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私が研修医の頃は「慢性腎臓病」という表現はありませんでした。

腎臓病の表記は、「メサンギウム増殖性糸球体腎炎」「膜性腎症」「巣状糸球体硬化症」などと言った病理所見に基づいた病名がメインで各々の病型に応じて治療がなされており目標は透析回避でした。

いかにして腎機能を保護し末期腎不全になるのを予防するかということに重点を置いた治療をしていました。

その後多くの腎疾患、特に糸球体疾患の予後規定因子は腎不全ではなく脳血管疾患であるというデータが示されました。

すなはち、腎疾患のある方は末期腎不全に陥って命を失うよりむしろ脳卒中や心臓病などの病気で命を脅かされるということが判明し「慢性腎臓病」として脳血管疾患予防に重点が置かれるようになりました。

さらにその後、腎機能低下とは全く別に、蛋白尿の存在そのものが脳血管疾患の独立した危険因子であるということが示され今日では慢性腎臓病は腎機能の程度と蛋白尿の量で病状が示されます。

そして、この蛋白尿の有無は降圧薬の選択に大きく影響します。

糖尿病を合併するかしないかに関わらず、蛋白尿のない慢性腎臓病にはアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアルドステロン受容体拮抗薬の有効性は示されていません。

そして今日でもやはり病型によっては腎機能保護のためにステロイドホルモンや免疫抑制剤が必要となることもあります。

一概に「慢性腎臓病」で片づけるのは危険ではないかと常々考えており、原疾患は何かを推定しながら診療をしています。

糖尿病の方の腎機能低下が全て糖尿病性腎症ではありませんし、高血圧の方の腎硬化症にも障害部位は複数推定されうります。

全ての腎臓病を「慢性腎臓病」とひとくくりにして扱い、全ての症例にアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアルドステロン受容体拮抗薬を投与することは危険だと最近よく考えます。

 

 

一般的に蛋白尿とは尿中の蛋白が0.15g/日と定義されることが多く、これは一般の試験紙法でも検出可能となり始めるレベルです。

もし糖尿病の患者でこれが認められると「糖尿病性腎症」ということになり、高血圧を合併する方ではアンジオテンシン受容体拮抗薬の絶好の適応となります。

ただし、このレベルの腎症では非可逆的で蛋白尿は陰性化しません(減少はします)。

さらに早期の腎症を検出するには尿中微量アルブミンという検査もあり試験紙法より感度の高い検査です。

尿中微量アルブミン尿のみが検出される時期の腎症でしたらアンジオテンシン受容体拮抗薬により微量アルブミン尿は陰性化する可能性もがあります。

但し、大規模臨床試験では「尿蛋白陰性の糖尿病ではアンジオテンシン受容体拮抗薬は腎不全進展抑制効果はない」とされています。

話がややこしくなりますが、「尿蛋白陽性」という段階ではもちろんアンジオテンシン受容体拮抗薬が推奨されますが、厳密にいうと「微量アルブミン陽性」以上でアンジオテンシン受容体拮抗薬が推奨されるということになります。

つまり尿中微量アルブミン陰性の場合はアンジオテンシン受容体拮抗薬の効果は認められないということになります。

結局のところ、アンジオテンシン受容体拮抗薬が推奨されるのは糸球体障害による腎症に限ると解釈されます。

 

 

 

 

現在発売されている腕時計型のカフレス・ウェラブル血圧計は、マンシェットで上腕の動脈を圧迫しマイクロフォンで動脈のコロトコフ音を測定する従来のものとは全く原理が違います。

カフレス・ウェラブル血圧計ではLEDの光の反射をフォトデテクタで検出し脈波波形を得ることによって、脈波伝達時間・パルス輪郭波形・加速度脈波法から血圧を推定するものです。

正確さについては日本高血圧学会で「誤差が大きく、実地診療で正確な血圧測定をすることは困難」とされています。

便利ではあるとは思うのですが、現在のところは医療にはお勧めできないようです。

 

