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高血圧は脳の血管の動脈硬化に大きな影響を及ぼしますので血管性認知症の危険因子となります。

ただし、その効果は治療する年代に大きく依存します。

若年期・中年期の高血圧は中年期・更年期の認知症の危険因子であることが分かっており、高血圧を早期に治療することが後年の認知症予防効果につながります。

一方、高齢期になって治療をした場合には予防効果は証明されておらず低血圧もむしろ危険因子とされています。

ですので、認知症予防には高血圧は若年・中年期からの治療が有用ということになります。

 

大動脈瘤の多くは無症状で健診などで偶然発見されるケースが多いのですが、いったん破裂すると救命は容易ではなく破裂の予防が極めて重要です。

大動脈瘤破裂予防に関して降圧が重要なのは疑問の余地がありませんが、その方法に関するエビデンスは案外多くはありません。

ガイドラインには収縮期血圧を105ー120に維持することが推奨されていますが、降圧による副作用がなければ破裂予防には血圧は低ければ低いほど良いのではないかとも思います。

確固としたエビデンスがあるわけではないのですが、降圧薬は一般的にベータ遮断薬が推奨されています。

 

 

 

脳梗塞や冠動脈疾患あるいは心房細動のため抗血小板薬や抗凝固薬を内服される方が増えています。

これらの薬剤は血管が閉塞するのを予防するのですが主な副作用は出血、特に脳出血です。

高血圧は抗血小板薬や抗凝固薬内服中の方が脳出血を発症する危険因子であることが分かっていますので、これらの薬を内服中の方は特に血圧の治療が重要です。

大規模臨床研究ではこれらの薬を内服中の場合、血圧を8.9/4.0低下させると頭蓋内出血の発症が46%減少しています。

現在のガイドラインでは抗血小板薬や抗凝固薬を内服中の場合には血圧を130/80未満にコントロールすることが推奨されています。

 

血圧の受診間変動とは、外来受診時に診察室で記録する血圧の変動のことで、受診間変動が多いいというのは受診するたびに血圧が大きく違うことを意味します。

例えば前回の受診時に診察室で測定した収縮期血圧が120であり、次回の時が140であった場合には受診間変動は20ということになります。

若年期の受診間変動は中年期の海馬容積(アルツハイマー病は海馬の萎縮です)に関連しますし、高齢者の受診間変動は認知症発症の予測因子であることが分かっています。

降圧剤の中でもカルシウム拮抗薬とアンジオテンシン受容体拮抗薬の2種がこの受診間変動を小さくするという報告があります。

 

ご家庭で血圧測定を続けておられる人はお気づきかもしれませんが一般に冬には血圧は上昇します。

もちろん気温が低下し血管が収縮することも要因の一つと推定されていますが、気温の低下する時期と血圧が上昇する時期は必ずしも一致しません。

一年で最も血圧が上昇するのは最も気温が低くなる時期の2~3週間前です。

単純な気温の変化以外にも日照時間や活動性、ホルモンの年周期との関連も推定されています。

高変動群(冬場の血圧上昇が大きい人)や逆転群(冬場にむしろ血圧が低下する人)では脳心血管疾患の発症が多く、季節変動を先取りした血圧の調節が有用であると考えられます。

 

高血圧患者では脳卒中や心臓病・腎臓病の発症が多いのはご存じの通りですが、自覚症状としては現れていなくても検査をすることによって既に高血圧性の臓器障害があることがわかる場合があります。

①脳:高血圧は脳卒中のリスク因子であるばかりでなく、認知症・うつ病のリスクにもなります。

これらはいずれも発症してしまってからでは回復が困難な場合が多く、頭部MRIや眼底検査で早期の臓器障害を検出することが可能です

②心臓:高血圧による心臓への負荷や心筋虚血には心電図・心臓超音波検査が有用です。

③腎臓:高血圧による腎臓への障害を調べるにはまず検尿をします。

④血管:動脈の硬化性病変には頸動脈や下肢動脈の超音波検査が有用です。

もしこれらの検査で臓器障害が検出された場合には速やかな高血圧の治療が必要です。

 

カリウムはナトリウムの血圧上昇作用を阻害し適度なカリウム補給だけで収縮期血圧が4~5低下するとされています。

また脳卒中の発生は3,500mg/日のカリウム摂取で最小となります。

現在の日本人の平均カリウム摂取量は2,400mg/日ですからほとんどの人がさらにカリウム摂取を推奨されるということになります。

カリウムは生野菜や果物に多く含まれます。

おやつに塩分や糖分を多く含むスナック菓子を食べることを止めて果物を食べることが良いのでしょうね。

 

 

血圧には季節性の変動があり夏場には低下することも珍しくありません。

血圧が下がり過ぎる場合には一時的に減薬や休薬を考慮することもあります。

降圧剤を中止した方で、一定期間後に再び降圧剤は必要になるケースは多くみられます。

降圧剤を再開せずにすむ方の特徴は

・臓器症状や検査異常など動脈硬化所見のない方

・若年者

・正常体重

・低塩分摂取

・非飲酒者

・1剤のみの内服

などです。

ですからこれらの特徴を持たない方の降圧剤中止は推奨されません。

 

脳梗塞は再発率の高い病気であり、再発予防には血圧管理が極めて重要です。

血圧を下げすぎるとかえって再発率が高くなるJカーブ現象があるのかについては未だに結論の出ていない難問です。

Jカーブ現象の存在を裏付ける論文も、存在を否定する文献もあります。

ただ、収縮期血圧120程度までは低ければ低いほど再発率は低いことが分かっています。

また、脳梗塞の既往のある場合には大きな脳血管に狭窄がある場合には下げすぎにも注意が必要となる場合もあります。

脳梗塞再発予防には抗血小板薬が処方されますが、副作用には出血があります。

抗血小板薬を内服中には脳出血の危険性も考慮しなければなりませんが、その場合には130/81がカットオフ値でこれを超えないようにすることが必要です。

 

少量の飲酒は数時間の血圧低下作用があります。

特に飲酒後入浴すると血圧低下が著明な場合もあります。

しかしながら習慣的な飲酒は逆に血圧上昇につながります。

実は脳出血はアルコール摂取量に比例し増加するのですが、脳梗塞や慢性腎臓病は少量の飲酒はかえってリスクを低下させることが分かっています。

酒は百薬の長ということわざもありますが、ある部分ではその通りです。

高血圧の方の場合にはエタノールで20~30ml/日以下が推奨され、これはおよそ

日本酒1合、ビール中瓶1本、焼酎0.5合、ワイン2杯に相当します。

女性の場合はこの半量が推奨される量です。