心不全と診断された方の予後はがん患者の予後に劣ります。

もちろん原因が何かによるのですが、一つの分類方法に左室駆出分画があります。

左室駆出分画(EF:Ejection Fraction)とは左心室が拡張したときの何パーセントを心臓から送り出すかの割合です。

左心室が拡張期に100mlの容量があり、収縮によりそのうち60mlを心臓から拍出したら左室駆出分画は60%という意味になります。

一般に50%以上が正常とされていますが、心不全の場合この左室駆出分画が低下している場合が多く、その数字によって左心室の収縮能が推定されます。

左室駆出分画が低下するとそれだけ心臓のポンプとしての機能が低下し全身に必要な血液を送り出せなくなります。

倦怠感やふらつき、四肢冷感に呼吸困難感が代表的な症状です。

この左室駆出分画は超音波検査で簡単に調べるとこが可能です。