睡眠時無呼吸症候群は主に肥満の方に多く日中の眠気が強く時として交通事故の原因になることから注目を浴びました。

実はこの睡眠時無呼吸症候群は高血圧の原因にもなります。

無呼吸時事には著明な血圧上昇があるのですが、その際の交感神経の過剰活性化が日中まで持ち越され早朝高血圧や治療抵抗性高血圧の原因になることもあります。

こういう方は脳卒中の発症が多いことが分かっており、治療が必要です。

内服薬でどうしても十分低下しなかった高血圧が持続陽圧呼吸療法で正常化することもあります。

高血圧で肥満傾向の方は夜間のいびきに注意してみてください。

 

糸球体過ろ過が持続するとブレナーのハイパーフィルトレーション・セオリーに従い糸球体濾過率は低下し腎不全に向かいます。

このような腎機能低下は糖尿病以外にも高血圧による動脈硬化でも起こります。

病理的には糸球体硬化症と呼ばれ臨床的には腎硬化症と呼ばれます。

実はこの腎硬化症は今日では極めて多くみられます。

但し、腎硬化症には糸球体硬化症以外にも、糸球体輸入細動脈直前の動脈の硬化が原因の場合もあります。

ストレイン・ベッセルと言われるこの血管は太さが数ミリメートルしかないにもかかわらず、大動脈と大して変わらない圧力がかかります。

そのため動脈硬化を起こしやすく、これが原因で腎機能が悪化するケースもあります。

一般には糸球体の過ろ過の場合にはアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアルドステロン受容体拮抗薬を処方するのですが、このストレイン・ベッセルの硬化の場合には逆効果になりますので注意が必要です。

こういう場合にはカルシウム拮抗薬が最適です。

 

暑さが厳しくなってむしろ低血圧で体調を崩す方もお見受けするようになりました。

特に急に立ち上がった時などに一過性の低血圧をおこしめまいやふらつきを自覚することもあると思います。

起立性低血圧とは急な立位で一時的に血圧の維持ができなくなることで、高血圧と同時に併存する可能性もあります。

原因は自律神経の異常(例えばパーキンソン病や単なる体質)、降圧剤の影響、脱水などがあります。

降圧剤内服中の方は慌てて降圧剤を中止するのは危険で、夏場になって常に血圧が低くなっているのかそれとも一過性のものなのかを十分見極める必要があります。

昇圧剤を必要とするケースはむしろ稀で、涼しい部屋で十分の水分を摂取し臥位で休養すると回復します。

ただ、常に低血圧が持続する場合には降圧剤の減量・中止も検討する必要があります。

実際には昇圧剤を必要とするケースはまれで、十分な睡眠や水分補給で軽快することが殆どです。

 

心房細動は頻脈になるとそれだけで心不全を起こしうりますから心拍数が増えすぎないように治療しなければいけません。

用いる薬剤はβ(ベータ)遮断薬、ジギタリス製剤、カルシウム拮抗薬、陽イオンチャンネル阻害薬などの選択肢がありますが最も汎用されるのはベータ遮断薬です。

一口にβ遮断薬と言っても多くの種類がありベータ受容体のサブタイプ(β1とβ2)の選択性、内因性交感神経刺激作用の有無で分類されます。

一般にβ1選択性が高く内因性交感神経刺激作用のない脂溶性のものが効果を発揮し汎用されます。

β1受容体選択制の低い薬は気管支に分布するβ2受容体にも作用し副作用を起こす危険性があるので敬遠されるのですが、心臓に分布するβ受容体が100パーセントβ1であるというわけではなく、気管支に分布するβ受容体が100パーセントβ2受容体というわけもないので気管支喘息などのある方は慎重に使用しなければいけません。

また薬剤のβ受容体の選択性については動物実験の結果をもとに表記されているケースもみられますので、実臨床の場で用いられるのは経験的にカルベジロール・ビソプロロール・メトプロロールの3種類です。

