心不全の話 16 慢性腎臓病と心不全

心不全になると多くのホルモンや液性因子の働きで体液量が増加、すなはち心臓の前負荷が増大します。

初期はこの前負荷の増大で心不全は軽快する方向に動きます。

しかしながらある一定の状況を超えると体に余分な水分が貯留し下腿の浮腫や肺うっ血などの原因になります。

慢性腎臓病があると多くの場合体液貯留傾向にあることから心不全は悪化します。

ですので慢性腎臓病を合併する心不全は治療に難渋する場合も稀ではありません。

ところで、この慢性腎臓病という病名は私が研修医の頃はあまり馴染みのないものでした。

当時は慢性腎臓病という呼び方はせず、個々の腎疾患を病理診断名と臨床診断名の両方で呼ぶのが一般的で中にはこの両者が同じ名前の場合もあり慣れるまで混乱することもあったと思います。

病理名は例えば、膜性腎症、層状糸球体硬化症、メサンギウム増殖性糸球体腎炎や悪性腎硬化症などどいった具合です。

臨床診断名としては糖尿病性腎症、ループス腎炎、IgA腎症や悪性高血圧などどいった具合です。

その各々が予後も違えば治療方法も異なりますのでまず診断名をつけることから始まりました。

目標は透析回避でした。

ところが、その後これらの病気の方々は慢性腎不全で命を落とすよりむしろ合併する心血管疾患が生命予後規定因子であることが証明されました。

それ以来は個々の診断はさておいて慢性腎臓病という病名で一括に扱い心血管疾患予防に重点を置いた治療が中心となりました。

このことについて私は若干の違和感があります。

もちろん慢性腎臓病の方の心血管疾患予防は大切なことなのですが、個々の病型によっては腎不全になるものも存在しますし多くの慢性糸球体腎炎には各々に適した治療方法もあり腎機能悪化を食い止める方法がある場合もあります。

ですので、慢性腎臓病という呼び名はそれだけで終わってはいけないと思うのです。

今回は少々愚痴っぽい話でした。