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睡眠時無呼吸症候群は主に肥満の方に多く日中の眠気が強く時として交通事故の原因になることから注目を浴びました。

実はこの睡眠時無呼吸症候群は高血圧の原因にもなります。

無呼吸時事には著明な血圧上昇があるのですが、その際の交感神経の過剰活性化が日中まで持ち越され早朝高血圧や治療抵抗性高血圧の原因になることもあります。

こういう方は脳卒中の発症が多いことが分かっており、治療が必要です。

内服薬でどうしても十分低下しなかった高血圧が持続陽圧呼吸療法で正常化することもあります。

高血圧で肥満傾向の方は夜間のいびきに注意してみてください。

 

糸球体過ろ過が持続するとブレナーのハイパーフィルトレーション・セオリーに従い糸球体濾過率は低下し腎不全に向かいます。

このような腎機能低下は糖尿病以外にも高血圧による動脈硬化でも起こります。

病理的には糸球体硬化症と呼ばれ臨床的には腎硬化症と呼ばれます。

実はこの腎硬化症は今日では極めて多くみられます。

但し、腎硬化症には糸球体硬化症以外にも、糸球体輸入細動脈直前の動脈の硬化が原因の場合もあります。

ストレイン・ベッセルと言われるこの血管は太さが数ミリメートルしかないにもかかわらず、大動脈と大して変わらない圧力がかかります。

そのため動脈硬化を起こしやすく、これが原因で腎機能が悪化するケースもあります。

一般には糸球体の過ろ過の場合にはアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアルドステロン受容体拮抗薬を処方するのですが、このストレイン・ベッセルの硬化の場合には逆効果になりますので注意が必要です。

こういう場合にはカルシウム拮抗薬が最適です。

 

暑さが厳しくなってむしろ低血圧で体調を崩す方もお見受けするようになりました。

特に急に立ち上がった時などに一過性の低血圧をおこしめまいやふらつきを自覚することもあると思います。

起立性低血圧とは急な立位で一時的に血圧の維持ができなくなることで、高血圧と同時に併存する可能性もあります。

原因は自律神経の異常(例えばパーキンソン病や単なる体質)、降圧剤の影響、脱水などがあります。

降圧剤内服中の方は慌てて降圧剤を中止するのは危険で、夏場になって常に血圧が低くなっているのかそれとも一過性のものなのかを十分見極める必要があります。

昇圧剤を必要とするケースはむしろ稀で、涼しい部屋で十分の水分を摂取し臥位で休養すると回復します。

ただ、常に低血圧が持続する場合には降圧剤の減量・中止も検討する必要があります。

実際には昇圧剤を必要とするケースはまれで、十分な睡眠や水分補給で軽快することが殆どです。

 

心房細動は頻脈になるとそれだけで心不全を起こしうりますから心拍数が増えすぎないように治療しなければいけません。

用いる薬剤はβ(ベータ)遮断薬、ジギタリス製剤、カルシウム拮抗薬、陽イオンチャンネル阻害薬などの選択肢がありますが最も汎用されるのはベータ遮断薬です。

一口にβ遮断薬と言っても多くの種類がありベータ受容体のサブタイプ(β1とβ2)の選択性、内因性交感神経刺激作用の有無で分類されます。

一般にβ1選択性が高く内因性交感神経刺激作用のない脂溶性のものが効果を発揮し汎用されます。

β1受容体選択制の低い薬は気管支に分布するβ2受容体にも作用し副作用を起こす危険性があるので敬遠されるのですが、心臓に分布するβ受容体が100パーセントβ1であるというわけではなく、気管支に分布するβ受容体が100パーセントβ2受容体というわけもないので気管支喘息などのある方は慎重に使用しなければいけません。

また薬剤のβ受容体の選択性については動物実験の結果をもとに表記されているケースもみられますので、実臨床の場で用いられるのは経験的にカルベジロール・ビソプロロール・メトプロロールの3種類です。

この3種類のベータ遮断薬は心拍数を低下させるのみならず、心房から心室への伝導も抑制しますので心房細動の場合には好都合です。

さらに血圧を下げる作用もあり高血圧を合併する方には一石二鳥と言えます。

心不全に対してはリバースリモデリング作用(低下した心機能を回復させる作用)があることも証明されており心房細動のみならず心不全にも第一選択薬です。

 