この3種類のベータ遮断薬は心拍数を低下させるのみならず、心房から心室への伝導も抑制しますので心房細動の場合には好都合です。

さらに血圧を下げる作用もあり高血圧を合併する方には一石二鳥と言えます。

心不全に対してはリバースリモデリング作用(低下した心機能を回復させる作用)があることも証明されており心房細動のみならず心不全にも第一選択薬です。

 

 

 

糸球体という血液を濾すろ紙に過剰なろ過を強いるとろ紙が目詰まりを起こして腎機能が低下するという説はブレナーという医学者により提唱されハイパーフィルトレーションセオリーと呼ばれます。

私が研修医の頃にブレナーの講演をビデオで見たことがあります。

もちろん英語での講演なのですが、医局の先輩方は話を聞きながらウンウンとうなづきながら感心して聞いておられ、その横で英語力のない私は分かったふりをしながらうなづいていました。

内容は後日日本語に翻訳された内容を読んで理解したという情けない思い出ですが、今日でもこのセオリーは腎機能を保護するうえで基礎となるものです。

糸球体過ろ過を抑制する代表的な薬剤はアルドステロン受容体拮抗薬ですが、実は最近糖尿病の治療薬であるSGLT2阻害薬にも腎機能保護の作用があることが大規模臨床研究から証明され臨床にも利用されています。

しかし、開始時に一過性の腎機能低下がありますので処方には注意が必要です。

昨今ではいろんな薬剤の効能は大規模臨床研究により判明し臨床応用されることが殆どなのですが、本当はなぜその薬剤がその効果を持つのかを解明するべきと私は思うのですが現実にはそうではありません。

その薬剤の作用機序を十分解明することが後手に回っていることが残念です。

 

腎臓の糸球体は血液を濾して尿を作るろ紙のような構造なのですが、過剰なろ過を続けるとろ紙が目詰まりをおこしてしまい、いったん目詰まりをおこした糸球体は回復しません。

目詰まりをおこして機能を失った糸球体が現れると、ほかの糸球体にその分の負担がかかり過ろ過になりその糸球体も目詰まりをおこし・・・、といった具合に糸球体は徐々に減っていきます。

ですので、腎機能低下が危惧されるケースでは早期から糸球体濾過を下げる工夫が必要です。

糸球体の過ろ過を下げる方法はいくつかありますが、一つは糸球体の輸入細動脈を収縮させ輸出細動脈を拡張させることによって糸球体の濾過圧を下げる方法です。

こういう作用を持った降圧剤がアンジオテンシン変換酵素阻害薬またはアルドステロン受容体拮抗薬です。

糖尿病の方で蛋白尿も見られないが血液検査をすると糸球体濾過率が正常を大きく上回る方がおられます。

正常を上回るのだから良いのかというとそうではなく、この状況が継続するといずれ腎機能が低下してきます。

こういう段階から腎機能を守る工夫をしておかないと手遅れになることになります。

 

 

大動脈は左心室から出る太さ2~3cmもあるゴムホースのような血管です。

その中の圧力はご存じのように上腕で測定する血圧と同じで120mmHg 程度です。

mmHgというのは水銀をどの程度の高さまで押し上げるかという意味ですが、水銀の比重は13.6ですので120mmHgは水柱で換算すると1,632mmH2Oになりますので120mmHgの血圧の動脈を針で刺して穴をあけると1m63cmの高さまで血液が噴き出すことになります。

凄い圧力ですね。

腎臓は大動脈から数cmしか離れていないのに分岐を繰り返し糸球体という極めて細い血管になります。

糸球体はひとつが0.1~0.2mmの大きさの細い血管の塊で片方の腎臓に約100万個存在します。

大動脈→腎動脈→葉間動脈→弓状動脈→輸入細動脈→糸球体→輸出細動脈と分岐を繰り返し糸球体に血液を供給しますが、

大動脈の圧力を120mmHgとすると、輸入細動脈は70~80mmHg、輸出細動脈は20~30mmHg前後ですので、即ち糸球体の血管にかかる圧力は50mmHgということになります。

0.1mmの細い血管の塊にこんなに高い圧力がかかっているとは驚きですね。