 

 

糸球体という血液を濾すろ紙に過剰なろ過を強いるとろ紙が目詰まりを起こして腎機能が低下するという説はブレナーという医学者により提唱されハイパーフィルトレーションセオリーと呼ばれます。

私が研修医の頃にブレナーの講演をビデオで見たことがあります。

もちろん英語での講演なのですが、医局の先輩方は話を聞きながらウンウンとうなづきながら感心して聞いておられ、その横で英語力のない私は分かったふりをしながらうなづいていました。

内容は後日日本語に翻訳された内容を読んで理解したという情けない思い出ですが、今日でもこのセオリーは腎機能を保護するうえで基礎となるものです。

糸球体過ろ過を抑制する代表的な薬剤はアルドステロン受容体拮抗薬ですが、実は最近糖尿病の治療薬であるSGLT2阻害薬にも腎機能保護の作用があることが大規模臨床研究から証明され臨床にも利用されています。

しかし、開始時に一過性の腎機能低下がありますので処方には注意が必要です。

昨今ではいろんな薬剤の効能は大規模臨床研究により判明し臨床応用されることが殆どなのですが、本当はなぜその薬剤がその効果を持つのかを解明するべきと私は思うのですが現実にはそうではありません。

その薬剤の作用機序を十分解明することが後手に回っていることが残念です。

 

腎臓の糸球体は血液を濾して尿を作るろ紙のような構造なのですが、過剰なろ過を続けるとろ紙が目詰まりをおこしてしまい、いったん目詰まりをおこした糸球体は回復しません。

目詰まりをおこして機能を失った糸球体が現れると、ほかの糸球体にその分の負担がかかり過ろ過になりその糸球体も目詰まりをおこし・・・、といった具合に糸球体は徐々に減っていきます。

ですので、腎機能低下が危惧されるケースでは早期から糸球体濾過を下げる工夫が必要です。

糸球体の過ろ過を下げる方法はいくつかありますが、一つは糸球体の輸入細動脈を収縮させ輸出細動脈を拡張させることによって糸球体の濾過圧を下げる方法です。

こういう作用を持った降圧剤がアンジオテンシン変換酵素阻害薬またはアルドステロン受容体拮抗薬です。

糖尿病の方で蛋白尿も見られないが血液検査をすると糸球体濾過率が正常を大きく上回る方がおられます。

正常を上回るのだから良いのかというとそうではなく、この状況が継続するといずれ腎機能が低下してきます。

こういう段階から腎機能を守る工夫をしておかないと手遅れになることになります。

 

 

大動脈は左心室から出る太さ2~3cmもあるゴムホースのような血管です。

その中の圧力はご存じのように上腕で測定する血圧と同じで120mmHg 程度です。

mmHgというのは水銀をどの程度の高さまで押し上げるかという意味ですが、水銀の比重は13.6ですので120mmHgは水柱で換算すると1,632mmH2Oになりますので120mmHgの血圧の動脈を針で刺して穴をあけると1m63cmの高さまで血液が噴き出すことになります。

凄い圧力ですね。

腎臓は大動脈から数cmしか離れていないのに分岐を繰り返し糸球体という極めて細い血管になります。

糸球体はひとつが0.1~0.2mmの大きさの細い血管の塊で片方の腎臓に約100万個存在します。

大動脈→腎動脈→葉間動脈→弓状動脈→輸入細動脈→糸球体→輸出細動脈と分岐を繰り返し糸球体に血液を供給しますが、

大動脈の圧力を120mmHgとすると、輸入細動脈は70~80mmHg、輸出細動脈は20~30mmHg前後ですので、即ち糸球体の血管にかかる圧力は50mmHgということになります。

0.1mmの細い血管の塊にこんなに高い圧力がかかっているとは驚きですね。

 

 

 

高血圧治療の目的は脳卒中・動脈硬化症や腎不全といった臓器障害を未然に防ぐためです。

ですので単に血圧を下げること以外にも、守るべき臓器によって降圧剤の選択は異なります。

全ての高血圧は同じ薬でOKというわけにはいきません。

腎臓に不安のある場合は全身血圧のコントロール以外に糸球体ろ過圧に対する配慮が不可欠です。

 

腎臓は糸球体という小さな濾紙で血液をろ過して尿を作る臓器で、一つの腎臓には約100万個の糸球体があります。

糸球体には輸入動脈から血液が流れ込み、輸出動脈から血液が出ていきますので輸入動脈と輸出動脈の圧の差がろ紙にかかる圧でその圧が高いほど多くろ過されます。

 

腎障害は一旦発症すると徐々に進行する運命にあります。

これはどういうことでしょう?

腎障害というのは多くの場合糸球体の障害で、糸球体のろ紙が目詰まりを起こしていることに例えられます。

例えば100万個の糸球体のうち1万個が目詰まりをおこすと、残りの99万個の糸球体でそれまでと同じ仕事をこなさなくてはなりません。

すなはち腎障害が少しでもおこれば残りの糸球体にしわ寄せがかかり、残った一つ一つの糸球体はそれまでより多くのろ過をしなければならなくなります。

Hyperfiltration Theory という有名な説があり、残った糸球体が過ろ過を続ければその糸球体のろ紙も目詰まりをおこしてしまうという説です。

ですので一旦糸球体障害が起これば残りの糸球体に過ろ過がおこり、次々に糸球体が目詰まりをおこして腎障害が進行していくというわけです。

1万個の糸球体の障害の場合には残った糸球体の仕事は約1%しか増えませんが、50万個の糸球体が障害を受けた場合には残った糸球体の仕事量は倍になります。

ですので、腎障害は進行すれば進行するほど進行する速度が速くなります。

 

 

 

 

 

左心室の機能を測る上で大切なのが拡張機能です。

収縮機能は左心室がポンプとしてどの程度血液を駆出する力があるかを測る、いわばポンプとしての能力です。

一方、拡張機能は左心房から左心室への血液の流入のしやすさです。

左心室への血液の流入は

・拡張早期

・心房収縮期

の二相に分かれます。

収縮を終えたばかりの左心室が自然に拡張する時点で左心房ー左心室間の僧帽弁が開き血液が流入します(拡張早期)。

そして、左心房から左心室への血液の流入が終わったころに、左心房が収縮しさらに左心室に血液を押し込みます(心房収縮期)。

一般には流量は

拡張早期>心房収縮期

ですが、左心室が硬くなり広がりにくくなると

拡張早期<心房収縮期

となります。

これは超音波検査で簡単に調べることができます。

この左心室の拡張機能障害は、高血圧や心筋症あるいは大動脈弁狭窄症のために左心室の筋肉が肥厚した状況などでみられます。

収縮機能の維持された心不全(HFpEF:ヘフペフ)はこういう状態で、分かりやすく言うと左心室に血液が流入しにくくなってその手前の肺に血液が渋滞を起こしている(肺うっ血)ことです。

「拡張機能障害による肺うっ血」と呼べば分かりやすいと思うのですが、なぜが学会では「収縮機能の正常な心不全」と呼ばれます。

 

 

ほとんどの高血圧は「原因のない」本態性高血圧と言われますが、実際には複数の遺伝因子と生活環境が関与する多因子疾患です。

遺伝子要因は、それを持っている人は持っていない人に比べて高血圧の発生が高いのですが単純に血圧を上昇させるというより食塩感受性を亢進させる影響が大きいと言われています。

個々の遺伝子を操作することはできませんが、その遺伝子を持っていても塩分制限などの生活習慣の改善で高血圧の発症を防ぐことは可能です。

言い換えるとどんなにたくさん塩分を摂取しても血圧の上昇しない体質は獲得できませんが、塩分摂取量を制限することで血圧を下げることは可能です。

一方稀な遺伝子変異により引き起こされる特殊な高血圧も存在しますが実際には極めてまれです。

リドル症候群・ゴードン症候群・ミネラルコルチコイド過剰症候群・家族性アルドステロン症・11β水酸化酵素欠損症などです。

これらは高血圧以外に電解質異常や男性化などの特徴的な症状があります。

本態性高血圧の場合には体質を変えることは困難ですが、塩分摂取制限などの生活習慣改善は可能です。